skrew kidというアーティスト
2005年、
当時の僕はフリーターという肩書きをいいことに、フラフラとしていた。音楽(ラップ)をしていて、本気でそれでお金を稼ぎたいと考えてはいたものの、実際にはアルバイトと家の往復がメイン。週に1~2回クラブに遊びに行っては、仲の良い友だちとお酒飲んで、今日も楽しかったーと1週間2週間…と時間が過ぎていく。。。今こうして文章にすると、どうしようもなくダラケて見えるが、実際に本当に楽しい時間だった。
そんな時に出会い、お世話になったのがTHANKSGIVINGという音楽レーベルだった。もともと遊びに行っていたクラブの紹介で、当時の僕は何となく勢いだけがいっちょ前で、そんな僕に声をかけてくれて、紹介してもらったのがキッカケだった。
THANKSGIVINGはインディペンデントレーベルで、2005年当時のリリース作品は過去に2タイトル、
・ALL OF THE WORLD / the dance we do
・asana / ini apa?
どちらもグッドミュージックだ。そんなレーベルの第3作目が、
skrew kid / speak slowly
だった。
すっかりTHANKSGIVINGにお世話になっていた(寄生していた?)僕は、レーベルというもの、そして実際にどのように音楽が販売されるのかなどにもすごく興味を持っていて、その気持ちをつたえたこともあってか、この作品の販促活動をお手伝いさせてもらえることになった。
そして、何よりskrew kidの楽曲を心底「めちゃくちゃかっこいい!!」と思い、「こんなにすごく良い音楽をつくる人が、こんなに近くにいるんだなんて!!」と、この作品に少しでも関われることが嬉しかった!
当時はスマホもネットも今ほど便利ではなくて、販促活動といっても、実際には全国のCDショップなどに直接電話をして、サンプルを発送したりすることが多かった。
地味?でも、仕方ない。とりあえす電話してみよう!こんなに良い音楽だから、きっとどのCDショップも扱ってくれる。と当然のように思って、電話をかけた。
僕「今度、私達のレーベルからリリースするアーティストの取り扱いをお願いしたいのですが…」
担当者「なんていうアーティストで、ジャンルはどんなのですか?」
僕「skrew kidと言いまして、ジャンルは…インストゥルメンタルです。」
担当者「・・・・・・、あぁ、、そうですか。。」
僕「とりあえず、サンプル送るので聴いてください!」
担当者「はい、わかりました。」
アレ??なんか反応イマイチだったな。。でも、サンプルとりあえず聴いてもらえれば、きっと良さをわかってもらえる!と、僕は思っていた。
そして、あらためて1週間後に電話をした。
僕「サンプル聴いていただけましたか?」
担当者「忙しくって、まだ。。」
僕「そうですか。本当に良い音楽なんで、また聴いてください」
担当者「あ。。。わかりました。とりあえずオーダー考えておきます。」
こんなやりとりが2週間・3週間とつづく。
実際にサンプルを聴いてくださった担当者さんもいて、「良かったですー!オーダー入れます!!」と言ってもらえることもあったり、また「日本人のインストは正直あんまり売れないんですよねー」などと厳しいお言葉をいただくことも多かった。そして、実際にサンプルを配って店頭に並ぶことまでいくことが本当に少なかった。
当時は、こんなに良い音楽なのに、「なんで聴いてもらうことすらも難しいのか!」「僕の説明が下手なんだ・・」「どう伝えたら興味を持ってもらえるのか…」と考えてはみたものの、うまく伝えることが出来なくて、僕の力不足で本当に悔しかった。
そして、不完全燃焼な気持ちとともにリリース日がやってきた。
何日か経った雨の日に、あいかわらずフリーターの僕はとくにすることもなく、雨宿りと時間つぶしを口実に一人でカフェに入った。
オシャレで人気のカフェだったが、ランチも終わった昼の14時過ぎという中途半端な時間帯、外は重たい雲に覆われて真っ暗で、梅雨真っ只中の土砂降り。お客さんも少なかった。店内には、モノクロで海外のサーフィンの映像が控えめに映されていた。
なんとなく、コーヒー飲みながら時間を持て余していると、ふと店内にskrew kidのspeakslowlyが流れ始めた。僕は驚いた。そして、
「やっぱりサイコーに良い音楽だ」
とあらためて思った。
このアルバムの帯には
「行間すらない贅沢」
と書いてある。たぶんskrew kidの音楽は、時間の隙間や、誰かの心の空白にそっと寄り添ってくれる。そんな音楽だと思う。
発売から15年以上が経った。今でも、僕は変わらず毎年このアルバムを聴いている。そして、15年経って色んなことが変わった。僕は結婚して父になり、当時まったく知らなかった土地で小さなお店を構えさせてもらうことができた。
今、その小さなお店で僕はskrew kidのCDを販売している。
つい先日、晴れた昼下がりの店内で読書をされているお客様から「この曲は誰のですか?」と聞かれ、「読書の時間にすごく良くて…」と言ってもらい、購入していただいた。
そして、THANKSGIVINGの社長からこんな連絡がきた。
「skrew kidの1stだけど、レーベルの在庫も全部無くなったから、今そのお店にある2枚で最後だよ。もう誰も在庫もってない。」
この言葉を聞いたとき、あのとき力不足だった僕は嬉しくて少し涙が出た。
発売から15年。この音楽は着実に一歩一歩と誰かの隙間に届いていっていたんだ!
そして、最後の2枚、誰かの隙間にそっと寄り添ってくれればいいなと思っている。
追記。
そして変わらないことがもうひとつ。
THANKSGIVINGは今も変わらずグッドミュージックを出し続けている。今となっては、姉妹レーベルOurlanguageもできて、沢山の音楽が世の中で聴かれている。そして、今もskrew kidは活動を続けている。スゴイです!