パンデミック系ノクチルSSのネタ的な。
【これは何かという話】
数ヶ月前に、ふと、ワンシーンだけ思いついていたものの、話を広げられずに蒸していたSSのネタ的なものを、供養代わりに、文字起こしだけしてみた。
書きたかったシーンは、割と上手く書けたと思うんだけど、それ以外はさっぱり。プロデューサーの元に辿り着いたらどうなるのか。ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか。
執筆の神が降りてきて、いいアイディアが閃けば、書き足すかも。
とはいえ、先行きは見えないので、このネタを見て何か思いついた方とか、このネタを元にイラストを描きたいとか漫画を描きたいとか、そんな奇特な方がいらっしゃれば、自由に供養してやってください。
【以下、SS本編】
◆◇◆◇◆◇シーン1◇◆◇◆◇◆
「円香せんぱーい?あいつら、なんか近づいてきてない?」
背もたれに顎を乗せて後方を見ていた雛菜が、隣の円香にむけてそう呟く。
「こっちは、捨てられた車や瓦礫を避けながら、走りやすい道を選んで走る。あっちは、痛みも疲れも無視して、最短ルートで追いかけてくる。いずれ追い付かれるのはしょうがないんじゃない?」
抱えた銃器に弾薬を込めながら、雛菜の方を向きもせず、円香が応える。
「浅倉、もっと飛ばせる?」
「見様見真似の割には、だいぶテクってると自分でも思うんだけど、無理かな、これ以上は。安全運転だったしさ、プロデューサーは。スピードの出し方、よう分からん」
作業は止めずに問いかけた円香に、前方を睨み、硬い手つきでハンドルを操りながら、透が言葉を返す。
「まあ、あの人のを見てただけで運転できてるだけでも十分すごいし。実際、運転できるの浅倉だけだから、別に文句はない」
とはいえ、と、円香は目線だけで後ろを確認する。
「このままじゃ追い付かれるのも事実だし……はぁ、めんどくさいけど、しょうがない。浅倉、あっちのでかいビルの前で、一瞬止まって」
「左のマンションの方が高くて良いんじゃない?」
「オートロックっぽいでしょ、あっち。入れないと意味ない」
了解、と透が円香の指示したビルの方へハンドルを切る。
「降りたら、雛菜は左の群れ。私は、そこら辺の瓦礫で入り口を塞いでから、右と真ん中の奴ら行くから」
「えー、雛菜、せっかくなら右の可愛い方がいいー」
「我儘言わないで。あのデカいヤツに弾が通るの、雛菜の持ってるやつだけでしょ」
ちぇ〜っ、と雛菜は口を尖らせたが、それ以上はなにも言わなかった。
「ね、ねぇ……」
それまで、黙って俯いていた小糸が、ぼそりと声をあげる。
「3人とも、何の話をしてるの?み……みんなで一緒に、プロデューサーさんのところまで行こうって、約束したよね……?なのに、止まるとか、降りるとか……おかしいよ。な、何かするなら、みんなでっ……!!!」
「小糸」
どんどん早口になる小糸の言葉を、円香が優しく遮る。
「みんなで一緒に、あの人のところに行く。そのために、ちょっと先に行っててもらうだけ。だから、大丈夫」
「でもっ……ぴゃっ!!」
小糸がさらに反論しそうとしたところに、透が急ブレーキをかける。
「着いたよ、樋口」
「ん、ありがと。いける?雛菜?」
「円香先輩こそ、雛菜の邪魔しないでよね〜?」
言葉にならない声で抗議をする小糸を置き去りに、3人は着々と話を進め、円香と雛菜は、ドアノブに手をかけた。
「小糸、ちょっと行ってくるね。後から、追いかけるから……浅倉、小糸ちゃんのこと、頼むね」
「ん、任された」
「透先輩、小糸ちゃん、また後でね〜」
「ん、いってらっしゃい、雛菜」
それだけ言葉を交わし、円香と雛菜は車の外に飛び出す。再びドアが閉まる音を聞くや否や、透は再び、アクセルを踏み込んだ。
「だ、だめ、透ちゃん!戻って!2人のところに、戻らなきゃ……!」
小糸が、透に向かって叫ぶ。
「だめだよ、小糸ちゃん。『追いかける』って、樋口は言った。雛菜ちゃんは『また後で』って言った。だから、2人を信じてあげなきゃ」
そう言いながらも、ハンドルを握る手にそれまで以上に力が入っていることに、そして、その噛み締める唇に、透自身は、そして、小糸は、果たして気づいていただろうか。
「でも……でもっ……」
人気のないアスファルトの上を走り抜ける車の中に、小糸の嗚咽だけが響き続けた。
◆◇◆◇◆◇シーン2◆◇◆◇◆◇
「ちょっともう、動けないかも。しんど」
見覚えのあるコンビニの前。そこまで、足を引きずりながら小糸の後ろを歩いていた透が、そう言ってその場に座り込んだ。
「と、透ちゃんっ、頑張って。左側、私が支えるからっ……」
透の左脇を抱え上げようとする小糸を、しかし透は遮った。
「小糸ちゃん、ここらから事務所への道、覚えてるよね?ごめんだけど、あと、任せていいかな?」
「だ、ダメだよ、透ちゃん……一緒に行こうよ……」
小糸は、透の意思を無視して、腕を引っ張り立ち上がらせようとする。
「それじゃ、間に合わないから」
自分の脚を指さして、透は言葉を続ける。
「1人なら、ここで、ろーじょう?出来るから。待ってるからさ、ここで。迎えにきてよ、プロデューサーと」
透は、自分を掴む小糸の手のひらを、そっと撫でた。
「ず……ずるいよ、透ちゃん……」
「ごめんね、小糸ちゃん。大変な役目、お願いしちゃって」
「……約束、だよ?絶対に、待っててよ?透ちゃん、いつもフラッとどっかに行っちゃうんだから……」
「ん、約束する。絶対」
そう返す透を数十秒見つめ、小糸は無言で、駆け出した。
◆◇◆◇◆◇シーン3◆◇◆◇◆◇
何故、こんな事になってしまったのだろう。
これまで、3人に置いていかれないように、一生懸命、後を追いかけていた。
けれど、それは、3人と同じ場所に居たかっただけ。別に、3人を追い越したかった訳じゃない。決して、3人を置き去りにしたかった訳じゃない。
なのに・・・
『後から、追いかけるから』
『またあとでね』
『待ってるからさ、ここで』
3人の声が、耳から離れない。
ここには居ない、私が置いてきてしまった3人の声が。
リフレインするその言葉を、嘘にしないために、大好きな3人を、嘘つきにしないために、私は、必死で脚を動かす。
走るのは得意じゃないけど、レッスンのおかげで、少しは体力がついたから、頑張れる。
数日前まで、毎日のようにみんなで通っていた道を、今は1人で走る。あの日常に、4人で戻るために。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【あとがきに変えて】
雛菜には、ロケランとか似合うと思うんですよ。
最初に浮かんだのは、
「えー、雛菜、せっかくなら右の可愛い方がいいー」
「我儘言わないで。あのデカいヤツに弾が通るの、雛菜の持ってるやつだけでしょ」
のシーンでした。
文句を言いながらも、背中を預け合う雛菜と円香。ひなまどはいいぞ。
から始まり、こういう世界なら、最後まで残るのは小糸ちゃんだよねー、という感じです。
小糸ちゃんの誕生日にUPするということで、最後の小糸ちゃんのモノローグだけは、新しく考えました。
上手く広げられれば、面白い話になりそうなんだけどなー。
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