『ギヴァー 記憶を注ぐ者』(2014)元ネタはロジャー・コーマンの『ティーンエイジ・ケイヴマン』?

(核心や結末に関する記述あり)

全体としてはエヴゲーニイ・ザミャーチンの長編ディストピア小説『われら』やオルダス・ハクスリーによる『すばらしい新世界』の影響を受けており1年後に公開された『ロスト・エモーション』の10代向け作品といったところ。

原作は未読だが映画版のベースは明らかにルーカスの『THX 1138』。記憶の受けつぎは『華氏451』の本の暗記、解放は『ソイレント・グリーン』の「ホーム」。ディストピアもの要素をこれでもかとぶっこんできた。
色彩の演出は『オズの魔法使』だろう(これはオマージュですよと言わんばかりに虹が出てきたし)。ソリは『OZ』のソファーだろうか?記憶のシーンやホログラムはドナルド・P.ベリサリオ製作の『タイムマシーンにお願い 』の影響が感じられる。
終盤は、これは間違いなくジョン・フォードの『三人の名付親』(西部劇ながらキリスト教色の強いクリスマス映画)。
キリスト教ではリンゴは知恵の象徴や禁断の果実と言われるし、性や原罪のメタファーとも言われるが、本作品では、そのすべてに当てはまる使い方がされている。
また「コミュニティ」にアーミッシュやメノナイトを連想する人も多いだろう。
しかし、キリスト教的シンボルやモチーフを用いながらも、『1984年』の系譜を継ぐ作品で、テーマは全体主義批判。調べたところ原作者の父は米陸軍将校、夫は米海軍将校。原作の発行は1993年。主人公が境界を越えることで、全ての境界線が崩れて人々が人間らしさを取り戻すという結末は、世代によっては今一つピンと来ず、雑な描き方に感じるかもしれないが、これはベルリンの壁の崩壊や、そのきっかけとなった汎ヨーロッパ・ピクニックのメタファーだろう。
続編があるとしたら、ロジャー・コーマンの『ティーンエイジ・ケイヴマン』や、ブラッドベリの『びっくり箱』のような驚きの展開になるのだろうか?
既視感が強すぎるのか、アメリカでは評価が低いようだが、私のようなオマージュ探しが好きな者にはうってつけの映画である。

2019年9月8日に日本でレビュー済み

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