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アナリスト目線でみる「ゲームプラン」に行き着くまでの過程
どーもです、芝本です。今回は僕が担当したチーム(年代)で次の試合に向けたゲームプランを立ていくにおいての過程、加えてそのために求められる対戦相手分析やアナリストのスキルなどについて紹介していきます。
Game plan - A plan for achieving success(成功を収めるための計画)
- 試合ごとの作戦・戦略
結果から言うと自分は下図のように「ゲームプラン」を捉えています。これに至った経緯も説明していければと思います。
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アナリストの専業化
英クラブではアナリストの専業化がどんどん進んでいます。プレミアリーグまで行けば特定のポジション、トレーニング分析、ポストマッチ(試合後)分析など様々な分野でアナリストを採用しています(スカウトも同じような傾向にある印象です)。まさに多様化ですね。
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そんな中で一つ確立されているのがOppostion Analyst(対戦相手分析のアナリスト)です。今や英3部の名門ボルトンでさえOpposition Analystを雇っています(因みにこの方はブロガー出身)。リヴァプールのOpposition Analystは僕たち蹴球Cymruのメンバーが通っているサウスウェールズ大学の大学院卒業生だったりします。
このように専業化されているチームもあれば、複数のアナリストで作業を分担しているチームも少なくありません。セビージャで活躍している若林さんのFootballistaでの記事によると、セビージャではこの手法がとられていることが明記されています。
なので専業化されているにせよ、複数のアナリストで作業を分担しているにせよ、対戦相手分析はアナリストには必ず求められるスキルの一つであり、ゲームプランを決めるのに重要な要素です。
スケジュール&前準備
カーディフシティU18
今年は主にプロアカデミーのカーディフシティU16とウェールズ代表U15 とU16でアナリストとしてパートタイムの形で働きました。アカデミーのU16以下の年代では映像があまり共有されないので、主に自チームに集中したゲームプランの立て方になります。
シーズン後半に関わらせてもらったカーディフシティU18ではうってかわって対戦相手分析が非常に重視されています。その要因として、U18のリーグ制度がしっかりしていてタイトルが存在すること、一つ上の年代(U21)があるもののU18が「育成の集大成」として捉えられていること、などが挙げられます。
代表との大きな違いは土曜日→(火曜日)→土曜日と基本週1、2のペースで試合があることです。スケジュール的にはそこまで圧迫感がないものの、U18のアナリストは分析の作業を全て一人で担当していたので特にミッドウィークの試合があるときはかなり忙しそうでした。
土→土で中6日の場合は日・水がオフ、月・火・木・金でトレーニングがあり、木曜日から次の試合に向けての準備が始まります。水曜のオフにコーチ陣が対戦相手分析レポートを確認し、木曜日の練習後にゲームプランを考えるミーティングを行います。ですので水曜の朝までにはレポート、およびそれに付随した動画(クリップ)を終わらせなければいけません。
土→火→土で1試合目と2試合目の間に中2日しかない場合は、1試合目までに2試合目の作業を終わらせる必要があり、3試合目の準備もほとんどが終わっていないといけません。土曜日からでは試合後分析やまた別のレポート作りに追われるからです。
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英2部のチャンピオンシップでは試合数が40超になるので、カーディフの1stチームアナリスト曰く「根気で乗り切るしかない」と言っていたのも印象的です。
カーディフでは相手の直近の試合+カーディフと同じシステムを使うチームと対峙した時の試合にフォーカスしレポート作成に取り組みました。相手の試合が対4バックでカーディフが3バックの場合、相手のプレスの掛け方などのアプローチ方法がガラリと変わってくるからです。かといって、カーディフも状況によってシステムを変えることがあるので事前に自チームの状況を把握しておくことも重要です。
ウェールズ代表
代表レベルでは数が限られているものの過去の試合映像は存在し、相手のアナリストと交渉をして直近の試合の映像を交換します。代表レベルの方が結果が求められるので、どの国も試合映像の交換にオープンな印象です。
キャンプ中、特に試合と試合の間になるとあまり対戦相手分析に割ける時間がないといったのが正直なところです。したがって、ほとんどの分析をキャンプ前に終わらせておく必要があります。
キャンプのスケジュールには2種類あります。1つは同じ国と中1、2日で2戦する新全試合です。この場合短期間であるためゲームプランを大幅に変えることもあまりないので、最初の試合の振り返りを2戦目への分析材料にします。
2つ目は大会の予選です。ウェールズを含めた4カ国で総当たり戦を行い、中1、2日の計5ー7日間で3試合を行うという形式です。この場合は1試合目と2試合目の相手の分析に注力し、3試合目の相手には大会中に既に戦った2試合を主に見ていきながらレポート・クリップ集めを進めていきます。この間、コーチ陣も実際に対戦相手の試合を見にいきます。
実際にユーロU17の予選で2試合目のアイスランドと3試合目のモンテネグロの対戦相手分析を担当させてもらった時は、アイスランドが従来の3−5−2から4−4−2に変えたことが初戦で分かったので、4−4−2メインで対策をしつつ3バックにも少しだけ触れておくといった準備になりました。
カーディフ、ウェールズ代表の両チームにおいてこの準備段階で難しいのが「何試合を見るのか」ですね。なるべく多くの状況に対応できるようにするのがベストですが、相手がゲームプランをコロっと変えただけで多くの作業が水の泡になるのが対戦相手分析だったりします。長期的なシーズンと捉えると、毎週徹夜して相手の試合を見たりしてると結局どこかでガタがきてしまいます。ですので、効率の良い適当な試合選びをしなければいけません。
分析で注目する箇所
ボール保持(非→保の切り替え含む)
ボール非保持(保→非の切り替え含む)
セットプレー
主に上記の3つの局面に集中して分析をしています。ここから更に細分化してタグ付け、およびクリップを仕分けます。
ゴールキック
ビルドアップ(ディフェンシブサード)
ミッドサード
ファイナルサード(アタッキングサード)
非→保の切り替え
ゴールキックからのプレス
ハイプレス
ミッドブロック
ローブロック
保→非の切り替え
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各項目に大体3クリップずつ加え、セットプレーも併せてトータルで大体40クリップくらいを目安にしています。初めて対戦相手分析に挑戦したときはクリップを入れすぎちゃうなんてこともありました。コーチ陣の時間削減のためにも重複しているクリップは必要でない限り含みません。
やはりカーディフ、ウェールズ代表で働いてみてビックリしたことの一つが攻守においてゴールキックに割く時間です。攻守ともにおいてセット(静止)した状態で始まることから対策しやすい・されやすい状況であるとともに、局面の始まりでもあるので効果的に相手の対策をすることで後につながる状況を楽にすることができる、そんなふうにテクニカルスタッフは捉えているように思います。
最近デブルイネもインタビューで「試合の準備で一番時間を割くのがハイプレスとゴールキックだ」と言ってたように欧州では対策することが当たり前になっています。
Man City’s training mostly focuses on high pressing and build-up. Everything in between allows for a bit more freedom. The first 45-60 meters is quite structured initially. However, once in the opposition half, there is more freedom to exploit space.
— Gaurav (@GauravAnlyst) May 23, 2023
Listen to Kevin De Bruyne. pic.twitter.com/oKjtwJVIJI
加えて以下のような点にも注目し、レポートを完成させます。
予想スタメン
クロスマップ
シュートマップ
キープレーヤー
怪我人、欠場者の状況
直近のスタメン、交代選手
ゲームプランMTG
ここまで準備してやっと本題のゲームプランを決めるミーティングです。このミーティングでは主にセットプレー以外の全てのプランを決めてしまいます。
試合の重要度にもよりますが、大体1時間から2時間のミーティングでクリップをメインに振り返っていきます。カーディフでは映像共有サイトのHudlとタグ付けソフトのSportscodeを使っています。クリップをHudlにアップロードする際に自動で各クリップがナンバリングされるので「♯〇〇のクリップは明確だね、一回見せてくれる?」とか「相手が4−2−3−1でプレスされてるクリップもうちょっとない?」と言った感じでレポートで取り上げた項目を順に見ていきます。
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ウェールズ代表でも似たような形式でゲームプランを決めていきます。ここではSportscode を使っていないので、議論の最中に挙がった点をピックアップし、それに該当するクリップを提示していきます。
口頭だけでは伝わらないこともあるので、作戦ボードのソフト(イメージ的にはTacticalista)をプロジェクター・テレビに映して意思疎通を図ります。ですので、正確にコーチの言わんとすることを把握するスキルが求められます。
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この議論がとにかくハイスピードで行われます。短い時間でトレーニング(ウォークスルー)で選手に伝えるような細かい点まで決めていくので、最初はついていくだけで必死でした。
アナリストに求められるスキル
ただ、ここで「デキる」アナリストは自分から意見を適度に出せます。アナリストが一番試合を見ていることがほとんどなのでコーチ陣から質問をされることも多いです。こんな時に今までの議論の文脈、対戦相手と自チームの特徴を考慮した意見を出せるアナリストが重宝される印象です。ここは個人的に自分の課題点でもあり、今後より一層磨いていきたいスキルの一つです。
僕のコーチの言葉を借りると「アナリストとコーチ陣は一方通行(One Way)ではなく対面通行(Two Way)のコミュニケーションでなければいけない。だから、恐れずにどんどん意見を出してほしい」とよく言われています。
ここも驚いた点の一つでした。能力の高い選手・スタッフが集まる組織なのでトップダウン型のアプローチがとられていると勝手に思い込んでいたら、めちゃくちゃボトムアップの意識が高かったからです。この辺は別のチームでどのようにして取り組まれているのか非常に気になるところですが、少なくともカーディフとウェールズ代表の長所の一つだと考えています。
ゲームモデルの考慮
最後にこのミーティングで重要なのが自チームのゲームモデルです。自分たちはどのような原則をもとにサッカーをプレーするのかはゲームプランの決定において対戦相手の特徴と同等かそれ以上に大事な要素です。
「相手は〇〇してくるから、いつもの〇〇(原則)を応用して(〇〇みたいなパターンで)〇〇のような相手の弱点をつこう」といったふうに選手に伝えることになるので、ミーティングでの考え方もなんら変わりません。
ゲームモデルを制定するにあたって既に相手チームと自チームの差は考慮されているはずなので、特異なケースでない限りゲームモデルから脱線することはまずありません。なのでできる限りゲームモデルに準拠することであらゆる可能性を考えることを避け、選手にもスムーズにゲームプランを通達することができます。
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最後に選手に見せるクリップ、アニメーションまで絞り込みます。トータルで長くて計5分まで絞り込まれるクリップは主に以下の3種類に分類されます。
相手の特徴が明確に現れているクリップ
自チームが過去にゲームプランと似たような方法をとった時の成功例
相手が自チームのゲームプランと似たようなアプローチをとった対戦相手と対峙しているクリップ
ミーティング終了後はこのクリップに一つずつデザインを加えていき、プレゼンを完成させます。
結果的には十何時間にも及ぶ準備が5分ほどにまとめられる、といった感じですが、どのアナリストもその5分に全身全霊を捧げているように思います。酷と言えば酷な仕事内容ですが、いろんなチームを分析できる楽しさ、試合のパフォーマンスに密接に関わるゲームプランに貢献できるやりがいがあります。
まとめ
結果的に書き殴りみたいになってしまいましたが、こんな感じでアナリストとコーチ陣は試合に向けての準備を進めていってます。少なくとも僕が今年働いたチームでは、になりますが。
マッチレビューを書いていた時は「何でこんなゲームプラン用意したんだ?」と疑問に思うこともありました。ですがこういった経験を通してゲームプランを立てることの難しさをミーティング毎に実感しています。ただただゲームプランを酷評するのではなく、その戦い方を選んだ意図や文脈を考察するのも面白いかもしれませんね。
結局何かが起こる前にそれを未然に防ぐこと、そしていろんなケースに対応できるような計画があることが何よりも重要なのかもしれない、そんなふうに試行錯誤してます。
サッカーって難しいですね。
では今回はこんなところで。