祝!新杉並区長初登庁、ノーカー・ノープロブレムなEカーゴバイク体験談@ベルリン
4月中旬、2年ぶりの開催となるベルリンの自転車メッセVELOBerlinを私は訪れた。"自転車フェスティバル"とも題される土日開催のB2Cなこのメッセは、私にとってドイツで最もお気に入りの自転車イベントのひとつである。2013年から同メッセを毎年訪れていると色んな変化や発展を目撃する。今年はオーガナイズのウーマンエンパワーメントにかける気合いが素晴らしく、VELOWomenというカテゴリのトークイベントも多数開催された。見どころや楽しみ方は盛りだくさんにあるのだが、今回は岸本聡子新杉並区長にかけて、Eカーゴバイクと解いていきたい。その心は…"No car, no problem"なのだ!
ちなみに新杉並区長と面識があるわけでは全くない。区長に当選されたという報を見て、もしかして"あの記事"を書かれた人ではと探してみるとお名前を照合できた。"社会運動の支援が仕事"とプロフィールで拝見して、こんな方がいらっしゃるんだなととても嬉しく思い、印象に残っていたのだ。というのも交通とモビリティを持続可能に転換するための活動に市民として参加し続け、はや住/州民請求3本(うちひとつの進行状況はこちら)。執筆されたベルリンの家賃高騰問題は住民投票に委ねられたが、同様の直接民主主義制度を背景とした自分たちが住みたいまちのための活動を、隣国から日本語で取り上げてくださるなんて!とじんわりしたのだ。
さて、話をVELOBerlinに戻す。出展者の常連、自転車王国オランダの官民からなる自転車交通専門家組織Dutch Cycling Embassyは、メッセ会場テンペルホーフ空港跡地の半外エリアに小さいスタンドを設けていた(最初の写真です)。そこにはほぼお初に見る、オランダの電動カーゴバイクメーカーUrban Arrowを黄色ベースでラッピングした車両が2台ほど。他の質問もあったので、混み合うスタンドが空くのを見計らって「これは何だい?」と訊いてみた。それはオランダ発のスタートアップ、CargorooというEカーゴバイクシェアシステムの車両だった。欧州9都市においてデジタル化したシステムでサービスを展開、ドイツ初の導入都市となるベルリンでは3月に約10台が稼働スタートしたばかりだと言う。
ドイツ初のモビリティサービス導入都市にベルリンが選ばれることは多いが、私がCargorooの人に「オッフェンバッハではUrban Arrowを無料のシェアシステムで貸し出しているよ」と言うとご存知なかったようで驚かれていた。私も関わっているVCDドイツ交通クラブ(NGO)のヘッセン支部のカーゴバイクシェアシステムは、予約はオンラインだが非電動・電動の車両問わず、貸し出しは拠点となる協力店舗がマニュアルで行っている。おもしろいのはCargorooがUrban Arrowの1モデルのみをそのサービス車両に選んだことだろう。いくつかのメーカーのカーゴバイクが候補にあったようだが、最終的にはUrban Arrowのモデル"ファミリー"を選定したそうだ。
フランクフルトの市内中心部を歩けば何台かのUrban Arrowにもれなく当たるほど、カーゴバイクの種類多しと言えどドイツの人口5位の都市における支持率はかなり高い。Urban Arrowのラッピングに特化したプリント会社もあるほどである。そして何より、私はそのシェアシステムのUrban Arrowの世話人をしているので、乗り心地・使い心地が抜群にいいことは自らよくわかっている。Cargorooの車両選定に大納得できるのだ。
土日の2日間はメッセをみっちり堪能、月曜日の夕方にベルリンを発つまでは、住民投票と背景とした自転車インフラ改善運動がもたらした変化を見るべく、どのシェア自転車を使って回ろうかなと考えていた。乗り慣れたUrban Arrowがそこにあり、1時間無料コードもらったのでCargorooを使わない手はない。偶然辿り着いたクロイツベルクの無包装量り売りのお店が貸出拠点のひとつとなっており、「まだよくわかってないの(笑顔)」というお店の人に借りるよと一応声をかけ、アプリで難なく施錠解除成功!後輪のロックが自動で「カシャン」と開く音がいい。
気になる料金設定だが、ベルリンでは1時間4ユーロ20セント(1分7セント)でレンタル可能。1ユーロで20分間予約もできる。Urban Arrowは長さ260cm、幅70cm、高さ110cmなので日本だと軽車両ですね。ハンドルを握る人を含めて224kgまで積載が可能だが、多くの人々は"何キロ前(のカゴ)に載せられる?"ということを知りたいだろう。その問いをする人の体重は知る由もないので、100kg〜140kgくらいまでは載せられるという説明が多い気がする。主流なチャイルドシートであるマキシコシを固定できるようになっており、8歳くらいまでの子供3人か、子供2人とマキシコシに入れたベビーを乗せ、最大4人までの移動が1台の自転車で可能である。
充電が満タンであれば100kmくらいは走れるので、子供とちょっと遠めのお出かけをするもよし、大きめの買い物をしたり、重いものを運ぶ用事にも持ってこいである。毎日の移動のために所有するモビリティではなく、必要な時に利用するモビリティは、車両との相性がいいほどストレスフリーである。Urban Arrowのファミリーは1台7000ユーロほどするので(どの自転車でも同じだが)安全な駐輪場所の確保は重要な課題である。ただ所有しなければ盗難リスクから解放されるので、こんなサービスはありがたい。
ベルリンにはADFCドイツ自転車クラブのベルリン支部が運営する無料カーゴバイクシェアシステムfLotteもある。非電動・電動の様々なタイプの貸し出し車両は200台以上に増え、それらは会員でなくても誰でも利用することが可能だ。Urban Arrowが非営利系組織が運営する無料システムのラインナップに加わるとはCargorooの人は思わなかったのだろう。ドイツ国内でもカーゴバイク事情はまち独自の状況やトレンドによって異なる。
岸本聡子杉並区長に話を戻す。住民思いの杉並区長をつくる会の立ち上がりから候補者擁立、そして当選までのストーリーが素晴らし過ぎて目が潤んでしまう。当選の報から起こっていたことを色々知りたくなり、公式ウェブサイトの実績ページから寄稿されてきた記事を読んでいた。するとCargorooを利用されていたことを発見したのである!
Cargorooが現在稼働している欧州9都市の内訳は、オランダ5都市、ベルギー2都市、イギリス1都市、ドイツ1都市という状況である。在住されていたベルギー・ルーベン市では記事内容からすると2020年にCargorooが導入されたようだ。そしてその記事を読むとわかる、彼女が"No car, no problem"を地で行く人だということが!
「車なしでも問題なし」、そうCargorooは動画の中で多数の言語で謳っている。Urban Arrowはまさにそれを体感することのできる自転車なのだ。動画の中の人たちの姿勢を見ると、前屈みではないことがわかるだろう。オランダ発のカーゴバイクは前屈みにはならないタイプのものが多い。オランダと日本のすてきな共通項は、一般的な普通の自転車が前屈みにならないタイプであることだ(Dutch Cycling Embassyはオランダの自転車通勤風景をVELOBerlinのトークイベントで見せて、ドイツと違い"前屈みではない"ことを聴衆から引き出したりしている)。これは私がUrban Arrowを好きな理由でもあるし、前屈みにならない日本の普通の自転車走行姿勢がデフォルトの人は、Urban Arrowや特にオランダ発のカーゴバイクとはきっと親和性が高いと思う。ちなみにフランクフルトでUrban Arrowに乗っている人は他のカーゴバイクと比べると圧倒的に女性が多く、私を含めて「自転車は趣味やスポーツではなく移動するための乗り物です」という人向けの新たなモビリティである。
前屈みにならない話が長くなってしまったが(大事)、ノーカーノープロブレムな区長を選んだ杉並区のみなさま、なんてお目が高い!オランダに10年住まれていた彼女なら、きっと下の図の上のような都市計画ではなく、下のようなまちづくりを市民参加のもとで進めてくれるのでしょうね。遅れましたが、初登庁おめでとうございました!
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