『家族の波紋』(2010) イギリスの女性監督ジョアナ・ホッグの小津安二郎愛あふれる作品
2019年4月29日に日本でレビュー済み
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まず序盤からカメラが固定で動かない。ズームもパンもしない。続いて、遠ざかる自転車のロング・ショット。次に女性2人が笑顔で自転車で走っているシーンでは、自動車にカメラを積んで撮影している。ひょっとして『晩春』の原節子のシーンのオマージュではないか?
屋内のシーンで確信に変わる。膝の高さくらいのロー・ポジションからのアングル。ああ、間違いなく小津の撮影スタイルだ。
最近のアメリカは映画もTVも手持ちばかり。スタビライザーを使っているので、一時期のように揺れはしないが、どういう意図で手持ちを使っているのか理解に苦しむよう作品も多い。アメリカだけならいいのだが、最近はフランスなどヨーロッパ作品にもそういう風潮が見受けられる。
こじんまりしたダイニングやキッチンでの会話のイギリス英語も心地よい。シリー諸島のトレスコ島が舞台になっており、風景も美しい。また、ほぼすべてのショットにディープ・フォーカス(画面の手前から奥までピントが合っている撮影技法)を使っており、人物だけでなく、背景や食器までボケていない。とくに印象的なのは、ダイニングの奥のキッチンにいる女性料理人の姿で、『秋刀魚の味』の台所に立つ岩下志麻の姿を思い起こさせる。
ちなみにディープ・フォーカスの事を和製英語でパン・フォーカス、パニング(カメラの位置を固定して水平方向に回転させること)もパンと言うため、「小津はパニングしない」というのを、ディープ・フォーカスを使わないということと誤解されがちだが、実際には小津はディープ・フォーカスを効果的に使っており、海外では小津のディープ・フォーカスはロー・カメラ・ポジションと並んで有名である。
ヨーロッパでもフランス、イタリアなどでは昔から評価されてきたが、アングロサクソンには小津映画は理解できないだろうと思っていた。しかし近年ではイギリスにおいても(少なくても玄人には)高く評価されつつあるようである。
日本では劇場未公開だったのだろうか?もう日本には、この作品を小津作品へのオマージュだと理解できる映画評論家は残っていないかもしれない。
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