本当に心底どうでも良いであろう話
下天の内をくらぶれている内にとうとう信長より長生きしているが、天下布武は出来ていない。信長も出来なかったのでアイコである。
そんな大きな志はもともと持ち合わせが無いのだが。財布にも二千円しか入っていないし。
そんな私は実は匂いフェチの気がある。ほら、本当に心底どうでも良い話でしょう?いや、待って待って。匂いフェチとか言っても女子高生が1日履いた靴下が〜、とか業の深いタイプではない。臭いに決まっとろうが、そんなもの。
香水が好きなのである。
香水の匂いが好きなだけの、底の浅い匂いフェチである。
ほらね、どうでもいい話でしょう?
だが待って欲しい。底は浅いが歴史は長いのである。無駄に半世紀も生きていない。おっと、意義は却下する。他人の人生を無駄とか言うな。
もう30年くらい前、まだバンドなんかでワチャワチャしていた頃から、私は香水好きなのだ。当時購入したフェンダーのジャズベなんて30年物のヴィンテージだ。香水好きだって殿堂入りだ。
最初はバナナ・リパブリックのヤツだったと思う(曖昧)。匂いは忘れた。プレゼントで貰ったのだ。100mlとかのデカいコフレだったので、けっこう長い間使ったと思う。
その後、何と決めること無く、かといって途切れる訳でも色んな香水を渡り歩いた。
その内、自分の好みというのが固まってくるもので、ウッド系やらグリーン系やらいう、まぁ何となく緑がかったイメージの匂いへと収斂していった。
そういう底の浅い香水好きが、3週間も風呂に入らなかったのだ。
先刻ご承知のように、私は胆石で3週間入院しその間一度として湯船に浸かる事無く、過ごした。臭うなんてもんじゃないだろう、そりゃ。
入院当初、脇腹に突き刺さったドレナージチューブの痛みでどうにもこうにも身動きが出来なかったのだが、3日目を過ぎた辺りからそこそこ徘徊する事も可能となり、そうなると早速かみさんに緊急で頼んだのが、水の要らないシャンプーとボディシートであった。
既に汗臭さを超えた臭気が鼻を衝く気がしたし、自分は正真正銘のおっさんである。正統派の加齢臭が周囲を汚染しているのは間違いない。
こういう臭気というのは自分では自覚するのが難しいようだが、変に香水好きなもんだから、もう妙に臭い気がして、それが一度気になるともはや止め処無い。なんだか視界まで少し黄色い気までしてくるのだ。
神経症レベルである。
差し入れが届いたら早速パジャマを脱ぎ捨て、全身をゴシゴシとボディシートで拭き始めた。1枚では済まない気がして、2枚、3枚と費やし、首から腕、腹、足、と全身をゴシゴシと擦り続けた。
ここから若干センシティブな話となるのだが。
遠近さんの遠近さんも当然ながら、何らかの処理が必要だろう、と浅はかな私は考えた訳だ。どう考えたってそこが一番臭い、はずだ。むっとする臭気がモヤモヤと立ち上ってくる気さえしてくる。
そこで、遠近さんは遠近さんをこんにちはして、拭いてみたののだ。ボディーシートで。
まぁ、賢明なる皆様は先刻ご承知のように、男性用のボディシートというのは基本的にメンソールが配合されている。
そのメンソールが遠近さんの粘膜部分に襲いかかった。想像を絶する刺激が遠近さんの遠近さんを総攻撃。
目を剥いて悶絶する私。
自らの臭気に目と鼻が眩み、後先考えずに清拭した私は慌ててパンツとパジャマを身に纏うとベッドに突っ伏し、股間を抑えて己の愚かさを呪った。
全身から漂うメンソール臭に爽快感を覚えつつ、苦悶の数分を過ごして、私は二度と遠近さんの遠近さんには触れまい、と心に誓った。
後から考えたら清拭用の温タオルでも頼めばよかったのだが、そういう知恵が働かない程度には知能指数が低下していた。
尾籠な話で恐縮だが、その後私はセンシティブな部分には手を出さずに入院期間を過ごした。
途中、手術時の尿道カテーテル挿入及び抜去イベントでは、もはやケダモノめいた臭気が周囲を襲ったはずだが、それは考えないことにした。看護師はプロだ。こんなもん屁でもあるまい、と。精神的な逃避で切り抜けた。
退院して何を於いてをまずは入浴を、と考えたが、そこで娘が一番風呂を主張するといういつもの空気の読めなさを発揮したのだが、ここでは語らない。
そうでなくても垢まみれの身体だ。
とにかくボディソープで窒息するくらい泡まみれになり、全身の皮膚から老廃物を除去しなければならない。手術の傷痕も気になるが、それよりもなんならおろし金で全身を削りたいくらいの勢い。
頭はシャンプー3回。身体も3回。特に遠近さんの遠近さん周辺ば念入に泡立て擦り続けた。
あれから一ヶ月。
私は未だに何らかの臭気の記憶が鼻孔粘膜にこびりついて離れずにいる。
下ネタかよ、という話だがとりあえずメンソール系のボディーシートに粘膜は危険、という知見を共有したい。最初はスッキリするが、後々ヒリヒリとかなりヤバい状態に陥るという教訓である。