「分断」と「無関心」で全体主義を育てない為に「ポストカード」
<文学(15歩目)>
歴史を辿るって、こういうことなのか!忘れられた記録を掘り起こしてホロコーストの実態を学ぶ。
ポストカード
アンヌ ベレスト (著), 田中 裕子 (翻訳)
早川書房
「15歩目」はフランスの高校生が選ぶ「ルノードー賞」とアメリカの学生が選ぶ「ゴンクール賞」受賞作品で、若者の感覚を学ぶために手に取りましたが、私もうたれました。
ホロコーストについては、現在は皆が知ることになっている。しかし、亡くなられた600万人の犠牲者は数字になっているけど、それには600万の人生がある。
政治的な無関心が契機になり、あとは一気に現代では信じられないことが起きている。
その意味でも、心に痛みを覚えても学ばないといけないと思う。「フランス組曲 イレーヌ・ネミロフスキー」から立て続けに読んでいますが、その中には心の奥に強い衝撃を伴う作品あり。
その一つの作品です。
ナチスドイツによる占領下に行われたフランスにおけるホロコースト。命令はベルリンから。そして実行は絶滅収容所。
しかし、ドイツ占領下とはいえども、フランスは「積極的に」加担した。
このタブーをえぐりだしている。普通の官僚組織が「真面目に」加担することにより、フランス国内でも多くのユダヤ人が捕らえられ、東方の収容所に送致された。
登場する家族は、皆に「未来」があったが、「未来」がなくなってしまった。
この経緯は、学ばないといけないと感じました。
一族の長である老人は、ロシアで事業を成功させていたのだが、社会がきな臭くなると同時に事業をすべて畳んで、イスラエル建国に向かう。
一族の長として、その子どもたちに離脱を促す。老人は、イスラエルか、アメリカをすすめるが、子どもたちにとってより文化が身近な欧州大陸に散らばることを選択する。
子どもたちは、事業家だった老人がイスラエルで農民になっていることを見て、やはり欧州大陸の方が良いと話すが、老人は「快適な環境で愚者になり命の危険に苛まれるよりも、厳しい環境であるが賢者になること」をすすめるも若者には理解されない。
逆に警鐘を鳴らす老人は「心が病んでいる扱い」をされてしまう。この老人の見識って、平和ボケしている私にはなかなか出来ないこと。
また、「誰でも何かに対して無関心になるんだよ。今のあんたは誰に対して無関心か、自分の胸に手を当ててよく考えてみるといい。仮設テント、高架下、町から離れた収容施設に押し込まれた人々はあんたにとって見えにくい人たちじゃないか。ヴィシー政権はユダヤ人を少しずつ分断しながら、フランス社会から見えにくいようにして、まんまとフランス人の無関心を利用してやり遂げた」とあるが、全体主義は「社会の分断」をうまく利用して進み、特定の少数集団を「見えなくする」ことで成功させるようです。
そして、人間は「自分で判断できる人は少なく、命令をされたい人が多数を占めるので、「真面目」に「効率よく」悪事が成就する」ようです。
この本は、ちょっと家族で読んでいます。少なくとも、フランス・アメリカの若者と同様に、こんな本が日本の若者のベストセラーになったらいいな。と感じています。
「全体主義」って、きっかけは不況の中から立ち上がる。そして、多くの人々の無関心を肥料にして育ち、真面目な官僚組織が効率的に推進していく。。。
すると、「予防」としての好況を維持することって、いかに大切かが理解できました。
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