ジーグフェルド・フォリーズ(レヴューとミュージカルの違い)
ア・プリティガール・イズ・ライク・ア・メロディ
エディ・カンター[Eddie Cantor]にルース・エッティング[Ruth Etting]では、ジーグフェルド・フォリーズ(Ziegfeld Follies)にもふれた。その、いわゆる"フォリーズ"については、MGM(Arthur Freed)さえも伝わるか怪しいこの御時世では、見ていただくのが早い。幸い36年の「巨星ジーグフェルド(The Great Ziegfeld)」がDVD化されている、興味があればぜひ(サブスクにもあると思う)。
そのスペキュタクラーな構成は宝塚にも影響を与えた(当時、白井鐵造が訪米の際に視察している)。あの、宝塚の大階段も、そもそもはフォリーズの模倣(ジーグフェルド[Florenz Ziegfeld,Jr.]という方は、息を引き取る間際まで階段の高さにこだわったそうで、映画のラストにも描かれている)。宝塚のみでなく、モダン志向な国内演劇人は概して影響されたはず。
スペキュタクラーでは、第1回での個人芸云々、色川武大御大は、そこ、個人芸に惹かれているのと同等に、個人が埋没してしまうほどのスペクタキュラーなものにも惹かれていた。
曲は劇中歌でもある「ア・プリティガール・イズ・ライク・ア・メロディー(A Pretty Girl Is Like a Melody)」で、フォリーズのテーマソング。元祖、ジョン・スティール[John Steel]のバージョンで、おそらく1920年前後の録音(録音台帳でも不明のようだ)。
この公式音源もリマスターかと(手持ちのヴァイナル盤では、全般的に微小なノイズが被るので)。これはレコードに例えると"Smithsonian Collection-R 009 P 14272"に収録されている(復刻盤)。
「唄えば天国ジャズソング」の中でふれているのは74年の映画「ザッツ・エンタテインメント(That's Entertainment!)」にフィーチャーの「ア・プリティガール・イズ・ライク・ア・メロディー」。サントラ(MGM Records MM-9079)に収録はデニス・モーガン[Dennis Morgan]バージョンで、これには"dubbed by Allan Jones"説が。この件はオリジナルの本家フォリーズ版のサントラにはクレジットが("Classic International Filmusicals C.I.F.3005"で収録バージョンも異なる)。
レヴューとミュージカルの違い
ジーグフェルドはレヴューの王と云われた、その演劇でのレヴュー(la revue de fin d'année)について少し。簡単には、再見のニュアンスが。例えば、旅に出た、帰ってきて、旅先での写真を"整理"してアルバムに収めるとする。そのアルバムを最初から順に1ページづつめくりながら、他者に、その出発-旅行中-帰宅までのエピソードを紹介する。これが(一つの例え=狭義)舞台に於けるレヴュー様式。
舞台上でも、まるでアルバムのページを順にめくるかのように、アルバムに納められた物語を語るかのように話が進む。そこには唄とダンスにスケッチなどなど様々な演出手法の試みが。ただし、先に述べたように、レヴューとして進行する。例えば師走に、その年の話題を振り返り、1月-12月までコント形式での紹介、また、その年のヒット曲を順番に唄って紹介するなど、あれはレヴュー様式である。
ちなみにチャンドラー[Raymond Chandler]の翻訳で名高い清水俊二が1930年代に評した舞台のカテゴライズを引用すると、以下引用「筋はないが、テーマソングや主役など、なんらかの形で全体が統一されている」引用以上、この「全体が統一...という点がポイントで、そこがボードビル(寄席芸の集合体での)とのわかりやすい違いだと思う。
(引用は乗越たかお著「アリス」孫引き、これも名著、改めて紹介したい)
そしてミュージカル(musical)とは? 唄&ダンスな音楽劇としてはレヴューと大差ないようで、ミュージカルには、例えば"今"という視点がある。過去作品の再演、また過去を顧みるかのようなシナリオであっても、そこには(上演に於いては)、端的には、時事性=例えば現在の社会風刺などが織り込まれる。だから例えば江戸時代が舞台なミュージカルでは、それは時代劇という様式をまとってはいても、実は(中身・テーマは)現代劇であります。
ある意味、ミュージカルは、いわば形而下。では、形而上(絵空事)はというと、それがオペレッタ(operetta)。オペレッタでは、例えば、どこかの、少なくともこの社会とは遠く離れた世界の物語、架空の例えでは「浦島太郎」の竜宮城かのように。史実に基づくとしても、いかにも"ありそうな"架空のお話でいい(リアリティ&現代性が増すほどミュージカルに近くなる=オペレッタの派生がミュージカル)。
端的には、ミュージカルとオペレッタは異種だけれど、レヴューはクロスオーバーも。ミュージカルでのレヴュー的演出は可能だし、オペレッタではオペレッタ・レヴューになる。音楽劇=ミュージカルというよりも(まあ、それはそうだけれど)、基本&根本的に(劇中に唄とダンスはなくとも)、そもそも物語そのものが音楽。音楽的に顕著は、ミュージカルではソウルにジャズもテーマになるが、オペレッタではワルツだろうか。ただこれもコンサバな捉え方として。
(一般的に単純には、オペレッタ=唄もある軽演劇と考えていただければ間違いない、が、軽演劇そのものが絶滅種)
史実的には、もっとややこしく、中世のミンストレル(minstrel)またジョングルール(jongleur)などの吟遊詩人&芸人から説くのが適切なのだろうが...面倒臭い。否、興味がある方は調べていただければと思うのだけれど、かの国の文化であり、深くは、その国の学芸員にでも任せればいい。あと、いわゆる"浅草オペラ"とは、実質(評伝によると)、オペレッタだったそうだ。
その浅草オペラに興味があれば、森話社の「浅草オペラ・舞台芸術と娯楽の近代(杉山千鶴&中野正昭編)」をおすすめする。また先述のレヴュー云々ではやはり森話社の「ステージ・ショウの時代(中野正昭編)」がおすすめ。
(紹介の公式動画はYouTubeの共有機能を利用しています)
第3回[「唄えば天国ジャズソング」第2章の続き(ルース・エッティングとヘレン隅田)]
第5回[岸井明(色川武大のジャズ)]