書籍化すれば、幸せになれると思っていた
大学3年生の時に念願だったラノベ作家になった
当時のwebサイトで流行っていたジャンルに乗っかり、1日で45万のPVを叩きだした。ブックマークも2万を超えた。自分の中で最高傑作だった
出版社から書籍化打診が来た時、喜びと同時に「そりゃあそうだろう」という気持ちがなかったかというと嘘になる
より多くの反応がもらえ、あるいは貰うためにツイート内容が先鋭化していくTwitterでは書籍化作家星のようにいるように思えるが、実際のところその数は作家全体の一握り
僕は舞い上がったし、友達も祝ってくれた
『これで就活はしなくていいな』なんて言って飲み明かした。
しかし現実はそう甘くなかった
1巻打ち切りの連絡が届いたのは、コミカライズの原稿が届いたのと同時
『売れ行きが芳しくなく小説の方は打ち切りとなります。コミカライズはweb版をベースにしていくということで』
社会に出たことのない僕に届いたビジネスメールはとても乾いた文書で思わず笑った
元々就活はしなければと思っていた
ネットには本を1冊出して専業になる話が転がっていたが出版時の契約内容を考えればそれだけで食っていくのがどれだけ至難の技なのかよく分かる
元々狙っていたのがweb系の開発
僕は迷わずそこのインターンに飛び込んだ
次も書かなきゃな、と漠然と考えていた
業界でもかなり大きな自社開発のインターンで早期内定をもらえた僕は、しばらくの間小説に本腰を入れようと思った
4年生になれば卒論が始まって時間が取れなくなる。就職したらもっとだ。
時間があるのは今しかないと思った
僕が久しぶりにwebサイトを開いた時、そこには驚きの光景があった
ハイファンタジージャンルの死亡
異世界恋愛ジャンルの台頭
元々異性界恋愛なんて書いたことも読んだこともない僕は絶望した
web小説サイトでの流行とは圧倒的だ
流行りに乗っかれないということは数字が取れないと言うことを意味するに等しい
けれど企画なんて出せない僕はそれに乗るしかなかった
当時はやっていたのは異世界恋愛の短編を書いてランキングに載せ長編に誘導する
いわゆる短編詐欺
僕はランキング読みあさり、薄っぺらい骨格を掴むとそれでなんとか短編を書いた
結果は惨敗
ブクマ数は30
ポイントは500にも届かなかった
書籍化作から誘導したと言うのにこの数字
思わず眩暈がした
webの流行は一過性。
すぐに異世界恋愛の流行りも収まるだろう
それまでは卒論に力を入れるんだ…!
そうやって自分に言い訳をして、なろうのページを閉じた
コミカライズの企画はゆっくりと進んでいて次の話の原稿も届いていた
それが僕の心の支えだった
それがあれば何とか作家でいられたのだから
しかし卒論発表会が終わり、卒業を間近に控えた大学生たちが流行りのウィルスのせいで卒業旅行に行けない悲鳴も最高潮に達した日に開いたwebサイトには相変わらず異世界恋愛がトップを飾っていた
腹を括るしかない、強く僕はそう思って売れている異世界恋愛の小説を片っ端から買い漁った
運が良かったのか、自分に実力があったのか
次の短編はそこそこ伸びた
1度伸びれば逆お気に入りユーザーがついた
逆お気に入りユーザーがつくと、もっとランキングに乗りやすくなった
僕が用意した5作のうち2作の書籍化がとんとん拍子に決まった
進んでいたコミカライズは人気がなくて打ち切られた
長期シリーズにしたい、と思った
働き始めると執筆にとれる時間は無くなってしまうと聞いていた
兼業作家ではweb作品を研究し、新規の作品を上げることが困難になる
だから、長期シリーズにしたいと思ったのだ
そんな思いで迎えた入社初日
僕はIT業界というものを舐めていたことを思い知らされた
厳密な労働管理の結果、効率が落ちるからテレワーク禁止というハイテクなのかローテクなのか分からない結論が出ていた会社は流行り病の中でも連日出社
片道1時間かかる満員電車に乗り、2時間の残業をして、また1時間電車
これだけで4時間が消える
そこに書籍化作業が入ると、自由時間は0だった
真っ先に削ったのは、食事の時間だった
飯を食うのは時間がかかる
だがエネルギーを補給するだけなら時間はかからない
コンビニでゼリー飲料を買うと仕事から帰ってきてパソコンを叩き朝早く起きてパソコンを叩き、出社したらパソコンを叩く
疲労は気付かぬうちに、けれど確実に体を蝕んでいた
若いから大丈夫
そんなことを言っていられるのは健康な食事と睡眠をとっている人間だけの話
12月も回ったある日、僕は会社のトイレの中で倒れ救急車で運ばれた
会社の人には迷惑をかけ、締め切りも破ってしまった
副業なんてするんじゃなかった
もう小説を書くのはやめよう
そう思った時だった!
実家から送られてきた『青汁』
これを飲むと僕の体はみるみるうちに元気になった!
過労時代の栄養失調は『青汁』に敗れさったのだ
集中力があがったおかげか執筆速度もみるみる上がり、いまでは締め切りなんて落とさない
会社だって絶好調だ
2年目にして、今では小さなプロジェクトを任されている
実家から送られてきた『青汁』が無ければ今の僕はなかったかもしれない
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今から30分、オペレーターを増やしてお待ちしております
みんなも『青汁』飲んで良き執筆ライフを!
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