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ありがとうスティーブン・フルトン

こんにちは。テトラサイクリンです。
さあ今週もやっていこう、世界戦紹介シリーズ。4月8日のアマプラ興行やジャーボンテイ・デービス vs ライアン・ガルシアの黄金カード決定をはじめ、何かの間違いかと思うほど詰め込み過ぎの4月に湧くボクシング界だが、その前にまずは3月だ。3月は4月ほどの派手な世界戦はそれほどないが、注目に値する面白い試合はバランスよく散りばめられている。祭りのための準備期間とでも言おうか。来る夢のような4月に向け、我々ファンも、この3月でしっかり肩を温めておきたいところだ。

そして今週、そんな我々のブルペンには持って来いの試合から3月が幕を開ける。WBC世界フェザー級暫定王座決定戦。1位ブランドン・フィゲロア(アメリカ) vs 2位マーク・マグサヨ(フィリピン)である。
いや~、なんて良い組み合わせなんだ…。本当に素晴らしい。こういうマッチメークをどんどんお願いします!!と思わず叫びたくなってしまうような好カードだ。
ご存知の方も多いと思うが、元々ブランドン・フィゲロアの相手は、お馴染み100billionことスティーブン・フルトンのはずだった。フルトンの僅差判定勝ちに終わった統一戦の再戦だ。海外の有識者からはフルトン vs フィゲロアⅡがほぼ決定との情報も出ていたほどで、私を含め、フルトン vs 井上を期待していたファンたちは肩を落としたことだろう。だが、そこでフルトンが、なんと本人も望んでいたはずのフィゲロアとの再戦オファーを蹴り、日本での井上戦を選ぶという英断に出たことで急転直下。フィゲロア vs マグサヨの好カードが組まれるに至った。フルトン vs 井上尚弥というただでさえ至高なカードのあまりにも豪華すぎる副産物。文字通りフルトンが井上戦に舵を切ってくれていなければ実現していなかった試合だ。もちろん破格のファイトマネーを提示してフルトンを振り向かせてくれた日本側のプロモーターや井上陣営にも感謝だが、フルトンにも感謝と尊敬以外の感情はない。改めてほんっっっとうにありがとうフルトン。
ちなみに今年2023年、フェザー級はまさに激動の最中にある。しばらく団子状態で凝り固まっていたフェザー級上位陣が、ここに来て遂に動き始めたのだ。まず以下に現在のフェザー級のリング誌ランキングを記す。
王座:空位
1位:マウリシオ・ララ(WBA王者)
2位:レイ・バルガス(WBC王者)
3位:マーク・マグサヨ
4位:ルイス・アルベルト・ロペス(IBF王者)
5位:リー・ウッド(前WBA王者)
6位:ジョシュ・ウォーリントン(前IBF王者)
7位:キコ・マルチネス(IBF2位)
8位:ロベイシ・ラミレス(WBO2位)
9位:マイケル・コンラン
10位:アイザック・ドグボー(WBO1位)
ご存知マウリシオ・ララは先日、5位のリー・ウッドに勝ってWBAの新王者となった。先月までは4位だったが、ウッドへの勝利に加え、直前に、1位だった前WBO王者エマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)が1階級上のSフェザー級王者となり転級を果たしたことも相まって1位にランクインとなった。
2位のレイ・バルガス(メキシコ)も、2/12にWBC王座を保持したままSフェザー級でWBCの王座決定戦に挑んだが、指名挑戦者となっていたオシャキー・フォスター(アメリカ)に完敗し、Sフェザー級の洗礼を浴びる結果となった。
7位のキコ・マルチネス(スペイン)は4月8日に有明アリーナにて、日本の阿部麗也選手との注目のIBF指名挑戦者決定戦が決定している。
8位のロベイシ・ラミレス(キューバ)と10位のアイザック・ドグボー(ガーナ)は、日本時間4月2日にナバレッテ転級により空位となったWBO王座を争うことが決定している。
また、昨年末にジョシュ・ウォーリントン(イギリス)からIBF王座を奪った4位ルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)=通称ベナドは、まだ正式決定こそなされていないものの、9位マイケル・コンラン(アイルランド)を相手に日本時間5月28日に英国で初防衛戦を行う予定だと報じられている。お互い昨年にDAZNでの世界戦を経験しており、何か問題が生じない限りは実現はほぼ間違いないと見て良いだろう。海外の情報筋によれば、実際に交渉は順調に進んでいるようだ。
お分かりいただけただろうか。そう、上位10人のうち、何と5位ウォーリントン以外は今年の上半期のうちに全員試合が決まっている(or終えている)のだ。激動のフェザー級という意味がご理解いただけることと思う。ちなみに今週末には、リング誌ランキングには名を連ねてはいない選手同士だが、英国でWBA世界フェザー級指名挑戦者決定戦、1位トーマス・パトリック・ウォード(イギリス)vs 2位オタベク・ホルマトフ(ウズベキスタン)の無敗対決も行われる。さらに言えば、日本時間4/9のマッチルームの興行では、ジェシー・マグダレノ(アメリカ) vs レイモンド・フォード(アメリカ)という元世界王者VS次期世界王者候補の注目対決も控えていたりする。この日のメインは2階級制覇に挑む超新星ジェシー・"バム"・ロドリゲス(アメリカ)のフライ級王座決定戦だ。

まとめると、
<WBA>
・2/19 ウッド vs ララ → ララ勝利
・3/5 ウォード vs ホルマトフ(挑戦者決定戦)
・4/9 フォード vs マグダレノ(米大陸王座戦)
<WBC>
・2/12 バルガス → フォスターに敗北
・3/5 フィゲロア vs マグサヨ(暫定王座決定戦)
<IBF>
・5/28 ベナド vs コンラン
・4/8 マルチネス vs 阿部(挑戦者決定戦)
<WBO>
・2/4 ナバレッテ → フェザー級王座返上
・4/2 ドグボー vs ラミレス(王座決定戦)

さて、フェザー級が今いかにアツい階級かということを確認したうえでフィゲロア vs マグサヨに戻ろう。まずブランドン・フィゲロアだが、この選手に関しては今や多くの説明を必要としないかもしれない。身長173cm、リーチ184cmという長身瘦躯ながら、タフネスとスタミナに優れ、異常なまでの手数を生かした接近戦が大好物のファイターだ。スイッチも多用しながらとにかくしつこく相手に襲いかかっていく。そんな異質なスタイルに甘いマスクも相まって、日本における知名度も人気も共に高いファイターだ。ただ日本のファンの間での知名度が爆増したきっかけは、何と言ってもあの悪童ルイス・ネリをボディ1発で悶絶KOに葬った試合だろう。悪役がイケメンヒーローに倒される勧善懲悪物語。あの試合は日本人ファンの間ではまさにそんな様相を呈していた。また、2021年11月に行われた前述のフルトンとの熾烈な王座統一戦も印象深い。フルトンの井上戦が浮上したことで、またその試合を見返したファンも多いのではなかろうか。
とにかく誰に対してもタフな試合を強いり、自分の土俵に引きずり込んでは見応えたっぷりの面白い打ち合いに仕立て上げてしまう。そんなハンサムな見た目に似合わぬ戦闘狂っぷりに、付いた異名はハートブレイカー(心を砕く者)。誰が考えたのかは分からないが、全くよくもそのようなぴったりのニックネームが思い付いたものだ。
フルトン戦後には「死ぬ思いだった」と表現するほどの減量苦から遂に解き放たれ、早速やってきた2階級制覇のチャンス。ハートブレイカーのハートは逆に燃え盛っていることだろう。フェザー級リミットでの試合自体は前回のカルロス・カストロ(アメリカ)戦に続いて2戦目だが、カストロもSバンタムからフェザーに上げての初戦だったことを考えれば、この試合がフィゲロアにとってフェザー級における真の戦いの始まりだと言っていい。相手の体格や耐久力、パワーが増す中、一体フィゲロアがどんなパフォーマンスを披露してくれるのか。群雄割拠のフェザー級をかき回してくれるのか。是非とも注目しようではないか。

続いて対するマーク・マグサヨ(フィリピン)だ。昨年7月にレイ・バルガスとの初防衛戦で1-2の判定で惜しくも敗れ失冠した前WBC王者だ。マグサヨにとっては再起戦がいきなり強敵フィゲロアとの暫定王座決定戦となる。ネクストパッキャオ候補の大器として、デビュー時から大きな期待を背負ってきたマグサヨ。バルガスに敗れるまで24連勝と、戦績自体を見れば順風満帆のキャリアを歩んできたように見える彼だが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。というのも、やや戦い方が正直過ぎてしまったり、KOを狙い過ぎて大振りになってしまったりする試合も散見され、期待度の高さの割には少し伸び悩んでいたのも確かだったのである。順調に白星を重ねていた最中の2018年には、プロモーションとの契約上の問題によって1試合も出来ないという無駄なブランクを作ってしまったこともあった。
それでも、元日本フェザー級王者林翔太さんとのエリミネーターをはじめ、数々のピンチや激戦を乗り越えて世界戦まで辿り着くと、初挑戦で年一仕事人ゲイリー・ラッセル Jr.(アメリカ)の長期政権を見事に終わらせ、その才能が確かであったことを証明してみせた。ラッセルが右肩の怪我で途中からジャブすら全く使えないという中での試合ではあったものの、そういった運も含めてマグサヨの実力と言えよう。それに、そこを突いてしっかり勝ち切ったマグサヨの勝負強さは間違いなく讃えられてしかるべきものである。あの試合を見るにラッセルは、恐らく片腕しか使えない状態でも大半の世界ランカーはポイントアウトしてしまっていただろう。マグサヨのパワーとアグレッシブさが手繰り寄せた金星だと言って良い。
これは私の認識なのだが、停滞期にあったフェザー級が動き始めた最初のきっかけは何を隠そうこのマグサヨの番狂わせだったと思っている。そういう意味でも個人的にマグサヨには非常に感謝しており、彼が勝ってくれて良かったと思ってしまっているのが本音だ。・・・ごめんな、ラッセルの兄貴…。(ちなみに、私はラッセルのことも大好きだ。)
そんなマーク・マグサヨだが、彼の武器は何と言っても1発で試合を決められるパンチ力。攻撃力が魅力という点ではフィゲロアと共通するが、フィゲロアが接近戦での細かいパンチで相手を削り倒すスタイルなのに対し、マグサヨは遠目からのストレートやロングフック、カウンターが得意な一撃必殺タイプのパンチャーである点が大きく異なっている。また前にも述べたように、何度も苦しい場面を乗り越えてきた経験もマグサヨの大きな支柱となるだろう。最近で言えば、世界挑戦権を掴んだフリオ・セハ(メキシコ)との二転三転の死闘が記憶に新しい。パッキャオ引退試合のセミとしてエキサイトマッチでも放送されただけに、最後の壮絶なKOシーンは多くの方が衝撃を以てご覧になったことだろう。
ちなみにこのフリオ・セハ、マグサヨ戦前に戦った相手が偶然にもフィゲロアなのだが、この試合でセハは大幅なウェイトオーバーをやらかしている(結果はWBAレギュラー王者だったフィゲロアのドロー防衛)。

長くなってしまったが、とにもかくにも、フィゲロアvsマグサヨという攻撃力とフィジカル、スタミナ、そして強靭な精神力を持ち味とするボクサー同士の試合は面白くなること間違いなしだ。ファイトオブザイヤー候補かもしれない。・・・いやお前毎回それ言ってるやん!とツッコまれていることだろうが、ただ注目を惹くために言ってるのではなく本当の本当にそうなのだ。文句なら、本当にファイトオブザイヤー候補になり得るような激闘必至の試合を続けざまに並べてきたプロモーター陣に言って欲しい。ま、まあ、ファイトオブザイヤー候補以上の表現が思い付かないことは素直に謝るが…。
私としては、接近戦が鬼のように強いフィゲロアと逆に接近戦がやや苦手のように見受けられるマグサヨだけに、接近戦に持ち込めればフィゲロアが一気に優位に立つのではないかと思っているが、マグサヨの伸びのある1発が序盤早々火を噴く可能性も十分考えられる。フィゲロアもスタイル的にパンチはよく食うし、タフネスも売りにしているとはいえ、どこかのゴロフキンさんとは違って、全く効かされない鉄顎の持ち主というわけではない。マグサヨの強打を食えばフィゲロアですら一撃でマットに沈みかねない。
一見泥臭くも見えるフィゲロアの蟻地獄か、マグニフィコ(壮麗)のニックネームを持つマグサヨのロマン砲か。乞うご期待だ。

しかし最後に悲しい悲しいお知らせなのだが、今回もこの試合を日本で配信してくれるプラットフォームがない…。Fight Sports、もっと頑張れよ…。

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