3億丁も出回ってるから規制できない!? 銃撃犯の侵入に備えて避難訓練!――米国のスクールシューティング
――銃規制を厳しくしようとしているバイデン政権下でも、学校での銃乱射事件、俗に言う「スクールシューティング」はなくならない米国。まるで、風物詩のように、毎年定期的に教育現場でのシューティングは発生しているが、学校側はどのような対策を取っているのだろうか?
SWATがロックダウン・ドリルに参加してくれているそうなのだが、これはトラウマになるのでは?(写真/Paul Harris/Getty Images)
1992年の「日本人留学生殺害事件」をきっかけに、米国の銃社会問題は日本でもクローズアップされるようになったが、一方で米国内では、99年に39人の死傷者を出した「コロンバイン高校銃乱射事件」が発生して以降、学校内での銃犯罪を指す「スクールシューティング」が問題視されるようになった。
スクールシューティングは全米各地で毎年発生しており、海軍大学院付属の国土安全保障センター(CHDS)が発表した統計によると、その件数は調査を開始した70年代から年間2桁で推移していたものの、2018年からは急激にペースが上がり、年間3桁が続いている。
このような状況から、全米の教育機関では「銃で武装した生徒が襲撃してきた」という想定のもとで避難訓練を行っているが、州によっては教師が銃を所持したり、銃撃の訓練を始めた地域もある。
「まず前提として法律が違いますから、米国人の銃に対する感覚は日本人と真逆です。例えば、日本で銃が犯罪に使われることはまれですが、米国では日常茶飯事ですから、家族の人数よりも多く銃を所持している家庭も多いと聞きます」
そう語るのは、これまで日本人留学生射殺事件やコロンバイン高校銃乱射事件などを取材してきた国際ジャーナリストの大野和基氏。同氏は続ける。
「例えば、米国で家に強盗が侵入してきたとします。犯人は高確率で銃を持っていますし、たとえ殺してしまっても正当防衛が認められれば100%無罪になるとわかっていますから、銃を持っているなら自分や家族を守るために躊躇なく撃ちますよね。中高生たちもそういったニュースを日常的に見ていますから、中には『人を撃ち殺したのに無罪になった』という部分だけに注目する子も現れるのではないでしょうか。18年にフロリダ州の高校で生徒・教職員の合わせて17名の死者を出す乱射事件が起こりましたが、その際に息子を殺された父親も『銃を所持する権利は誰もが憲法で保障されている』という部分には同意していました」
このように、銃との共存が求められる社会ではあるが、ジョー・バイデン大統領率いる民主党のように、銃社会をよしとせず、規制を唱える勢力も当然ながらいる。しかし、そんな思いとは裏腹に、バイデン政権が誕生してから、銃の売り上げは増加しているという。連邦政府の銃器購入者データによると、米国で銃器の売り上げが急増するのは、乱射事件の頻発や民主党出身の大統領が誕生するなど、銃規制の強化をにおわせる社会的な背景が生まれたタイミングだとしている。このことについて、『〈犯罪大国アメリカ〉のいま 分断する社会と銃・薬物・移民』(弘文堂)などの著書がある成蹊大学の西山隆行教授は、次のように解説する。
「バイデン政権は銃規制を徹底する意向ですが、それに反発する人たちが積極的に銃を入手しようとしている動きがあります。もともと社会に不満を抱えている人たちが多かった国内状況も相まって、銃の利用を正当化する人々が増えているような印象を受けます。銃規制を強化しようとする議論が浮上するたびに、それに反発する勢力が必ず出てくるのが興味深いと思います」
銃規制に反対する勢力の代表格といえば、全米ライフル協会(NRA)である。その会員数は400万人を超えるといわれるほか、武器メーカーや政治家との関わりも深く、豊富な資金力と強固な組織力をもって、これまであらゆる銃規制の動きを封じてきた。この実績から「全米最強のロビイスト団体」とも形容されたNRAだが、なんと今年1月に破産申請を出し、登記先をニューヨークからテキサスへ移転させることを表明している。一体どういうことなのか?
「米国の中でも、銃規制に積極的な州とそうでない州があります。ニューヨークは都市部の発言力が比較的強い州なので、銃規制推進派が多いのです。というのも、都市部であれば不審者がいればすぐに警察を呼べますが、農村部では隣の家まで車で20~30分かかる――なんてことはザラですし、警察が来るのを待っていられないので、自衛のために銃が必要と考える人々が多いわけです。かつてのニューヨーク市長で大統領選にも立候補していたルドルフ・ジュリアーニ氏は共和党で銃規制反対派でしたが、そんな彼ですら市長時代は『ある程度の銃規制は必要』と言っていました。さらに、ジュリアーニ氏の後継市長であるマイケル・ブルームバーグ氏は、銃規制推進派の中心人物でもあったので、NRAもこのままニューヨークに拠点を置き続ければ、かねてから噂されていた資金流用問題などを追及されかねない……という危機感があったといいます」(同)
さらに、ブルームバーグ氏の後を継いだ現市長のビル・デブラシオ氏も、銃規制推進派だ。そして20年8月、ニューヨーク州の司法省は「組織の資金が流用されている」としてNRAの解散と賠償を求め、州裁判所に提訴した。恐れていた事態が現実となったのである。そう考えると、農村部が強いテキサスへの移転は、理にかなっているともいえよう。
「以前ほどの圧倒的な資金力はないかもしれませんが、破産するほど財政状況が悪いとも思えない団体ですので。銃規制に対する反対派としての活動が今後も続くのは、間違いないと思います」(同)
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