JTACと近接航空支援機の無線交信例1
以下は米軍における JTAC と支援機の無線交信例です。内容の詳細な解説は "近接航空支援を支える統合末端攻撃統制官 (JTAC) とは" をご覧ください。
EXAMPLE 1 – TYPE 1 CONTROL, BOMB ON TARGET MISSION WITH MARK AND SUPPRESSION
以下に続く内容は Type 1 Control と BOT の手順です。これらは目標の指示と制圧の統合と実施を順に追った例です。
状況
JTAC (Texas 17) は歩兵部隊に随伴し支援を行っている。歩兵部隊が敵歩兵との交戦を開始したため、JTAC は目標をを目視にて補足し正確な位置を割り出した。
JTAC は支援している部隊の指揮官の指示を受け、即座に統合戦術航空支援要請 (JATR) を行い、歩兵部隊が交戦していることを報告し、2機の F/A-18C (Winder61, 62) を受領した。また、作戦地域内には敵防空部隊の展開が確認されており、JTAC は近接航空支援の管制と同時に、砲兵の火力支援による敵防空網制圧とターゲットマーキングのコーディネートも実行した。
チェックイン
1番機: “Texas 17, Winder 61.”
「テキサス17、こちらウィンダー61」
JTAC: “Winder 61, proceed to Mazda block 13 to 14, be advised SA-8 active in target area, you are only aircraft on station, check in when able.”
「ウィンダー61、Mazda に向かい高度1万3千から1万4千フィートの間で飛行せよ。目標エリアには SA-8 地対空ミサイルが稼働している。そちらの編隊はこちらの管制下の唯一の航空機である。可能になり次第チェックインを実施せよ」
1番機: “Winder 61, copy, mission number AB2061, 2 by F/A-18 Hornet. 10 miles north of Mazda inbound from 200 to block 13 to 14, 4 by MK-82 instantaneous and delay fuzing, and 450 rounds of 20 mm each. 35minutes of PLAYTIME. AT FLIR, Cat II coordinate capable, VDL codes 4797 and 4457 respectively, TIMBER SWEET. ABORT code none.”
「ウィンダー61了解、作戦番号 AB2061、こちらは F/A-18 Hornet 2機編隊。現在 Mazda の北10マイル飛行中、高度1万3千から1万4千フィートへは方位200から進入する。武装は2機とも着発及び遅延信管のMK-82が4発と、450発の20mm機関砲を装備。支援可能時間は35分、AT FLIR装備によりカテゴリー2の座標指示が可能。ビデオダウンリンクコードはそれぞれ4797と4457。LINK-16データリンクで情報を受領した。攻撃中止符号は無し」
ここでは近接航空支援に向かった2機のF/A-18C (Winder61, 62) が作戦空域に到着し JTAC にコンタクトを取っている状況です。JTAC はまず、ハンドオフされた支援機に移動先とその場所での高度制限を伝えます。ここでは IP Mazda と名前が付いている場所です。
後の SITREP で作戦地域の詳細状況を送る前に支援機の飛行の妨げになるような状況はここで先に伝えておきます。今回はロシア製の SA-8 と呼ばれる自走式短距離地対空ミサイルが確認されています。
続くチェックインでは支援機の機数や兵装などの支援機の能力を1番機が代表して伝えます。As Fragged チェックインであれば、ATO と呼ばれる作戦資料に全て記載されているのでこの手順を省くことができます。今回は通常のフルチェックインです。
Cat II Coordinate というのは目標を捕捉できる精度のことです。今回は AT FLIR という目標指示ポッドを搭載しているので 7-15m の精度を保証します。VDL では超短波データリンクによって画像のやりとりを行う装置です。送受信に必要な各機の識別コードを示します。"TIMBER SWEET" というのは LINK-16データリンク上で情報を受信したということを意味するブレビティワード (航空作戦で用いる略語) です。ABORT code は攻撃中止を宣言する符号です。通常は作戦の認証 (Authentication)に用いられる10桁の英字を使ってやりとりが行われますが、今回はそれが示されていないので "ABORT ABORT ABORT" と3回繰り返すのが攻撃中止の合図になります。
Situation Update
JTAC: “Texas 17, copy, advise when ready for SITREP.”
「テキサス17了解、SITREP の受信用意でき次第知らせ」
1番機: “Winder 61, ready.”
「ウィンダー 61、準備良し」
JTAC: “Threat SA-8 active in target area and small arms. Enemy personnel are dug into fighting positions to the north. Friendlies are a company size infantry element collocated with Texas 17. We have gun position 3 active and in support, gun target line 040. Clearance will come from Texas 17. Weather is clear in the target area. Stay east of Mazda till IP inbound. Advise when ready for game plan.”
「敵の SA-8 が目標エリアで稼働中、並びに小火器あり。敵兵は前線を北に推し進めている。友軍は中隊規模の歩兵でテキサス17と同行している。稼働中で支援可能な砲兵陣地はポジション3、砲撃目標線は方位040。攻撃許可はテキサス17が指定。目標エリアの天候は良好。IP 進入まで IP Mazda の東で待機せよ。ゲームプランの受信用意でき次第知らせ」
Situation Update は作戦地域の敵味方の動向を報告する手順です。この状況報告によって支援機のパイロットは現地の最新の情報を把握します。今回は支援機を脅かす SA-8 地対空ミサイルが展開しているので、それを攻撃して防空網を制圧する砲撃部隊の支援内容を伝えています。砲撃に巻き込まれないように砲撃方位である Gun Target Line も含めます。また Clearance で支援機への攻撃許可の所在を明確にします。
ゲームプラン
1番機: “Winder 61, ready for game plan.”
「ウィンダー61、ゲームプランの受信用意良し」
JTAC: “Winder 61, this will be a Type 1 control, BOT, 2 by MK-82 each, instantaneous fuzing, 30-second separation, advise when ready for 9-line.”
「ウィンダー61、タイプ1コントロール、BOT (目標に攻撃)、それぞれ2発のMK-82を着発信管で使用、30秒の間隔、9-lineの受信用意でき次第知らせ」
ゲームプランでは攻撃の方針を伝えます。これには攻撃の管制方式である Type of Control と、攻撃の方法である Method of Attacl の2つを必ず含めます。
Type 1 Control は最も制限の厳しい管制方式で、JTAC は支援機と目標を目視で観測し続ける必要があります。また、攻撃についても JTAC の許可が必要です。Method of Attack では BOT (Bomb on Target) が選択されています。BOT では支援機のパイロットが目標をカメラなどで確認する必要があります。
上記2点に加えて攻撃に用いる兵装とその設定、2番機の管制のために30秒の間隔を要求しています。これは攻撃に最適なテンポを提供し、支援機の危険性を減らすためでです。もしパイロットがシステム設定やより良い攻撃方法のためにさらなる間隔が必要だと判断すれば、それを JTAC に要求することができます。
CAS Brief
1番機: “Texas 17, Winder 61, ready.”
「テキサス17、こちらウィンダー61、受信用意良し」
JTAC:
“Mazda,
270 Left,
12.1.”
“Elevation, 350 feet,
Platoon of infantry dug in,
CM 367 971.”
“White phosphorous,
South 900,
Egress left pull, back to Mazda, block 13-14.
Advise when ready for remarks.”
「IP Mazdaから進入
IPからの目標方位270左へオフセット
IPからの目標距離12.1マイル
目標高度350フィート
目標は歩兵小隊
目標座標 CM 367 971
白リンによるマーキング
友軍展開位置南900m
退避は左旋回のち IP Mazda へ、高度1万3千から1万4千フィートへ復帰
リマークスの受信用意でき次第知らせ」
CAS Brief では 9-Line と呼ばれる9行から成る攻撃の詳細情報を伝えます。この 9-Line は決まった形式に沿って、3行ずつ区切りながらテンポよく送信します。
今回の武装は Mk-82 無誘導爆弾なので目印のために白リンによるマーキングがあります。Line 8 では、最も近い友軍の位置を伝えて誤爆の可能性を認識させます。Line 9 では攻撃完了したあとの退避方法を伝えています。
Remarks と Restriction
1番機: “Ready.”
「受信用意良し」
JTAC: “Final attack heading 285-330. SA-8 north 1000 meters, continuous suppression, gun-target line 040, stay above 3000. Request IP inbound TOT 50”
「最終攻撃方位は285から330。敵対空脅威SA-8が北1000mに展開、制圧は継続中、砲撃目標線は方位040、高度3000フィート以上を保持せよ。IP進入コールを要求する。目標到達時間は分時50分」
1番機: “Winder 61, 350 feet, CM 367 971, final attack heading 285-330, stay above 3000, TOT 50.”
「ウィンダー61、目標高度350フィート、目標座標 CM 367 971、最終攻撃方位285から330、高度3000フィート以上を保持、目標到達時間は分時50分」
JTAC: “Good readback, Winder 62 go with readback.”
「復唱良し。ウィンダー62、復唱せよ」
2番機: “Winder 62, 350 feet, CM 367 971, final attack heading 285-330, stay above 3000, TOT 50.”
「ウィンダー62、目標高度350フィート、目標座標 CM 367 971、最終攻撃方位285から330、高度3000フィート以上を保持、目標到達時間は分時50分」
JTAC: “Good readback.”
「復唱良し」
ここでは攻撃に関する補足事項と制限事項を伝えます。Final Attack Heading (FAH: 最終攻撃方位) は主に誤爆を避けるために設けられます。今回は南900mの位置に友軍が展開しているため、北からの進入は避けて IP から南にオフセットし最終攻撃方位を280~330に制限することで、万一爆弾が逸れても南へ被害が及ばないようにしています。
TOT (目標到達時刻) はここでは支援機の爆弾が着弾する時間です。砲撃部隊による SA-8 の制圧とタイミングを合わせるために設けられ、パイロットはこの時間に合わせて攻撃できるよう速度や経路を調整します。
Remarks と Restriction の伝達が終わったらリードバック (復唱) して、パイロットが攻撃の内容を正しく認識できているか確認します。必ずリードバックしないといけないのは 9-Line のうち Line 4 (目標高度) と Line 6 (目標位置) 及び Restriction で示された制限事項です。このリードバックは編隊長だけでなく、攻撃に関わる機体が全て行います。
攻撃実行
1番機: “Winder 61, IP inbound.”
「ウィンダー61、IP 進入」
JTAC: “Winder 61, CONTINUE.”
「ウィンダー61、進入継続せよ」
JTAC: “MARK on deck. Suppression effective.”
「目標をマーキング、防空網制圧は現在有効」
1番機: “Winder 61, CONTACT.”
「ウィンダー61、マーキングを補足」
JTAC: “From the MARK, south 100”
「ターゲットはマーキングから南100m」
1番機: “Winder 61, IN”
「ウィンダー61、攻撃態勢に入った」
JTAC: “Winder 61, CLEARED HOT.”
「ウィンダー61、攻撃を許可」
いよいよ支援機が IP Mazda を通過して攻撃に入ります。攻撃目標マーキングのための白リンが展開されました。JTAC は砲撃部隊の支援状況を確認し、 IP 進入時刻から砲撃による制圧時間内に支援機が離脱まで可能なことを推測して "CONTINUE" 指示を与えます。
ゲームプランで Bomb on Target を指示したのでパイロットは目標を目視確認する必要がありました。今回は白リンによるマーキングを視認したことを意味する "CONTACT" をコールしています。できなければ "LOOKING" とコールします。JTAC はそのマーキングを基準にして目標の位置を伝えています。
パイロットは事前に示された最終攻撃方位に機首を向けて攻撃準備が整ったら "IN" とコールします。Type 1 Control なので JTAC は目標と支援機を目視で確認し、あらゆる可能性と危険性を考慮した上で攻撃に支障がないと判断して初めて "CLEARED HOT" と告げて攻撃を許可します。
1番機: “Winder 61, two AWAY.”
「ウィンダー61、爆弾2発投下」
2番機: “Winder 62, contact lead’s hits IN.”
「ウィンダー62、長機の攻撃着弾を確認、攻撃進入する」
JTAC: “Winder 62, from lead’s hits, west 50, CLEARED HOT.”
ウィンダー62、長機の着弾位置から西へ50m、攻撃を許可
2番機: “Winder 62, two AWAY.”
「ウィンダー62、爆弾2発投下」
1番機はゲームプランで示された通り2発の Mk-82 を投下して、9-Line で示された通りに左旋回して IP Mazda へ戻ります。
2番機は1番機の "IN" から30秒の間隔を空け、最終攻撃方位285-330を確立したら "IN" とコールします。JTAC はすぐさま修正値を2番機に伝えています。ここでも同じく JTAC は目標と2番機の進入を目視で確認する必要があります。
この後は JTAC が攻撃の成果を判定 (=BDA) し、必要に応じて次の指示を与えます。攻撃が不十分でプレイタイムに余裕があれば再攻撃を命じ、必要がなければ空域を離脱し他の管制機関にコンタクトするよう指示するでしょう。
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