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ピュアな文体で理不尽を描く「その子どもはなぜ、おかゆのなかで煮えているのか」

<文学(228歩目)>
この物語はピュアだから、とても心に切り込む言葉がある。

その子どもはなぜ、おかゆのなかで煮えているのか
アグラヤ・ヴェテラニー (著), 松永 美穂 (翻訳)
河出書房新社

「228歩目」はアグラヤ・ヴェテラニーさんの自伝的なデビュー作品。

詩的な文体は、少女の不安からくる。
亡命しておびえながらの半生に、ルーマニアを巡る理不尽がある。
サーカス一家の描写自体がとても詩的なのですが、散文的な描写を思い描いてみると、とても重たい。

表題の「その子どもはなぜ、おかゆのなかで煮えているのか」とは、とても詩的な情景ではないが、子供の目からみた理不尽の世界がとても痛い。

少女の不安からくる心配は、それ以上の不安な情景を思い描くことで一瞬忘れることが出来る。

常に、愛する母を想って、最悪の事態から目を背けるために、もっと最悪の事態を常に考える少女。この環境が、とても詩的な文体から浮かび上がる。

文章で、ここまで想像させる作品はそうはない。

祖国を理不尽に追われ、そして成長する少女。
他者とのコミュニケーションがうまくいかないからこそ、母娘で共依存になってしまう。

とても荒削りだが、心に突く言葉のマジックを強く感じた。帯にある「地獄は天国の裏にある。」をとても考えさせられる作品です。

アゴタ・クリストフさんの息詰まる感覚と、ミルチャ・カルタレスクさんに暴露された理不尽なルーマニアの世界。ヘルタ・ミュラーさんの痛切な理不尽な世界。
これらが、ピュアな文体の先に見えてくる。

ピュアでナイーブな少女の目から見た亡命先での理不尽な世界は、凡百な作品よりも心に刺さると思います。

早逝されたことがとても残念。でも、こんな心を突ける作品を残されたことに感謝です。
そして翻訳してもらわないと読むこともできなかった。松永美穂さん、河出書房新社さん、ありがとうございます。

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