学問の視点から捉えるフットボール【サウスウェールズ大学】
私達、蹴球カムリのメンバーはサウスウェールズ大学(University of South Wales)の『Football Coaching and Performance』という学部でサッカーやコーチングを学んでいます。
以前の記事でUniversity of South Wales(通称USW)の授業について紹介しました。
前回の記事の反響が大きかったので、今回はUSWでの3年間の大学生活を振り返り、Football Coaching & Performance学部で軸となる授業をいくつか紹介したいと思います。実際に「学問的視点でサッカーを学ぶということがどういうことなのか」をお伝えできればと思います。
Football Coaching
まずはFootball Coachingの科目です。これは名前のとおり、サッカーのコーチングについて学んでいきます。
コーチングの基礎技術から実際に現場で使う応用的なコーチングまで3年間を通して学びます。
1年生では『FAW C certificate』と呼ばれるウェールズサッカー協会が発行しているコーチングライセンスを取得することができます。ライセンス取得のために実技の授業も十分に用意されているので、これまでにサッカーの指導経験がない人でも大丈夫です。
コーチングの実技は生徒がプレイヤーとコーチを務めます。教授が見本でコーチングを行う際も、生徒がプレイヤーの役割を行います。
この時のプレイヤー役の生徒のレベルは問われません。めちゃくちゃ下手な生徒もいれば、プロクラブのユースやジュニアユースでプレー経験を持つ生徒もいます。コーチ役を務める時に大切なことが「プレイヤーに影響を与えることができているか」です。コーチが改善点を指導してプレイヤーがその指導から改善する姿勢が見られれば影響を与えたことになります。仮に指導した後にそのプレイヤーが改善しようとしても技術やレベルの問題で改善できなかったとしても、それは問題ありません。これはライセンスの実技試験の時も同じです。
2年生ではUEFA Bライセンスに向けてコーチングの技術を高めていきます。そのため、実技が多く沢山サッカーをコーチング、プレーする機会があります。
最終学年の3年生でUEFA Bライセンスにチャレンジします。1年生の時と同様に実技試験があり、レポート課題と実技試験を合格すればUEFA Bライセンスが取得できます。
UEFA Bライセンスでは3回の実技試験がありますが、それぞれの試験の前に模擬試験を行うことができ、本番の実技試験に向けて練習することができます。
また『メンター』と呼ばれる制度があり、経験豊富な指導者から実際に模擬試験を見てもらってフィードバックをもらうこともできます。そして、全ての実技はカメラで撮影されているので後で見返して自分のコーチングを振り返ったり、他の生徒や教授のコーチングから学ぶこともできます。
UEFA Bライセンスの様子は下記の記事にてまとめてあります。
特にFooball Coachingの学部はインターナショナルな生徒が多く、ポルトガル、ポーランド、ルーマニア、ナイジェリア、アメリカ、インド、中国など様々な国から集まってきています。3年間彼らと苦楽を共に過ごして充実した大学生活でした。
Sports Science
この授業では人体の仕組みやスポーツにおける運動生理学を学んでいきます。
1年生では人体の仕組みや運動する際に起こる身体の反応などを学びました。正直なところ専門用語が英語で出てくるので覚えるのが大変だった思い出があります。
2年生では筋肉の仕組みや怪我とトレーニングの関係性などを学びました。2時間の講義の中で最初の1時間は座学で勉強して、残りの1時間は実際に体を動かして座学で学んだことを確かめていきます。サッカーの学部なのでサッカー系の実技が多くありました。
3年生では選択科目となりStrength&Conditioningについてメインに学んでいきます。私はこの科目を専攻しなかったので詳しくはわかりませんが、この授業を専攻した友達によると、より現場で使える実用的なフィジカルトレーニングや負荷の掛け方などを学んでいくそうです。
Football Psychology/Sports Psychology
この科目ではサッカーやスポーツにおける心理学を学んでいきます。
1年生や2年生では選手が「どのような心理状況になる可能性があるか」や「サッカーやスポーツがどのような心理的影響を与えるか」などについて学びました。
3年生では選択科目となり、より深掘りした内容を学んでいきました。例えば、選手のパフォーマンスをどのように心理的視点(緊張、モチベーション、自信、トラウマなど)から向上させることができるかなどを学びました。
また、「指導者が受ける心理的影響(ストレスやプレッシャー)を考慮すると指導者も選手と同様にパフォーマーだと言える」という内容の講義はとても興味深かったです。
サッカーはチームスポーツなので、特にサッカーの指導者はチームマネジメントが必要になってきます。指導者が持つべきリーダーシップやマネジメントスキルなどについても学ぶことができ、非常に有意義な講義でした。
Performance Analysis
Performance Analysisでは分析の基礎知識や技術を学んでいきます。
1年生と2年生では『Focus』という分析ソフトウェアを使って実際に試合の分析を行ったり、レポートにまとめてプレゼンテーションなどをしました。
この授業では分析の流れから学んでいき、「どのようにデータを集めるか」、「どのように集めたデータを用いてパフォーマンスを向上させるか」などアナリストに求められる実践的な知識を習得することができました。分析ソフトウェアだけでなく、『Excel』、『Tablou』、『SPSS』といったデータ分析用のソフトウェアも学んでいきました。アナリスト志望の生徒にとっては充実した内容になっていると思います。
『catapult』と呼ばれるトラッキングデータを集めるGPSを使って練習メニューの負荷を計測した授業は非常に興味深かったです。ピッチの広さや練習のオーガナイズ、どのような動きや身体に負荷を与えるのか、そしてそれがどのように疲労に繋がるかなどをデータをとって可視化しました。練習メニューの負荷を考える時に役立つ知識を得ることができました。
3年生になると選択科目になりますが、より応用的な分析の授業となりFocus以外の分析ソフトウェアも使わせてもらえるみたいです。この選択科目は白水が専攻していました。
まとめ
まだまだFootball Pedagogy(サッカー教育学)やFootball Management and community(サッカーコミュニティ)など面白い科目があるのですが、今回はFootball Coaching and Performance学部の中でも軸となる科目を紹介しました。
どの科目にも共通しているのは毎学期レポート課題があることで、基本的に論文を読んで論文から引用をしてレポートを完成させます。そのため3年間で読んだ論文の数は膨大でした。しかし、論文を読む中で新たな知識を手に入れることができたり、新たな発見を知ることができます。例えば、下の図のようなピッチの分類の仕方を使って分析している論文など、まだまだ世に出ていないような情報がたくさん眠っています。
学問の視点からサッカーを捉えることで見えてくるものもあると思うので、サウスウェールズ大学でサッカーを学んで良かったなと感じています。
また、サウスウェールズ大学の日本人メンバーはみんなウェールズ来てから出会ったメンバーで、「それまでは日本人は自分だけだろうな」と各々思っていました。しかし、蓋を開けてみれば5人のメンバーが同じ大学の学部に通うことになったので、年々サウスウェールズ大学の注目度が高まって来ていると実感しています。
日本では専門学校でサッカーコーチングを学べるところはありますが、サッカーコーチングを専門とした大学はありません。近い将来、サウスウェールズ大学のような大学でありながらもサッカーコーチングについて学べる機関が日本にも誕生する日が来ることを願っています。
読んでいただきありがとうございました。