雷迷テラ ワンマンイベント「1stBlitz」感想(あるいは反省)【後編】
混沌オークション
休憩時間中、本当は販売グッズをじっくりと見たかったのだが、他のテラリスと交流を深める政治活動に明け暮れて、まともに現物を見ることができなかった。そうこうしているうちに再びテラさんが舞い戻ることとなり、席に落ち着いた。
私達はこの後に行われるのが何か知っている。もちろん競りが行われる。私は知らなかったのだが、リアルイベントというのは財力で殴り合う会らしい。また一つ学んだ私は席につきながら、「皆さん、戦いましょう」と言った。すると両隣のソウマさんとぺこぺこさんから「ふざけるな」「お前、資金を温めるためにグッズを買わなかったな」と糾弾を受けた。私にそういう意図はまったくなかったから、新視点には驚くほかなく、確かにそう受け取られても文句は言えないと思った。「いや、でも私は平和主義者だから、みんなとは争いたくないんだ」と弁解したがソウマさんからは一切信用されなかった。それもそうだ。我々は競りのため殺気立っている。テラさんが映るスクリーンには、競りに励むいらすとやの人達が花を添えていた。
もはや誰がやったのか忘れたが私の付近の人だろう、雷迷テラ登録者数一万人記念グッズとして販売されたペンライトを持ち始めた人がいたため、「ああ、そういうこと?」と合点がいった。ペンライトを札がわりにして、「○○円!」と叫べば良いということだ。イベントのために念のためペンライトを持ってきて正解だった。
実際のところ、ペンライトは持参していなくとも競りとは関係がなかった。なぜなら競りのシステムは、欲しい人が起立し、値段が上昇するにしたがい、自分には払えないと観念した時に座るというものだったからだ。開始価格は三千円。「とんでもない金額」になりそうだという予測があるため、埒が明かないと判断されると、マツさんとジャンケンする。勝ち取った商品の転売は禁止(それにしても販売者が余裕で特定できるからそうそうできることではないだろう)。
出品物は以下の通りだった。テラさんが説明をしつつ、マツさんが現物を掲げて見せていた(スクリーン上にも現物と同じ写真は添付されていた)。
①世界で一つだけの雷迷テラ特大アクリルスタンド
②テラとおそろいタンブラー&テラ愛用リードルショット
③テラさんも使っている香水&わんこぬいぐるみ
①は縦20センチもあり、遠くから見ても確かなサイズを感じた。マツさんは自分の手と同じだと説明したが、テラさんはそこまでではないだろうと否定するので、マツさんは「さすがに盛った」とか「やっぱりそれくらいある」とか、どんどん話が変わってきた。あまり参考にはならなかったが、とにかく大きいことはわかった。おそらくテラリスが最も求めているのはこれだろう。
②のタンブラーは、以前も朝活ラジオで話していたTYESOのものだろう。非常に使い勝手が良いらしく、テラさんは白色のタンブラーを使用している。今回出品されるものの色は、白と黒のグラデーションだった。さらに、テラさんが愛用しているリードルショットもセットになっている。初めて名前を聞くものだ。なんでも毛穴を引き締めてくれるとかなんとかで、女子にはとても人気があるとのこと。っっっさんにとっては大いに同意する商品だった一方で、ぺこぺこさんは「(いまさら使っても)手遅れ」だと諦観を露わにしていた。曰く、「タンブラーは欲しいんだけど……」
③はテラさんの私物であるという香水と、犬のぬいぐるみのセットだ。雷迷家が飼っている犬にそっくりだという。背中にチャックがあり、雷モチーフのアクセサリーもついている仕様のぬいぐるみだ。テラとわんこのミックスという意匠で、「きゃわいい」路線の出品物だとテラさんは言った。
上記の三点に加えて、今回のイベントのために用意されたポスターも出品された。これは競りではなく、純粋にジャンケンで勝った者が(無料で)得られる。ラミネート加工を望むなら応じるとのこと。
さて、ついにアクリルスタンドの競りが始った。イベントには15人くらい参加していたのだが、9人が挙手して、やがて立ち上がった。そうなると価格を上げてゆくしかない。まずは四千円と、テラさんは価格をあげた。誰も席につかない。どうしてもペンライトを札として使いたかった私は、光るペンライトを高く挙げて「もっと!」と言った。すると両隣のソウマさんとぺこぺこさんも「もっと!」「もう一声!」と呼応した。こうなると勢いは止まらず、五千円になっても六千円になっても誰も座らなかった。テラさんは「やばない?」と焦り、マツさんは「意地張らないでくださいね」と冷静に呼びかけた。
結局、一万円になっても人々が鎮まらなかったので、ここでテラさんは「ギブです」と言い、じゃんけんモードに入った。
テラさんが音頭を取り、マツさんがじゃんけんを司る。最初にして、私は負けた。すると両隣から叫び声が聞こえた。なんとぺこぺこさんもソウマさんも負けていたのだ。「ここらの三人負けとるやないかい!」と叫ぶぺこぺこさんを見て、私は察した。ソウマさんも言っていたことで、ぺこghソウマを純然たるガヤ芸人扱いするために、何かの操作が加わっているのではないか。前回の記事でも書いた通り、テラさんとの問答にて最初に指名されたのは我々三人だった。その三人がこうして綺麗に揃って負けているとはどういうことなのか。一度疑うとどこまでも怪しい。
じゃんけんは、あいこでも勝ち残りとしていたが、三回目にしてじゅんさんが一人パーで勝っていたため、勝者として相応しいのではないかという雰囲気になった。じゅんさんは、テラさんへ贈るラブレター企画でも優勝した人であり、今回の当選はなるべくしてなった感すらある。
ここでソウマさんが「じゃんけんで勝ったとして、金額は一万円のままなのか」という質問をした。これは考えるまでもなく一万円だという回答になった。優秀なソウマさんによる質問によって、ぺこぺこさんは「全部(値段)上げよっかな??」と悪乗りのきざしを見せた。ぺこぺこさんはじゅんさんが勝ち取ったアクリルスタンドを「二万で買うか」と、早すぎる転売を企図していたため、感心するほど知恵がまわるのだった。ソウマさんも、じゃんけんで勝とうが価格は最高額のままと知って「面白くなってきたぞ……」と燃える様子を見せて、私はとんでもない狂乱に巻き込まれてしまったなと感じた。そういう私も半ばスリルに呑まれて最後まで着席しなかった者なのだから、誰を止める権利はないのだった。問題は、じゃんけんが弱すぎることだったのだが。
続いてのタンブラー&リードルショットだが、ぺこぺこさんは首を傾げていた。「美容はちょっとな……」。それは私にもよくわかった。何よりもっっっさんがいる。相応しい人がいるのだから、起立しない方がよいのではないか? という話になってきた。それって八百長なのかなと思ったが、特には気にしなかった。
さて、欲しい人はいるかという問いかけがあったのだが、っっっさんが起立してからというもの、他の者は静かに座ったままだった。即決だった。知ってた。
確かにさっきまでぺこぺこさんと私は話し合っていたが、それを他の人にも強制していたわけではない。それなのに私達の心は通じ合い、争うことなく笑顔でっっっさんを祝福することができた。あの時、私達は世界平和を実現させたと思う。ソウマさんは「ここに割り込むほど汚れた大人ではない」と語った。美しい心掛けだ。そして「次からが大人の戦い」とも言った。これはどうなのだろう。
見事、鮮やかに勝ち取ったっっっさんは、「今、万札しかないことに気づいてどうしようか」とこぼしており、この人もこの人でなかなかの戦闘態勢でいたことがわかった。後に両替を請け負ったのは、席の位置から考えて烏龍茶さんだったような記憶があるのだが、間違いだろうか。
わんこのぬいぐるみが出品されようとする中で、ぺこぺこさんは「もう立っとこうか?」と先ほどパスした時に溜めていたであろう情熱を早くも噴出させた。商品についての説明が改めてなされている中でも「もっと!」と既に叫んでおり、気が早すぎる。
結局また九人が立ち上がり、激しい競りが始まった。テラさんが四千円と言っただけで、ぺこぺこさんは「倍プッシュ! どうせ一万いく!」とせっかちな未来予測をした。途中でしきなちゃんさんが脱落して座ろうとするのをタカぺこコンビが無理矢理立ち上がらせようとする暴動も起きていた。この二人の間に挟まれた時点で観念すべきことだったのだろう。
結局また一万円が上限となり、じゃんけんに切り替わった。今回は珍しく私もぺこぺこさんもソウマさんも二回目まで残ったが、三回目で私は沈没した。残る二人は耐えたのだが、四回目でラスティーさん一人が(あいこではない)純粋な勝ちの手をつくっていた。めでたいことのはずだが、今回集まったテラリスの中で圧倒的に最年少なラスティーさんに、テラさんは「大丈夫アンタ!?」とむしろ心配の声を上げた。「交通費は確保してある!」と答えたラスティーは、今回のためにアルバイトで資金を溜めていたようで、むしろ勝ち残ったのは本望だったのだろう。そういう健気な若き姿を見て、私は「べ、別に、本気じゃなかったし? 盛り上がればよかったし?」とぺこぺこさんに弁明したくらいだ。ぺこぺこさんはというと、やはりラスティーさんに闇トレードをもちかけていた。
最後に、ポスターのために我々はじゃんけんをするのだった。「もう負けるって!」とぺこぺこさんは早くも諦めの意を吐露した。なぜか私とソウマさんも負け組扱いになっている。ここの列は噛ませ犬でしかないことが判明したのだから仕方がない。
殺気を隠せないでいるぺこぺこさん達を恐れてか、テラさんは「負けたとしても私を責めないでください。マツのせいです」と仲間を売った。これで標的はわかった。ぺこぺこさんは「足踏んだる!」とマツさんを脅した。マツさんは脚の骨を折って間もない(割と普通に歩けていたが)ことをテラリスは知っており、当然ぺこぺこさんは一人のマネージャーの弱点を把握していたのだ。マツさんにはもう一本折る脚がある。
ポスターは競りではないため、全員がじゃんけんに参加することとなった。今回に限ってはあいこでも負けとした。
ポスターはかなり大きなサイズだったが、唯一車で来たというぺこぺこさんにとっては大きさのことなど問題ではない。「談合しよう」とぺこぺこさんは手をチョキの形にしてマツさんに示し合わせようとしていた。そしてじゃんけんが始まると、いきなりぺこぺこさんは負けた。ソウマさんも負けた。私も負けた。
三人は崩れ落ちて、ひとしきり断末魔を上げた。「もう~~~こうなったらタカたか負けろ」とぺこぺこさんは罪を分け与えようとした。この辺で、ぺこぺこ、ghjk、アマギソウマというガヤ三人衆という同盟は確立しており、最後まで騒ぎ立てることになる。
結果、ポスターを手にしたのは、あちょーさんだった。名誉テラリスというものがもしあるとするなら確実に選ばれるであろうあちょーさんの勝ち残りについては、我々も納得せざるを得ないものがあった。あれだけ惨状を見せていたぺこぺこさんやソウマさんも「そうあるべき」「勝ってほしかった」と言うくらいなのだから。「今年の運を使い果たした」と語ったあちょーさんだったが、敬虔なテラリスとしてこれくらいの報いはあって当然だと思う。マツさんがポスターを抱えてあちょーさんのもとへ近づくと、あちょーさんが何か言った。マツさんはポスターを持ったまま元の場所に帰ったので、この期に及んでテラさんがあちょーさんにフラれたのかと思われたが、何のことはない、ラミネート加工を希望していただけだった。
今年に入り、テレビでジャンケンをする芸能人の姿を見て、そういえば最近ジャンケンを全然やっていないと気づいたことがある。果たして次にジャンケンをする機会いつ訪れるのだろうかと思っていたが、ここまで全力でやることになるとは思わなかった。久しぶりにやってわかったのは、じゃんけんが悲しいほど弱くなっていることだった。おかげで心置きなく物販のグッズが買える。
チェキ会(ガヤあり)
競りの後に行われたのは、チェキ会だった。
今回のイベントは、料金を払えばオンラインでも閲覧が可能だったのだが、チェキ会は現地参加の者のみが体験できる時間だった。
チェキ会は競りが終わってからすぐに始まるはずだったが、何かしらの調整が必要になったようで、いったんは休憩時間となった。これ幸いと、私は物販コーナーへと急いだ。ただし、ぺこぺこさんを同伴して。
物販ブースにはスタッフの方が三人ほどいて、その人達を前にして何を買おうかと物色して決める必要がある。私は買う前の段階で、スタッフと顔を合わせるのが苦手だったりする。コミケに行った時にも感じたことで、買うかどうかわからない段階で、販売者の近くで商品を見るのは気が引けるのだ。
販売ブースのそばには、大量のカードが壁に並んでいる。壁というのはホワイトボードとかそういうものだったと思う。そこに架けられた紐に、カードがクリップに留められ、縦横無尽に飾られていた。これはテラさんが単独で写っているチェキだ。いったいどれを選べばよいのやら。ぺこぺこさんは「コメントをとるか、顔をとるか」がポイントだと教えてくれた。確かにチェキに写るテラさんの表情と、書かれているメッセージはすべて異なる。普通に考えたら、コメントか顔かになる。ここで私は新視点を発見した。
私「いや、効果音!」
ぺ「……どういうこと?」
チェキに書かれたコメントには、何らかの擬音が添えられている場合があった。私が指し示したのは、「ねむねむ」のカードだった。これが効果音なのかというと微妙かもしれない(今まで一度もそんな音が聞こえてきたことはない)。しかし普通の単語とも思えないので、広義の効果音と言えばよいのではないか。私はここに着目した。
というわけで私とぺこぺこさんは、「ねむねむ」とか「みょーんみょーん」とか「んーまっ」とか「ムムム……ムム……」とか、大の大人ふたりがやっているとはとても思えない音を発し続けたのだった。
ちなみにぺこぺこさんは、「ワンマンイベント」の書き間違いで「ワンワンイベント」となっているチェキを発見したそうだ。よく目を凝らしたからこそ得ることができたのだ。私はというと、「みょーんみょーん」と「ムムム……ムム……」を選んだ。
テラさんとともに写るチェキを買った人は多く、撮影会場へと続く廊下には長い列ができた。ところで私はこの列に加わっていない。つまりチェキを撮る権利を買っていないということだ。ぺこぺこさんからも「買ってないの?」ということを言われた(そういうぺこぺこさんも「前回のイベントで撮ったから」という理由で今回のチェキを見送っている)。
私が写真に写らなかった理由もまた諸説ある。「指名手配されている」とか「概念が正体なので写真に捉えきれない」とか「偶像崇拝禁止系VTuberを自称しているから写されては教えに反する」とか、いろいろある。今回のチェキは、撮影したものがすぐに貰えるのではなく、いったん撮り終えた写真にテラさんが後でデコレーションを施して、データがDMで送られるという仕組みだ。これはテラリスへのアンケートで決まったことだった。もし私が絶対にチェキに参加せねばならず、その場でチェキが渡されるか、データ持ち帰りの後日送信か、どちらか選べるとしたら、まあ前者にするのだろう。いずれにせよ、今回は参加しないで良かったと勝手ながら思う。カメラを向けられると己の罪を認識して、たたずまいがおかしくなる私にとっては、あの狂騒のチェキ会から離れたところにいるのが正解だった。
というのもチェキ会が開かれる前に、マツさんが「ガヤの方は会場に入ってもらって盛り上げても大丈夫です」といったことを言ったのだ。やかましい人間が常駐して、「表情硬いよ!」「もっと近く寄って!」などと叫ぶことを容認、推奨している。破滅願望にとりつかれているのだろうか。
そうはいっても、チェキ代を払ってもいない人間が、撮影場所という聖域に足を踏み入れることをして良いのだろうかという懸念はあった。率先して列を追い越し、撮影部屋に向かうタカぺこコンビの後を追った私は、途中で躊躇して足を止めた。するとスタッフの方が来て「どうぞ」とまで言うのだから、もう進むしかないではないか。
撮影会は私達のせいで騒がしいことになった。ガヤの人達が思ったことを全部言うのだから。とはいえ、まだリアルでの関係が浅く、どういう距離感で接すれば良いのか定まっていない人もいる。だから、テラリスが入室する度に、「ガヤあり? なし?」と問いかける謎のオプション設定の時間が設けられた(結局、ほとんどガヤを入れっぱなしだった記憶がある)。そのうち、撮影を終えたソウマさんや烏龍茶さんがガヤ仲間に加わり、にぎわいは加速した。私もできるだけのことを言った。撮影の直前に、マイクを持ってテラさんの姿のサイズなどを指定する時間があるのだが、たまにチェキを撮る段階になってもマイクを離さない(離す機会を失ったと言う方が正確か)人もいたので、そういう人は「歌い手」とした。他にも画面に映るテラさんのすぐ隣まで寄らせた後に、「画面入れ、画面入れ」と言ったりもしたが、残念ながら高度過ぎて実現できなかった。
率先してガヤ同盟の一員となったのは、ぺこぺこさんとタカたかさんだったが、タカたかさんはチェキ代を買っていた。タカたかさんは、誰よりも最後にチェキを撮ることに決めていたのだ。前もって、ぺこぺこさんとの相談で、「近く寄って」と指示を受けたら、真に受けすぎてテラさんを通り過ぎてしまうとか、完全にテラさんの前に立って隠してしまうとかいったことの打ち合わせをしていた。しかし実際にタカたかさんがやったことは、まったく別のことだった。まずタカたかさんはマツさんを呼んで、タカテラマツの三人で写真を撮ろうとした(ここでオプションだ、追加料金だという非難が飛んだ)。そして、タカたかさんが言ったのは、「テラのポーズで撮ろう」というものだった。テラのポーズ? そんなものがあっただろうか。
これのことか!
確かにテラさんのキーヴィジュアルとして提示されるのは大抵これだ。それにしても、これが雷迷テラのポーズだと認識していた人はどれくらいいるのだろう。よく目にすることは目にする。だが、雷迷テラといえばで、このポーズをとる人はいなかっただろう。
テラさんを挟んで、タカたかさんと骨折したマツさんはテラのポーズをとりはじめた。最初私は、左右対称でやった方が良いのではないかと思ったが、実際に眼に映ったのは上半身を左へ反らせた二人の姿で、これはこれで凄まじい破壊力があった。間違いなく今回のイベントで最大の爆笑が起こったのはこの瞬間だ。
タカたかさんはチェキをもう一枚撮ることができた。しばらく考えた結果、テラさんを前にしてタカたかさんが土下座をするという構図に決定した。タカたかさんの顔は一切隠れており、平伏す後ろ姿しか写らないことになる。これも爆笑だった。どうでもいいことだが、タカたかさんとテラさんの光景を見た私が思い浮かべたのは「大政奉還」だった。
解散まで
また元の会場に戻った私達は、最後にテラさんと顔を合わせた。まだ画面に競り合ういらすとやの人達が映っていたため、競りpart 2かと騒いだのも束の間、何事もなかったかのように隠蔽された。
テラさんは今回の感想をテラリスに訊ねまわろうとした。しばらく誰が当てられるのかという緊張感が走ったが、結局のところガヤ三人衆に白羽の矢が立った。
ぺこぺこさんは第一に「ガヤ最高です」と言い放った。じゃんけんに勝てなかったことについて触れられると「いや、許しません」と正直に答えた。最後に「次は大阪でイベントをしてほしい」という要望まで寄せていた。ここで会場のテラリスに西日本勢の人数を調べたところ、四人しかおらず、思った以上に関西勢がマイノリティーであることがわかった。もし大阪でイベントが行われるとしたら、大変ありがたい話だ。きっと必ず行けるだろう。
ネクスト・ガヤは私だった。「ghjkのgはガヤのgです」と宣言して、ようやく雑につけた名前に意味が付け加えられたのだった。テラさんからは今更ながら「暑くないですか?」と訊いてきたが、そこは「デジタルタトゥー」の一点張りで応えた。暑いに決まっている。
ラスト・ガヤのソウマさんで、ガヤ三人衆は完成した。テラさんから「他のVTuberさんのイベントにも行ってるんですか?」と問われ、「黙秘しましょう」と答える不穏な空気も流れたが、基本的にはぬくもりのある応答だった。最初に緊張していると言っていたソウマさんだったが、ガヤ三人衆に加わったことで「こういう風でもいいんだ」という安堵が得られたという。
テラさんは三人衆に「LINEグループでもつくってもらって」と言ったが、それは実現していない。ぺこぺこさんが言っていたことだが、「一向に誰も動かさないだろ」というのはいかにもな意見だと思う。
イベントの最初の方でテラリス全員に聞いてまわった通り、最後も同じ流れになるのかと思ったが、見事にガヤ三人衆だけが焦点を当てられ、終わりだった。ガヤの星からやってきたぺこぺこ、政治家のghjk、O型のソウマ、これが三人衆で、ぺこぺこさんはタカたかさんも加えるべきだと主張した。
最後にマツさんとテラさんからの挨拶があった。春からの準備は大変だったが、今ではほっとしている。テラリスの環はやはりあったかかった。今後もイベントは開きたい。このように、希望に満ちたエンディングだったと思う。
イベントが終わっても、会場はしばらく開かれており、テラリス同士でゆっくりと話すことができた。二時間程度のイベントだったが、とてもそうは感じられなかった。楽しいひと時を過ごせたのは間違いない。ただ、ガヤのために喉を消費したことに関しては、疲労としか言いようがないというのは三人の一致するところだった。
ほどなくしてテラリスはマツさんを囲んで、何かと意見をぶつけていた。特にぺこぺこさんは、ここでも次は関西方面でイベントをやってくれと希望を出していた。大阪でも京都でも名古屋でもいい。ただし、北海道はやめてくれと念を押していた。それは一部のテラリスしか喜ばないのだから。青森から鹿児島までなら車で駆けつけるというのがぺこぺこさんの意気込みだった。
競りについても、一万円が上限というのは低すぎるという意見があった。マツさんは、比較的経済力のない学生への配慮として、一万円は超えないという取り決めにしていたのだと答えた。最後に出されたポスターが純粋にジャンケンで勝ち獲れるようになっていたのも、やはり優しさの表れだったのだ。それはそれとして、戦闘態勢で臨んだ汚い大人たちは本領発揮ができなかったし、実際ガヤ三人衆は噛ませ犬を演じることになったのだが。それもこれも若き人への思いやりというものだ。
最後に私達は落穂拾いをやった。壁にはチェキがまだ売れ残っている。これらを一掃してしまおう。ぺこぺこさんの提案で、男気じゃんけんで勝った者が一枚ずつチェキを買うことになった。参加者は、その場になんとなくいた人達で、会場に居る全員ではない。とはいえそこそこの人数はいたため、二人ずつになってじゃんけんをした。チェキは一枚五百円で、苦しい値段でもないからいくらでも勝つつもりだったが、先述の通り悲しいくらい弱体化しているため五回はやったが勝てたのは一回だけだった。
イベントは既に終わっており、スクリーンにテラさんが現れることはなかったのだが、テラさんは会場の様子を窺うことができたようで、どうやら我々は監視されていた。私がすごい気迫で、全身を奮い立たせてじゃんけんに臨む姿もばっちり見られていたことが後で判明した。そこまで異様な様子を演じていたとは思わなかった。恥じるべきなのか誇るべきなのか。
イベントのためにつくられたポスターやらパネルやらも、貰っても良いということになった。その場にいるテラリスが均等に得られるように相談して配られており、やはりノーベル平和賞なのだった。パネルは会場入り口の高いところに展示されていたもので、よく見ると一部が欠けていた。どうやら私が会場に入る前に、タカたかさんが器物損壊に及んだ跡のようで、これは長身になった者の宿命なのかもしれなかった。
こうしてすっかり満足した私達は、あっさりと専門学校を出ることとなった。そういえばイベント終了直後に、皆で集合写真を撮るとか撮らないとかいう話があったはずだが、結局一枚も撮っていない。偶像崇拝禁止とかのたまっているghjkは集合写真NGではないのかという質問も飛んできたことを憶えている。私は断るとも何とも言わなかったし、特に嫌でもなかったのだが、どうしたものだろう。僕のせいなのか。僕が槍を抜いたから……(碇シンジ)
イベント前の配信では、片付けもやるよと威勢よく名乗り上げるテラリスもいたが、我々はナチュラルに前言撤回して仲良く帰っていった。イベント直後にツイキャスで開かれた配信で、テラさんはそのことを指摘した。片付けを宣言したのは私ではなかったにしても、そんなことはすっかり忘れていた。別にテラリスに準備や片付けをする必要はないのだし、忘れていたということはそれだけ濃密な時を過ごせたとも言えるし、無罪になるのではないだろうか。
おわりに
後にテラさんが専門学校の人と話したところ、イベントに集まったテラリスの雰囲気は家族のように映ったと、その人は言ったという。我々に血のつながりはないはずだし、今回会うのが初めてだということも当たり前の状況だったが、そんなことが信じられないほど和気あいあいと交流し、その場を楽しむことができていたのは確かだ。今回のイベントに惜しくも参加できなかった人もいたという話だが、誰が参加したとしてもテラリスらしく輝いていたことだろう。
イベント会場の様子を調べるために、東京アニメ・声優&eスポーツ専門学校のことを調べると、「みんなが「主役」の学校です」という文言があった。それはある種、テラリスにも通じているように思う。もちろん我々にとっての主役は雷迷テラ以外にないのだが、テラさんを中心として集まっているテラリスは、輪を乱さず互いに尊重し合える関係を築くことができていると思わずにはいられない。それはテラさんに人をまとめる力があるからであり、だから私達も喚起に応ずることができるのだ。人を惹きつける力があり、しかも人々を平和にまとめることができるテラさんが、この学校の講師を務めているというのは、必然というべきことだろう。今回のイベントで私はそのように強く感じた。
私自身、イベントに参加してテラリスの間に馴染めるのかという心配もあったが、結果としては杞憂に終わった。私自身が歩み寄ったからでもあるし、テラさんが導いたからでもあるし、他のテラリスの受容力のおかげでもある。テラリスの環はうまく統制がとれていると思えてならない。ひとりひとりに感謝を伝えたいほどだ。
余談
学校を出て駅までテラリス集団は列をつくって歩き、雑談していた。たったひとり車で参戦したぺこぺこさんを除いて、ほぼ全員が同じ駅を目指していたと思う。その場にいたテラリスは気になったかもしれない。ghjkが改札のところで、急に失踪したことを(気にならなかったのなら、それはそれで構わない)。私が持っていた二枚のICカードは、紛失&水没で使用不可になっていたのだ。私がせっせと切符を買おうとしている間に、皆様は文明の利器を使って、いとも簡単に改札を通っていた。私の東京滞在は一週間近くに及んだのだが、ICカードを持っていないことは死を意味していた。なんと乗り換えの多いことだろう。
テラリスとろくに挨拶ができずに別れたことは、あっけないとも思ったが、特に不満には思わない。ある意味では喜ばしいことでもあった。私はミスタードーナツ 西葛西駅前ショップに入り、ドーナッツ二つと汁そばを食べることで、これを夕飯とした。最近、なかなか汁そばを売っているミスタードーナツにありつけなかったので、これは大いに助かったのだった。
私は一人で親戚の家に寄った。親戚が食べていたピザと豆腐のご相伴にあずかっていると、「なんで今日は東京に来たんだ?」という素朴な疑問を受けた。この人達に雷迷テラのことをどう説明しろというのか。私は素直に言えることを言ったまでだった。
その夜は、快い疲労を覚えており、私は数年ぶりに0時前に寝た。本当に珍しい快眠だった。
東京での用事に、国立国会図書館に行く日があった。ここを利用するには、鞄を持ち込んではいけないという決まりがある。鞄はコインロッカーに納めなくてはならない。館内に物を持ち込むには、透明性の高い袋に入れる必要があるのだった。何か適当な袋がないかと考えた結果、私はイベントで貰った、グッズが入っている袋を用いることにした。受付の人に確かめたところ、透明性が高いのでOKだった。こんなところで再利用できるとは思わなかった。