デザインシステムのスクラムマスターが1年で実践したチームビルディング
こんにちは、サイボウズ株式会社のMantleチームでスクラムマスター兼 Design Technologist として活動している ami(@__amishiratori)です。
私が所属するMantleチームは「kintoneのユーザー体験を最高にする」を目標に、2021年末に結成されたチームです。デザイン・フロントエンド・アクセシビリティ・品質保証など、多様なバックグラウンドを持ったメンバーが集まり、kintoneのデザインシステムを構築する活動をしています。
この記事では、私が2022年にMantleチームに対して実践したさまざまなチームビルディングを紹介します。これからデザインシステムに関するチームを作りたい人/デザインシステムに関するチームを作ったばかりの人/デザインシステムのチームを作ったものの課題を抱えている人にとって、実践したチームビルディングが参考になれば幸いです。
デザインシステムのスクラムマスターが注力したこと
ここでは、私がデザインシステムを構築するチームのスクラムマスターとして注力した点のうち、大きく2点を紹介します。
1点目は「チームの安定性を高めること」です。一般にデザインシステムはドキュメント・UIライブラリ・コンポーネントライブラリなど、さまざまな成果物が必要です。このためデザインシステムの構築には、フロントエンド・デザイン・アクセシビリティ・品質保証など、さまざまなバックグラウンドを持ったメンバー同士の連携が必要です。チームビルディングを進めることでメンバー同士がすぐに相談・協力できる心理的安全性を築き、変化に強い安定したチームにしたいと考えました。
2点目は「チームの幸福度を高めること」です。デザインシステムには多様なバックグランドを持ったメンバーが関わるため、同じタスクを実施しても、タスクに対して抱く感情はメンバーによってさまざまです。タスクは順調に進んでいたとしても、メンバーの感情はネガティブな場合もあります。メンバーの感情をポジディブに保ち、チームの幸福度を高めたいと考えました。
実践したチームビルディング
以下では、Mantleチームに実践したチームビルディングを3つ紹介します。
自己紹介ワークショップ
感情ベースのふりかえり
Thanks & Praise
1. 自己紹介ワークショップ
なぜ自己紹介ワークショップを実施した?
Mantleチームには多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まった一方で、お互いを深く知っているわけではありませんでした。過去に一緒に仕事をした経験はほとんどありませんでした。またリモートワークが主体となった時期に発足したチームということもあり、数回しか顔を合わせたことのないメンバーもいました。
私は、このままお互いを深く知らずに仕事を続けていくと、メンバーの多様なポテンシャルを十分に活かせないと思いました。自分が過去に培ったスキルや経験を他のチームメンバーが知らなかったり、逆に他のチームメンバーが自分に期待していることを知らないまま過ごしてしまうことがありえるからです。
お互いのスキルや背景を深く理解し、チーム全体でよりポテンシャルを発揮できるように「自己紹介ワークショップ」を実施しました。
自己紹介ワークショップでどんなことをした?
自己紹介ワークショップは大きく2パートに分けました。
1パート: メンバーの新しい一面を知る
チームメンバーの新しい一面を知ってもらうことを目的に、普段の仕事の中ではでてこない話題を話してもらいました。たとえば、子供の頃の将来の夢・仕事以外で熱中していること・人生で一度はしてみたいことなどです。
2パート: 協力できる関係性を探す
お互いの得意不得意や、チームメンバーが自分に対してどう思っているのかを知り、協力できる関係性などを探すことを目的に、それぞれのメンバー個人にフォーカスした時間をとりました。それぞれのチームメンバーに「やってきたこと」「得意なこと、好きなこと」「苦手なこと」を書き出してもらいました。その上で、他のメンバーから「メンバーから見て得意なこと」「メンバーが期待すること」を伝えてもらいました。
自己紹介ワークショップの成果
自己紹介ワークショップによって、表面的な社内の肩書きだけではわからないメンバーの興味関心が見えてきました。たとえば、アクセシビリティエンジニアのメンバーが、実は品質保証に興味を持っていることがわかりました。
この結果は人員配置に役立ちました。アクセシビリティエンジニアは品質保証のメンバーと協力して、不具合の検出・優先順位付け・テストケースの作成などに取り組むようになりました。他のチームメンバーも連携を積極的に支援するようになりました。結果、アクセシビリティエンジニアは1年で最も多くの不具合を検出しました。
デザインシステムでは、デザイナー・エンジニア・品質保証といった職能の枠を超え、お互いに連携しながら成果物を作り出す必要があります。自己紹介ワークショップは、チームメンバーが職能を横断する足がかりになりました。
また、自己紹介ワークショップによって、チームメンバー同士が性格をうまく補完し合っていることもわかりました。あるチームメンバーの不得意なこと・嫌いなことが、ほかのチームメンバーの得意なこと・好きなことであることが多かったのです。たとえば、即断即決は、Aさんは得意だけれどBさんは苦手。じっくり取り組むことは、Aさんは苦手だけれどBさんは得意...といった感じです。
たとえるなら、自己紹介ワークショップはパズルのピースを組み合わせるようでした。チームメンバーというひとつひとつのパズルのピースがどのような形をしているかがわかり、どのピースとどのピースがうまく組み合わさるのか理解できました。さまざまなピースを組み合わせて完成したチームの全体像がはっきり見えるようになりました。
チームメンバーからの感想を紹介します。
2. 感情ベースのふりかえり
なぜ感情ベースのふりかえりを実施した?
Mantleチームでは、1週間ごとにチームの活動や成果をふりかえる「事実」ベースのふりかえりを実施しています。ふりかえりではチームの活動に対する多くの改善点が議論され、チームの生産性に貢献しています。
一方で、私は、事実だけではなくチームメンバーの「感情」についてもふりかえる必要性を感じていました。デザインシステムはコンポーネントの実装・ドキュメントの整備・デザインツールの整備・品質保証など、さまざまな成果物を取り扱うため、タスクの種類が多岐に渡ります。同じタスクをこなしたとしてもタスクに対して抱く感情はメンバーによってさまざまです。
チームの活動に対する感情の認識が揃わないままチームのゴールを目指していくと、将来的にチームに溝ができてしまうと考え、感情ベースのふりかえりを実施しました。
感情ベースのふりかえりでどんなことをした?
感情ベースのふりかえりは1ヶ月おきに実施します。
まず、直近1ヶ月に起きたできごとをメンバーに思い出しながら書き出してもらいます。次に、期間中の感情のレベルを1(最低)〜5(最高)で評価してもらいます。
感情のレベルが5でない場合は、どうしたら5にできるかをチームメンバー全員で議論します。議論の最後に、次に感情のレベルを5にするのに不安なことがないか尋ねます。
感情ベースのふりかえりの成果
感情ベースのふりかえりによって、チームの活動に対してメンバーが抱いている感情がよくわかりました。たとえば、チーム全体ではタスクが計画通り完了していたにもかかわらず、チームメンバーによっては「ずっと同じタスクばかりアサインされているので別のタスクもやってみたい」「本当は優先して取り組みたい別のタスクがある」といったわだかまりを抱えていることがありました。
この結果を受けて、Mantleチームでは、目標の達成を前提としつつプロダクトバックログのポートフォリオを整理することにしました。感情ベースのふりかえりを実施する前は、1スプリント中に同じ種類のバックログばかり取り組むことがありました。感情ベースのふりかえりのあとは、機能リクエストのバックログ・不具合改修のバックログ・ドキュメントのバックログ・機能改善のバックログなど、複数の種類のバックログを1スプリント中にバランスよく含むようにして、メンバーに高いモチベーションで取り組んでもらうように工夫しました。
また、感情ベースのふりかえりによって、個々人がチームに対してポジティブな挑戦や改善提案をしやすくなりました。毎月末に感情ベースのふりかえりを実施することで個々人の感情が上向き(ポジティブ)に改善されるため、特に月初には多くの改善提案がなされるようになりました。
感情ベースのふりかえりは「チーム全員で個人の幸福度を最大化する活動」だととらえています。それぞれのメンバーの幸福度が高まり、チームにポジティブな影響がもたらされることがとてもよいと感じています。
3. Thanks & Praise
なぜThanks & Praiseを実施した?
Mantleチーム結成から半年ほど経ったころに、Mantleチームでチーム合宿を実施しました。この合宿の目的は、Mantleチームのチームビルディングと今後のチームが向かう方向性をすり合わせることでした。
合宿の最後に、感情報酬を得てこのチームでよかったな、もっとこのチームで頑張りたいなって思ってもらうのを目標に、チームメンバーに日ごろの感謝を伝える・チームメンバーを褒める「Thanks & Praise」を行いました。
Thanks & Praiseでどんなことをした?
チームメンバー1人に対して15分間時間をとり、チームメンバー全員が、日頃の感謝や伝えられていなかった尊敬の気持ちを直接伝えました。感謝を伝えられる本人からも、都度感想をもらいながら進行しました。
Thanks & Praiseの成果
チームメンバーの1人にフォーカスすることで、伝え忘れてる感謝や尊敬も思い出してもらいたいという気持ちが大きくこの形式にしたものの、本人は15分間座って褒められ待ち状態になるので、ワークショップを作った当人としてはかなり挑戦的な進め方でした。チームの文化として普段からたくさんの感謝を伝えていることもあり、たくさんの感謝を伝えてくれるだろうというところに甘えて挑戦してみましたが、チームメンバーのおかげで成功しました。
チームメンバーから挙がった感想の一部を紹介します。
社内で口コミを通して広がった結果、Mantle以外のチームでも実践されるようになりました。私としては、実践したチームビルディングの中で最も効果があったと感じています。
1年のチームビルディングの成果
変化に強いチームに成長
こうしたチームビルディングを1年続けたことで、チームが変化に強くなり、どんなタスクに対しても一定のペースで順調に成果を出すことができるようになりました。
チームが順調だったことはチームのCFD(累積フロー図)によく表れています。CFDは横軸は時間、縦軸はタスク数をとったグラフで、タスクの進行状況を表しています。グラフを見ると、期間によらず傾きがほぼ一定な線形のグラフになっており、タスクが一定のペースで処理されたことがわかります。
Mantleチームのタスクは1年間で大きく変化しました。それにもかかわらずこれほど安定したペースでタスクを処理できたことは、チームビルディングによってメンバー同士がお互いを補完しあい、変化に強いチームができた証左だと考えています。
メンバー同士のコラボレーションが促進
チームビルディングを1年続けたことで、メンバー同士のコラボレーションも促進されました。コラボレーションの成果のひとつがコンポーネントドキュメントです。
デザイナー・エンジニア・アクセシビリティ・品質保証を専門領域とする複数の職能が関わったことで、多くの観点を盛り込んだコンポーネントドキュメントを作成できました。
また、多様なメンバーが理解できるよう、文章の表現にも気を配りました。ドキュメントには、props名などの技術的な用語をできるだけ用いず、平易な表現にしました。また、職能によって解釈が異なる表現も避けました。
メンバー同士が相談しあってわかりやすい表現を模索した結果、Mantleチーム以外のチームからも「わかりやすい」「よく参照しています」といったフィードバックをいただけるようになりました。
チームビルディングに終わりはない
1年間チームビルディングを実践したことで、Mantleチームを安定して成果を出す幸福度の高いチームに成長させることができました。
しかし、それはチームビルディングが必要なくなったことを意味しません。職能同士がコラボレーションできる余地はまだまだあります。また、チームメンバーのモチベーションは常に変化するため、モチベーションを高める施策はこれからも必要です。引き続き、Mantleチームを磨き続けていきたいと思います。
さらに、Mantleチーム以外のチームにも私が実践したチームビルディングを広げていきたいと思っています。このブログによって、みなさんのチームにもよい変化が生まれることを願っています。
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