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急がない人たちの人生。──『日本海 フェリーで旅する人生行路』をしゃべる

ドキュメント72時間を好きなふたりが勝手に番組についてあれこれしゃべるnote。今回は2024年6月28日に放送された『日本海 フェリーで旅する人生行路』です。

牛から樺太まで、フェリーに乗る理由

ほんだ 今回は新潟と小樽を結ぶ片道16時間かかる航路に密着した回です。半日以上もかかるので、ベッドがあったり露天風呂があったり。ゆっくり旅を楽しむ人もいれば、貨物輸送のトラックドライバーさんのように仕事で乗っている人もいる。そんなフェリーの実態が映し出されていた回でした。
やまぐちさん、こういう新潟と小樽を往復する船、知ってました?

やまぐち いや、まったく知らなかったですね。しかも、船の名前が「らべんだあ」っていうんですよね。あれ、いいなと思いながら観てました。今回乗っているのが、新潟に住んでいる人や小樽に住んでいる人が中心で、わりと地元感が強かったですよね。道内の方だと、「札幌に戻るところです」みたいな人も多かったし。

ほんだ そうそう。それに日本海だし、番組が撮影したときは天気がすごく良かったから、夕陽が沈む絶景とかを見ながら16時間を過ごすなら、かなりゆったりできるじゃないですか。実は僕、直近で八丈島行きのフェリーに乗ったことがあるんですけど、夜中めちゃくちゃ揺れるし、吐きそうになるわで大変だったんですよ。だから今回の番組で見たフェリーは「かなり恵まれた状況だったんだろうな」って思いました。酔わないから皆さん、エアロバイク漕いだり、飲み会したり、いろいろ楽しんでましたもんね。

やまぐち ああ、そうそう。エアロバイクを漕いでる人が出てきたり、友達同士で宴会したりしてましたよね。船酔いとかまったく感じさせない様子で。そもそも今回乗っている人たちの理由がいろいろだったけど、半分は「急いでない人」で、あとの半分は牛を運ぶトラックドライバーみたいな「必要があって乗ってる人」って感じでしたよね。
牛を運ぶ人たちは、途中で水やエサをあげる必要があるから、フェリーの途中で作業してて。それを仕事としてこなすんだけど、16時間は16時間でものびのび過ごしてる感じがすごく良かったですよね。

ほんだ うん、仕事といってもベテランの方々が専用のドライバールームや食堂で集まって、会社は違うけど仲間同士みたいに話していて。まさに「フェリーが彼らの職場」という感じでしたね。
あと、今回の番組で北海道の要素を強く感じたのが、「かつて樺太に住んでいて、引き上げ船で戻ってきた方の話を聞いた」というエピソード。ああいうお話って、なかなか普段聞けないじゃないですか。

やまぐち そうですよね。引き上げの話なんて、もう日本で聞く機会がほぼないですからね。それを船上の午前3時にたまたま聞いちゃうっていう、フェリーならではのドラマがありました。それでいて、同じ船に、自分の愛車のロードスターを運んで「北海道で走らせたい!」っていう若い女性・トラベルナースさんもいる。自分の車で各地を回りながら、看護師として短期勤務をして点々と旅をする生き方。さっきの引き上げを経験したおばあちゃんと対照的だけど、同じ船の中に共存しているのが面白かったですよね。

ほんだ わかります。そのトラベルナースの人、めちゃくちゃ生き生きしてましたよね。あと、牛を運ぶトラックドライバーたちも含めて、こういうフェリーって普段の「ドライブイン」回みたいに職業が限定されないんですよね。観光客も乗れば、仕事の人も乗る。しかも、車を自分で持って行きたいとか、牛を運ばなきゃいけないとか、それぞれ目的が違っていて、でも同じ空間に集まるっていうのが本当に不思議。いろんな人の人生をかいま見られて、72時間の魅力が詰まっていた感じがしました。

僕はこれまでフェリー回だと「津軽年越しフェリー」の回がすごく印象に残ってたんですけど、あちらは4~5時間の航路で、年末年始の規制ラッシュという特殊な状況が入ってました。対して今回の新潟–小樽は16時間という長時間ですから、過ごし方とか理由も全然違って。でもやっぱりフェリーだからこそ、人と人がふと話をするきっかけがあるというのは似てますよね。

やまぐち ほんださんが言うように、今回出てきた人たちって、いわゆる「会社勤めのサラリーマン」みたいな人よりも、なんとなく自由な暮らし方をしている印象が強かった。ドライバーもそうだし、トラベルナースもそう。やっぱり「陸路」からちょっと離れたところで生活してるというか。時間の使い方も違うんだろうなって感じました。

ほんだ そうですね。船旅って今、選択肢としてはなかなかマニアックになってきている気がしますし。でも、いくら新幹線や飛行機があるとはいっても、やっぱり「車やバイクも一緒に運びたい」っていう層は一定数いるからこそ、航路は続いていくんでしょうね。

やまぐち コンシェルジュ的なスタッフさんも出てきましたけど、いかにも「海上ホテル」のフロント係って感じで。あれも普通のホテルマンじゃなくて、なぜフェリーなのかっていうのをもっと聞いてみたかったなって思います。そういう意味でも、船内で働く人の話は、もっと掘り下げがあっても面白かったかもしれませんね。

“強制的なオフライン”を楽しむ

ほんだ でも問題は、「小樽に行く用事がそんなにない」という(笑)。いや、逆にそれを目的にするしかないですよね。自分のためだけにゆっくり時間を使って、船でのんびり移動するという。そう考えると、ちょっと旅上級者向けというか、贅沢な時間の使い方ですよね。

やまぐち 確かに。豪華客船みたいに莫大なお金がかかるわけじゃないけど、16時間をしっかりとれる人じゃないと厳しい。ただ、それができるなら、ある意味コスパもいいと思いますよ。露天風呂付きの“海上ホテル”でゆっくり過ごせるわけだから。

ほんだ そうなんですよ。車ごと乗せて3万円くらい、みたいな話もありましたもんね。ホテル代と移動費を合わたら、そんなに悪くはない。それをやるには時間が必要だけど、番組で出てきた方々は「自分のための時間」がちゃんと取れてる人ばかりだったのが印象的でした。現役を引退して時間にゆとりがあったり、トラベルナースで好きなところで働けるっていう自由さを持ってたり。

やまぐち うん。だからこそ「あなたはそういう時間を作れてますか?」っていう問いかけが裏テーマなのかな、なんて思ったりもしましたね。スマホの電波も途中で届かなくなるし、そういう“強制的にオフライン”になる環境を楽しめる人こそ、このフェリー旅を味わえるのかなと。

ほんだ そうですね。片道だけ乗って小樽を観光して、新幹線や飛行機で帰ってくるっていうのもアリだし。まさに贅沢な移動手段だと思います。僕も今回の番組観て「乗ってみたいな」って思いました。もちろん予定ないですけど(笑)。

やまぐち ほんとに、「いつか時間ができたら乗りたい」ですよね。でもまあ、それができるのって幸せだなぁと、改めて思いました。

(おわり)

Podcastでは毎週金曜にドキュメント72時間の感想をしゃべっています。ほぼすべての放送回についてしゃべっているので面白かった方はぜひ他の回も聴いてみて下さい(SpotifyやApple Podcast、YouTubeで配信中)


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