統合失調症 人格が変わってしまった娘を取り戻すまで No.11 旅立ち

「卒業する。もう終わりでいい。」

娘からこんな言葉が出てくるなんて想像もしていませんでした。

卒業の意味はちゃんとわかってる?もう学校へは通わないということだよ。友達ともお別れだよ。先生にも会えないよ。本当に大丈夫なの?

私は不安でいっぱいでした。卒業したとして、その次の日からまた学校へ行くと言い出しかねない。あの子があそこから離れるなんて出来る訳がないと思っていました。

卒業すると言い出してから2か月ほど、何度も聞きました。その度に娘は「わかってるよ。大丈夫、卒業する。」と返事します。

かかりつけの神経科のお医者様にも相談してみました。先生は自分から旅立つことを選んだならそうしてあげたほうがいいとのことでした。


夏休みの間、私はネットで調べて出来るだけ自宅近くで娘が通える場所を探しました。そしていくつか見て回り、1つだけとても娘に会うところを見つけました。これで卒業後もいく場所が決まり、あとは卒業を待つだけとなりました。

卒業が近づいてきても娘の意思が変わることはありませんでした。とても落ち着いていて、イラつくこともない。安心していられました。


3月 卒業式も無事に終わり、すぐ次の週からは新しい施設に通い始めました。間を空けないほうがいいと思ったのです。何もしない日が続くと学校を思い出してしまうから。

新しい施設も楽しそうに通ってくれました。

でも、卒業してから2~3か月は「運動会には行かなくちゃ」とか「文化祭は9月だよね」と、まるでまだ学校に通っているように言っていました。心のどこかでまだ完全には終われていなかったのでしょう。

「もう卒業したからこんどはOBとして見に行くならいいんだよ。でも、参加はしないの。」と説明すると「あ、そうか」と納得しました。そんなことが何度も何度もあったけど、「戻りたい」とは一度も言いませんでした。

半年過ぎたころ、やっと娘は「学校」という言葉も言わなくなりました。


今は2か所の施設に通い、毎日を穏やかに過ごしています。


7年前、まるで獣のような目つきになってしまった娘が居た。あれは夢だったんだろうか。もう遠い遠い昔のことのようです。

あの学校に行かなければもしかしたら統合失調症にはならなかったかもしれない。でも、それはきっと娘にとって必要なことだったんだろうと思ったりもするのです。それまで感情を押し殺して生きてきた。一生そうだったかもしれない。

今は思ったことを口に出せるし、表情も豊かになりました。無口だった娘は今はとてもおしゃべりです。


学校には本当にお世話になりました。わめき散らしたり、時にはトイレの失敗まで処理して頂いたり。同じような症状の生徒も居たようですが、うちの娘は特に大変だったろうと思います。それでも学校を休むと「待ってるからおいで」と電話を入れてくれるような先生方でした。感謝してもしきれません。


私の友人のH先生にも心から感謝しています。

「今はとにかく彼女の言うことを全部きいてあげて。あなたたちの言葉は届いていないからなだめる言葉は無駄。自分を認めてくれてると感じれば落ち着いてくるから」

その助言がなければもっと酷くなっていたかもしれない。


我が家では5時頃から台所に西陽が強く差し込みます。まるで輝く様な窓の側で夕食を作っているとき、娘は側でテレビを見てる。その時間が大好きです。

あの子が笑っている。陽が射してる。たったそれだけのことなのに涙が溢れるくらいの幸せを感じます。

私達はあの子を取り戻した。今やっとそう思えます。





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