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色川武大のジョージ・ガーシュウィン

クラッシュ・オン・ユー!

「唄えば天国ジャズソング」第8章はジョージ・ガーシュウィン[George Gershwin]に費やされる。その名作&佳作のオンパレードに様々なバージョンも含めると星の数ほどに膨大な曲数であろう、その中からベスト作を選ぶ! は、どだい無理な話。もしもベストがあるとすればその時々の判断で=今の気分はコレという、否、それこそが正解なのだが。

色川御大の戦術、イモ唄は排除、完成度の高い曲も排除...と、あえて難癖をつけるようにターゲットを絞る。確かに「ラプソディ・イン・ブルー」かのようなセミ・クラシックの名曲をドーン!と持ってこられても、今更で、いいに決まってる。 ...そして、無理! 匙を投げた。そこで苦しい時の神頼み、結局、賽の出目で決めたかのような一曲が標題曲の「アイヴ・ガット・ア・クラッシュ・オン・ユー(I've Got a Crush on You)」=「貴方に首ったけ」。

では、御大一推しリー・ワイリー[Lee Wiley]の「アイヴ・ガット・ア・クラッシュ・オン・ユー」、公式で。

この音源のルーツは、おそらく1939年の録音、いわゆる"The 1939-40 Liberty Music Shop Recordings"盤に収録が。

編成、アーティ・シャピロ[Artie Shapiro]ベース、ピー・ウィー・ラッセル[Pee Wee Russell]クラリネット、エディ・コンドン[Eddie Condon]ギター、ジョージ・ウェットリング[George Wettling]ドラム、バド・フリーマン[Bud Freeman]テナーSax、そしてピアノはファッツ・ウォーラー[Fats Waller]と、ボーカルが際立つのはもちろん、レジェンドなプレーヤーの面子にも泣けてくる。

次、御大が惚れ込むズート・シムズ[Zoot Sims]で「アイヴ・ガット・ア・クラッシュ・オン・ユー」、公式で。

この音源のルーツは、おそらく1975年の録音、アルバム「Zoot Sims And The Gershwin Brothers」に収録されている。

編成、ジョージ・ムラーツ[George Mraz]ベース、ジョー・パス[Joe Pass]ギター、グレイディ・テイト[Grady Tate]ドラム、オスカー・ピーターソン[Oscar Peterson]ピアノ、そしてテナーSaxはズート・シムズ。各プレーヤーの妙技に耽溺されたし。ジャズとは器楽であるという根本を再認識もさせられる。

今度は御大曰く「格調で選ぶと...「ザ・マン・アイ・ラブ(The Man I Love)」=「私の彼氏」。公式で。

ここでの御大、サラ・ヴォーン[Sarah Vaughan]とLAフィル[LAPO]のガーシュウィン・ソングブックにふれており、執筆時期からも、それはこれ、1982年のマイケル・ティルソン・トーマス[Michael Tilson Thomas]との「Gershwin Live!」ではあるまいかと?

次、御大曰く「洗練度で...「エンブレイサブル・ユー(Embraceable You)」=「抱きしめて」、これもズート・シムズを挙げている。公式で。

先に紹介と同アルバムで。古くはデュクレテ・トムソン盤の幻に始まり幾つかの名盤はあれど、このガーシュウィン盤も殿堂入りだと思う。

御大曰く「迫力で...「サムバディ・ラヴズ・ミー(Somebody Loves Me)」=「誰かが私を愛してる」。この曲では、御大は、1945年の映画「アメリカ交響楽(Rhapsody in Blue)」劇中歌としての「サムバディ・ラヴズ・ミー」にふれている。そのトム・パトリコラ[Tom Patricola]とジョーン・レスリー[Joan Leslie]によるバージョンは、要は、見る唄に。

(劇中ジョーン・レスリーのボーカルにはdubbed説があるのだけれど、そのエビデンスが今一つよくわからなかった)

で、その音源がないようで、まあこれは(興味があれば)映画にてご覧いただくとして、あとは私の一任で、手元にあるガーシュウィン・ソングブックの中から選んだのはクリス・コナー[Chris Connor]盤(Chris Connor Sings The George Gershwin Almanac Of Song Vol. 1,ATL-5008)、では公式で。

音源ルーツ、おそらく1957年の録音。編成、ミルト・ヒントン[Milt Hinton]ベース、マンデル・ロウ[Mundell Lowe]ギター、ミルト・ジャクソン[Milt Jackson]ヴィブラフォン、エド・ショーネシー[Ed Shaughnessy]ドラム、そしてピアノはスタン・フリー[Stan Free]。

"ATL-5008"そのものは当時のモノラル盤なのですが、それはともかく(今ではサブスクにもあるのでは?)、このクリス・コナーがまたいい! ある意味、精神安定剤。このティストが気に入っていただければ、このアルバムも必聴であります!

ひとまず〆で、ジンジャー・ロジャース[Ginger Rogers]の「みんな笑った(They All Laughed)=ゼイ・オール・ラフト」、公式で。

音源ルーツ、1937年の録音=サントラ(国内盤の一例"EMS-67039-40")、映画「シャル・ウィ・ダンス(Shall We Dance)」劇中歌、そう、やはり見る唄。この(スクリーンでの)ジンジャー・ロジャース版「みんな笑った」が好きで(御大のおすすめでもある)、ちなみに後半のタップはアステア[Fred Astaire]とロジャース。この映画も、興味があればぜひ。あと「ゼイ・キャント・テイク・ザット・アウェイ・フロム・ミー(They Can't Take That Away from Me)」=「誰にも奪えぬこの想い」などは後章で(重複)。

もう一丁いってみますか、ブロッサム・ディアリー[Blossom Dearie]の「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーバー・ミー(Someone to Watch Over Me)」=「誰かが私を見つめている」、公式で。

まるで夢見るティーンかのような歌声の、この方、50年代初頭から活躍のベテラン。その特徴的なガーリッシュ・ボイス(girlish voice)とも云われる甘く軽やかな囁きに魅了されたし。

音源ルーツ、1959年録音のはず。編成、レイ・ブラウン[Ray Brown]ベース、エド・シグペン[Ed Thigpen]ドラム、そしてピアノとボーカルはブロッサム・ディアリー。

(手元にあるライナーノーツには記載がないが、Verveのデータを参照では、ギターでケニー・バレル[Kenny Burrell]が参加?)

ところでTOP画像、1947年「アメリカ交響楽」公開時の丸の内スバル座。出典は1955年の国際文化情報社「画報現代史(3集)」で、これは当時の版を所有。左の看板「Rhapsody in Blue」、右の大看板の「Home of American...おそらくMovies」に留意。米国映画専門のロードショー館としてのスタートは、当初、独禁法にふれるのではないかとの物議を醸した。

映画そのものはガーシュウィンの伝記的物語、ストーリーにプロットは特にどうこうではなく=実際、酷評されまくり。この作品が評価されているのは音楽面に於いてであり、あくまでもミュージカル的に見ていただければ楽しめる。なにせ、例えばピアノはオスカー・レヴァント[Oscar Levant]、「ラプソディ・イン・ブルー」のポール・ホワイトマン[Paul Whiteman]は本人、先に紹介のトム・パトリコラのタップ、そしてアル・ジョルソン[Al Jolson]の「スワニー(Swanee)」など、今や希少な映像のオンパレードでもある。

第19回[ブラック・ボトムに皆殺しのトランペット]
第21回[色川武大のファッツ・ウォーラー]