海辺の自然発生の墓地で──『お盆の鳥取 海辺の墓地で』について
ドキュメント72時間を好きなふたりが勝手に番組についてあれこれしゃべるnote。今回は2024年10月4日に放送された『お盆の鳥取 海辺の墓地で』です。
「自然発生墓地」の成り立ち
ほんだ 今回は鳥取県の海辺にある「花見潟墓地」という場所に3日間密着した回です。自然発生でできたといわれる、不思議なお墓が舞台になっているんですよね。夜になると無数の明かりが灯って幻想的な光景も見られる、そんな取材だったわけですが、やまぐちさん、どうでしたか?
やまぐち いやー、スピリチュアルな雰囲気がすごいというか、やっぱり「自然発生墓地」というワード自体、初めて聞きましたからね。この花見潟墓地は、本当に自然に生まれたみたいな立ち位置があって。いわゆる近代墓地との違いがすごく際立っていて、土地の歴史を知りたくなるような場所でした。
ほんだ 確かに入り組んでますよね。しかも宗教もいろいろで、クリスチャンのお墓があったり、謎の石のお墓があったり。鳥取という土地柄も相まって、“ここにしかない”感じが強い場所だと感じました。さらにお墓が舞台ということで、久々のスピリチュアル回だなあと。
やまぐち そうなんですよ。以前、恐山の回や、島根の黄泉比良坂を扱った回なんかもありましたけど、こういう土着的なスピリチュアル感ってやっぱり魅力的で。今回お盆に密着しているのもポイント高いですよね。お盆の取材って、実は2016年に長崎のお盆(爆竹の回)をやった以来じゃないかって思うんですよ。それくらい、意外と日本の夏・お盆を真正面から取り上げる機会が少ないので、新鮮でした。
日常に根ざしたスピリチュアル
ほんだ お盆は帰省シーズンですし、よその地域の送り火や迎え火を体験することって、意外とないですもんね。今回、夜になると海辺のお墓にロウソクの灯りが星空みたいに広がるっていうのは、すごく印象的でした。まだまだ知らない風習や場所があるんだなあって、びっくりしましたよ。
やまぐち そうなんですよ。石灯籠の中にロウソクを灯して、室町時代から続いているらしいと。本当に大昔から変わっていない風景がそこにあって、人工的だけど自然に近いというか、時代を超越した感じがありましたね。「なんか懐かしい」とかそういうレベルじゃなくて、スケールが違う。海沿いにあるお墓なんて、普通は都市計画的にはあり得ないじゃないですか。お寺の境内や高台にあるのが一般的なのに、ここはもう目の前が海。やっぱり、その土地ならではですよね。
ほんだ 本当にそう思います。地域によっては、自宅の敷地内にお墓があったり、いろんな風習があるとはいえ、海にここまで近いのは珍しいですよね。でも海は生と死の境目を感じさせる場所でもあるから、自然発生的にそうなったのもわからなくはない。それこそ、釣り好きだったおじいちゃんが「海が好きだから」とこの墓地を選んだり、奥さんの出身地が沖のほうで、ここから見えるんですよ、みたいなエピソードもあって。そういうロマンチックな要素も含めて、海に面した場所ならではの理由があるんでしょうね。
やまぐち そうなんです。しかも昭和中期までは土葬が一般的だったらしくて、掘り返したら以前埋めた方の遺骨が出てきた――なんてエピソードも出てきますよね。海が近いから散骨とかもあるのかなと思ったんですけど、たぶん昔は火葬場がなかったから、土葬が主流だったんでしょう。そういう過去の生活や習俗を強く感じられる風景が、まだ残っているっていうのが魅力だし、民族学的な匂いがプンプンしますね。今回の72時間は、まるで文化人類学的なテーマを見せつけられている感じでした。
ほんだ ほんとそうですよね。土地と人の生き方が深く結びついていて、それこそがスピリチュアルだなと。日常に根ざしたスピリチュアルな雰囲気が、今回の回では鮮明でした。72時間も回によって全然雰囲気が違うけど、この回は本当に土地の力が色濃く出てましたよね。
やまぐち ですよね。この場所じゃなきゃいけない理由があるというか。72時間でお墓がテーマといえば、樹木葬の回が思い浮かびますけど、あれって公園みたいな墓地じゃないですか。場所はどこでもいいから、現代の新しいお墓の形として受け入れられやすい。でもこの墓地は「ここじゃなきゃダメ」っていう、強い力を帯びた場所だと思いました。海という生命や死後を想起させる存在が、土地の力と結びついていて、ものすごくスピリチュアルに感じます。
ほんだ 樹木葬の回との対比、面白いですね。あっちは現代的な価値観を反映して「死と生をどう扱うか」を考えた結果、生きてる人にも馴染みやすい公園スタイルにしている。一方、この鳥取の自然発生墓地は、何百年も前からずっとそこにあって、町の人の暮らしと一体化していて、ゆかりのある人だけが入れる場所。選択肢としての「ここにしようかな」じゃなくて、「ここに生まれ、ここで死ぬ」みたいな流れを感じますよね。
やまぐち わかります。でも僕はここ、めっちゃ入りたいんですよ。今回見ていて「ここにお墓欲しいなあ」なんて思いましたもん。やっぱり海が見えてロケーションがいいし、自由で開放的というか。宗教的にもいろいろ混ざってるし、自然発生ゆえの大らかさがある。そういう意味でいうと、魅力的でしたね。
ほんだ 私は逆ですね。素晴らしい場所だけど、あの土地に根づいていない人が「ここに入りたい」って言うのは何だか違う気がして(笑)。そこに住み、生まれ育った人のためにある場所なのかなって思います。もっとも、移住して長年暮らしてそのまま…という選択肢はあるんだろうけど。
やまぐち それはあるかもしれません。実際、移住を考えてでも入りたい人がいるかもしれない。僕も思わず鳥取への移住サイトを見ちゃったんですよ。もちろん現実的にはいろいろハードルがあるでしょうが、それくらいユニークだし惹かれる場所でした。実際に足を運んでこの土地の空気感というか、霊力というか、気配を肌で感じてみたいですよね。
ほんだ 取材に登場した仕出し屋のおばちゃんも印象的でしたね。おうちも仏壇も大きくて、そこに亡くなった弟さんや旦那さんの写真が並んでいて。それこそ「土地に根付いた人生」を感じましたよね。そういう大きな仏壇やお盆の風習って、都会じゃ住宅事情もあって難しかったりするし、だんだん死が遠くなってる実感もあります。日本の行事って死者との交流がベースにあったりするけど、今はそういう習慣も薄れつつある。でもこの墓地ではずっと続いているわけですよね。
やまぐち そうなんです。だからオカルトとかパワースポットという“サブカル的なスピリチュアル”とはちょっと違う、暮らしの中に根ざしたスピリチュアルを強く感じました。昔から日本の原風景にはそういう要素があったと思うんですが、それがここにはまだ息づいている。今回、改めて「実際に行ってみたい」と思わされました。
ほんだ 近代化や都市整備の中で消えていったはずの“自然発生”の場所が奇跡的に残っている、ということ自体がすごいですよね。しかも自然災害にも大きく見舞われず、海辺にずっと残ってるという。あの辺り一帯は一つのコミュニティが強く結びついてるから、背景が映るだけで誰が誰かすぐわかる、なんてエピソードもありましたよね。だからモザイクがかかりまくりだったとか。
やまぐち そうそう、あの「実は引き揚げの際にもらわれた子なんです」ってお話しされてた方。周囲の風景が映ったら誰だかわかっちゃうから、背景も含めて全部モザイクになってましたね。それくらいの密度で人と土地が繋がっている場所だからこそ、外の人間には想像もつかない世界があるんでしょうね。
ほんだ 昭和中頃まで土葬してみんなでお墓を掘ったり、一族でずっとその土地に住み続けたり、今の都会の感覚とは全然違いますよね。だからこそ自然発生の墓地がまだ残っているし、それをずっと守り、毎年お盆には灯をともす風景が途絶えない。
やまぐち ええ、樹木葬の回のときは「散骨もいいよね、場所を持たなくても…」なんて僕言ってましたけど、花見潟墓地を見たらコロッと考え変わりました。やっぱり土地の力、海と隣り合わせの場所ってすごいなと。
ほんだ まあ、その気持ちはわかります。とはいえ、近しい人たちは大変ですよ。海辺の鳥取までお墓参りに来ないといけないし、3日間ロウソク灯す風習もありますしね。
やまぐち そうなんですよ。それでも「ここに入りたい」って思わせるだけの魅力がある。正直、歴史も風景も物語もぎゅっと詰まっていて、本当に不思議な力を感じますね。
ほんだ 今回の72時間、改めてすごく印象深い回でした。人と土地と死生観がこれほど密接に結びついている場所が、まだ日本に残っているんだなって、しみじみ思いました。
(おわり)