世界に貢献する日本発創薬へのヒント1/2-「千葉大生まれNY育ちのR-ケタミンさん(既に百億円プレイヤー)」
こんにちは。D3LLCの永田です。
日本発、世界の医療健康に貢献へ、を標榜する弊社ですが、出資先のサイアス社皆様の努力の結果、素晴らしい北米バイオVC様をリードに、21.3億円のシリーズB調達を実現致しました。京大CiRAの金子教授の世界最先端の研究とその可能性を信じ世界の患者さんに一日も早く可能性を届けたいという強い覚悟をもった経営陣の胆力の賜物です。これまで弊社からは取締役を出させて頂いており、今回もフォローオン出資は致しましたが、今後は実績豊富な北米投資家チームにバトンパスになります。
千葉大生まれNY育ちのR-ケタミンさん
上述のサイアス社は京都生まれの京都育ち。北米投資家に認められ、世界トップレベルの他家免疫細胞創薬技術をもって、これから北米市場に挑戦します。一方で、今回ご紹介したいのは、千葉生まれNY育ちの、R-ケタミンという、古くて新しい抗うつ剤候補です。
来歴
・2015年の千葉大橋本教授の論文。千葉大橋本教授のチームは、ケタミンの光学異性体であるR-ケタミンが治療抵抗性うつ病治療に有効であること、そしてそれは開発が先行する同じく抗うつ薬のS-ケタミンよりもよい薬になりうることを示唆する一連の研究をされていました
ケタミンについて:いわゆる乱用薬物(日本では麻薬及び向精神薬取締法の麻薬)。1962年に北米の製薬会社が合成して依頼、麻酔として使われてきていました。ケタラールとしてご存知かもしれません。さて、ケタミンのS体(S-ケタミン)が、2014年に治療抵抗性うつ病への有効性を持つことが示唆されました。それら知見を受け、J&J傘下のヤンセンファーマがスプレー式点鼻剤として開発、エスケタミンとして、2019年にFDA承認を受けました。
・2018年、千葉大は、北米NYのPerception Neuroscience(以下、Perception社)に、本研究の知的財産をライセンスしました
・2021年、大塚製薬は、Perception社より、日本国内でのR-ケタミンの権利を買い取ることを発表しました
公開情報の範囲にはなりますが、この来歴を数字でみていきましょう
■ 千葉大→Perception社
・2018年にPerception社は、アップフロント5.5万ドル(600万円)+年間特許維持料として年間4万ドル(440万円)を支払う契約にて千葉大からライセンスを受けた
・Perception社が千葉大に支払う成功報酬は、マイルストン報酬として最大1.2百万ドル(1.3億円)、販売ロイヤリティとして数%
■ Perception社→大塚製薬
・2020年に大塚製薬は、日本に限った権利に関して、アップフロント20百万ドル(23億円)を支払いPerception社からライセンスを受けた
・大塚製薬がPerception社に支払う成功報酬は、マイルストン報酬として最大合計115百万ドル(126億円)(開発成功時に最大49百万ドル(54億円)、販売開始時に最大66百万ドル(72億円))、販売ロイヤリティとして十数%
皆様、どのような感想をおぼえたでしょうか。
いろいろな示唆があると思います。
■ ビジネス視点でみれば...
1. 北米ベンチャーは、日本の大学から高々合計数千万円レベルで仕入れた化合物を、3年で、日本国内限定で、アップフロントだけで20億円以上で日本の製薬企業に売りました。販売までいけば更に120億円以上入ってきます。3年で100倍以上にしました。IRR900%超えでしょうか。めちゃくちゃうまい商売してますな!(後に述べるPerception社の創意工夫があったからですが)
■ 創薬視点でみれば...
1. 日本の研究もやはり世界の創薬に通用するね!
2. R-ケタミン?特許性ない化合物ですよね?どうやって医薬品にする?
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D3バイオヘルスケアファンドのtake away
1.日本の研究も世界に通用する
ATAI Life Sciences社(Perception社の親会社)のことをご存じでも、このシーズが千葉大発であったことを知っている方は多くはないようです。実は、このように、こっそりと日本の研究が世界で羽ばたいているケースはあります。日本でわかりやすくベンチャー化した上での成功件数よりも多いと思われます。
日本の研究には可能性があります。問題は、事業化する側の能力、特に我々ベンチャーキャピタルの能力不足であるような気がしてなりません。我々自身がレベルアップすることにより、更に、一つでも多くの日本発の医薬品が世界に提供できるはず。日々是精進、頑張らないといけない、という反省です。
冒頭の弊社投資先サイアス社にも大きく期待です。
サイアスが21.3億円調達、米国へ進出しグローバル開発競争に参戦
2. 特許性のない化合物をどのように開発投資対象となる医薬品にするか
アカデミアで低分子の創薬に向き合っておられる研究者の方々と意見交換をしていると、「既知化合物でスクリーニングして良さそうな化合物を得たのだけど、特許性がないので開発しようがないとVCや製薬企業に言われた。どうにかならないか」という相談をよく受けます。
アカデミアの場合、既存薬ライブラリを使われることも多く、そこで取れたヒットは魅力的です。なにせ、伊達に既存薬。安全性は担保されており、別の疾患に関しての有効性がある。非常に有望な候補薬と考えるのは自然な思考と思います。
今回のR-ケタミン(S-ケタミンも)ですが、特許性のない物質となります。ですが、J&JもPerception社も開発投資をしています。J&JのS-ケタミンは医薬品としての承認までなされました。特許のコアをどうするか、ですが、どうやら投与デバイス(経鼻)がコアのようです
ヤンセンファーマSpravatoエスケタミン点鼻薬取扱説明書より
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いかがでしたでしょうか。千葉大生まれ、NY育ちのR-ケタミンさんの活躍?日本の研究の可能性、そして、特許性のない物質の創薬開発のヒントを得られたのではないでしょうか。
そしてもしかしたら、ビジネスサイドの方には最もimpressiveだったのは、このようなディールを実現した、Perception社のスキルかもしれません。Perception社はATAI Life Sciencesという2018年にドイツで創業し、昨年NASDAQに上場したバイオベンチャーの小会社の一つです。ATAI Life Sciencesは興味深い会社です。学びが多い会社ですので、次回、軽くスポットライトを当てて見たいと思います。
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追伸
J&Jの治療抵抗性うつに対するS-ケタミン承認は、医薬品としての真価はこれから歴史が証明していくものの、業界では大きなニュースでした。なにせ、FDAが承認する期待の大きい抗うつ剤としては、プロザック(フルオキセチン)以来30年ぶりになります。プロザックの薬効は早くて数週間必要とされているようですが、S-ケタミンは速攻性が期待でき、数日以内での奏功も治験で示されているとのことです。本当に薬効があるのであれば、患者さんにとっては大きな福音となる医薬品かもしれません。(ただし、このあたりの中枢系疾患について、本当に化合物でアプローチすべきかどうかは、筆者個人的には中立的な立場を取りたいとは思っています)
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