見出し画像

スローインとは何か【リバプールのスローイン戦術】

はじめに

スローインは、おそらく最も過小評価されているセットプレーのひとつだろう。コーナーキックやフリーキックと比べて「得点」に大きく関わらないと考えられていることが大きな要因だと思うが、実際には決定機にもつながりやすいセットプレーである。昨季、UEFAチャンピオンズリーグ決勝の明暗を分けたのは「スローイン」だった。リバプールがスローインの守備におけるエラーを連続して犯してしまったために、最終的にレアル・マドリーに3対3を作られてしまうこととなる。とはいえ、リバプールはスローインコーチを雇ったことでも有名で、肝心の決勝でミスが出たものの「スローインとは何か」という問いにある程度の答えを持っているチームのようにも思える。そこで、今回はリバプールのスローインを分析することで「スローインとは何か」というテーマについて考えてみたい。

スローインに対する考え方

いきなりだが、まずはリバプールのスローインに対する考え方について整理していきたい。基本的にスローインは「0→+1にする」のではなく「0→-1にならないようにする」ことが大切だ。なぜなら、両チームがスローインの配置に移行した状況でのスローインはコントロールしづらく、予測が難しいからだ。さらに、ほとんどの選手が極端にボールサイドに集まっている状況では、ピッチ上をバランスよくカバーできていないので、そのアンバランスを突かれて一気に失点ということも考えられる。逆にいえば得点のチャンスとも言えるが、狙って得点を生み出したというより、対応のミスから失点を招いたという方が適切であろう。そのため、まずは「ミスをしない」ということ、そして同時に「ミスをさせる」ということも重要になる。

これらの観点から、実際にリバプールの攻守のスローインを分析していく。

攻撃のスローイン

攻撃のスローインというと、複数の動きのパターンを駆使しながらボールを引き出すといったイメージがあるかもしれないが、それはあくまで2番目の選択肢である。まずは、相手が守備の配置に移行する前にプレーを再開させることを狙っていく。これも「ミスをしない」という観点から考えると、たとえ後方へのボールであっても、アンバランスな状況で五分五分の勝負をするよりはマシなのだ。なので、相手が配置を整えるよりも早く自分たちが配置を整えることが重要で、特にCBが後方でパスコースを作る動きが大切になる。

次に、相手の守備の方が早く準備できた場合の流れについて見ていく。ここからは、基本的に「悪い失い方」を避けることがメインになる。一番の理想は逆サイドの広いスペースへの展開、次に足下から背後へのボール、最後に前方に投げるという順でリスクと相談しながらプレーを選択する。まずは、どのように足下で受けられるような工夫をしているのかについて見ていく。

リバプールは、多くの動きのパターンを持っているわけではなく、一連の流れの中から投げるコースが空き次第使っていくというやり方を採用している。つまり、動きは毎回似ているが、投げるポイントだけが状況によって変わってくる。まずは、その流れを見ていく。

まずは、逆サイドのIHがアンカーを使ってマーカーを振り切りながらボールを受けにくる。アンカーに自分のマーカーをブロックさせることで、自分がフリーになるという仕組みだ。このタイミングでボールが出てくるのであれば、足下でボールを受けて逆サイドに展開したり背後へボールを送ったりする。逆サイドのIHに対して、相手がマークをつけてきてなかなかボールが出せないようであれば、次にCFが逆サイドのIHが動いたことで生まれたスペースに降りてきて、その次はWGがそのスペースに入ってくる、といった流れでスペースを活用していく。この流れの中で足下にボールを入れることができたら、逆サイドへ展開していくか、シンプルに背後に蹴るといった「リスクを犯さないプレー」を選択する。

ここまででボールが出せない場合や、自陣深くからのスローインでリスクを抑えたい場合は、同サイドのIH、WG、CFをターゲットにしてシンプルにボールを投げることが多い。まずはやはり、悪いボールの失い方をしないようにすることを意識しているのだと思う。


守備のスローイン

対して相手のスローインに対する守備では、相手がボールを投げ入れる前に守備組織を形成し「相手にミスをさせる」ことを狙ってプレッシャーをかける。ボールに対して囲い込むように層を作り、その中に閉じ込めて奪い切ってしまうというイメージだ。

全体の配置としては、下の図のようになる。

各層の高さや幅は、ボールの高さによって変わってくるが、ベースとしてはこのような3段の層を作り、ボールを取り囲む。ここからは、それぞれの層の役割について見ていく。


1層目

ボールサイドのWG、CF、IHの3人からなる1層目の役割は、足下でボールを受けさせないようにし、競り合うようなボールを投げさせることだ。足下でボールを受けられてしまうと、そこから背後や逆サイドへボールを送られてしまう可能性がある。そこで、スローインの受け手の前に立つことによって、ボールを手前でカットしたり、五分五分の空中戦に持ち込ませることができる。

2層目

SB、アンカー、逆サイドのIH、WGからなる2層目の役割は、1層目からこぼれてくるボールを回収することだ。1層目が背中で消している相手をマークしたり、その選手の動きによってマークを受け渡したりしながら、1層目の頭を越えてくるボールに対して守備をする。特に逆サイドのIHとWGは、1層目を越えてサイドを変えられないように蓋をする上で重要な役割を担っている。ちなみに、CLの決勝ではディアスとチアゴが蓋をしきれずに運ばれてしまった。

3層目

CBと逆サイドのSBからなる3層目の役割は、とにかく失点しないようにすることだ。基本的に前に出て行くことは少なく、背後へのボールの対応が主な仕事となる。逆サイドへ展開されたボールには、基本的には遅らせて他の選手の戻りを待つ。

このような3層の構造の中で相手にミスをさせてボールを奪うか、背後に蹴ったボールを確実に回収して自分たちのボールにする。もちろん、前提として相手がボールを投げるよりも早く守備をセットすることが重要である。


まとめ

スローインで重要なのは、まずは失点につながるようなプレーをしないことで、そのためには相手よりも早くスローインに適した配置をとることが肝心である。その上で、リバプールは特に守備において自分たちの配置を持っていて、素早くその配置に移行することでスローインからの展開を優位に進めている。肝心のCL決勝でミスが出てしまったが。

いいなと思ったら応援しよう!