イベントレポート「SFとアートで未来を考える」
サイバーコンサルタントでは、AIファシリテーターを活用した完全オンラインによるファシリテーション&コンサルティングサービス「サイバーコンサルティング」の開始を記念して、オンラインセミナーを開催しています。7月の第1回『リモート時代、AI時代の合意形成』に続いて、8月5日に『ミライを洞察するーリモート時代にSF・アートは何を語るのか』を開催しましたので、その模様をレポートします。
また、当日のアーカイブ動画(約90分間)を公開していますので、参加できなかった方ももう一度振り返りたい方もぜひご覧になってください。
◆イントロダクションーーHackCamp 矢吹 博和
コロナ禍のいま、「VUCA(Volatility:激動、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:不透明性)が実感をもって語られるようになりました。準備期間がないなかでリモートワークが始まった一方で、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)への対応は急務となっており、企業を取り巻く環境は難しさを増しています。
このような時代背景のなかで生まれたサービスがサイバーコンサルタンティングです。今回のセミナーはアーティストである長谷川愛さんをお迎えし、事業機会と進むべき方向性を見出すために欠かせない「未来洞察」について議論を深めます。
◆基調講演「ミライを洞察する」――HYPER CUBE 小塩 篤史
先行きが見えないいまこそ未来を考えるタイミングだと、小塩さんは指摘します。この半年間の出来事を振り返ると大変なことが起きていると感じますし、今後どうなるのか不安になります。しかし、長い歴史を紐解けば、人類は何度も新興感染症と闘い、乗り越えてきました。このように時間軸を長くとって考えると、過去や未来の変化を認識する精度が向上するそうです。
では、どのように未来を考えればよいのでしょうか。方向性は2つ。何が起こりそうかを予測するフォーキャスティングと、何を起こしたいのかを考えるバックキャスティングで、これらは両輪のようにどちらも必要。また、未来を考えるための素材として、SF(サイエンスフィクション)、哲学、芸術作品などが挙げられるほか、自らの「妄想」も大事だそうです。
ただし、未来と言っても一様ではなく、一般に4つの種類があります。
①人口や高齢化率など「予測可能」なもの
②法律や政治のように「シナリオ的」なもの
③コンピュータや文化などの「トレンド/予測可能」なもの
④50年後の社会のような「予測不可」なもの。
何か情報を得たとき、これら4つのいずれに相当するかを整理して考えることができると「未来に対する視野が広がる」そうです。
未来洞察のトレーニングとして、SFは良い手段だと、小塩さんは言います。SFは感性主導のアートと理性主導のサイエンスの組み合わせで、実社会に必要な要素をいろいろな形で包含し、作品を通した問題提起が可能です。
「SFを読み解くことが未来を考える上での良い刺激材料になるでしょうし、自分が未来洞察する上でSFを作るというアクティビティはよいことだと思っています」
基調講演のグラフィックレコーディング
◆パネルディスカッション「リモート時代にSF・アートは何を語るのか?
ここからは長谷川愛さんも加わります。長谷川さんは「スペキュラティヴ・デザイン(問題を提起するデザイン)」の専門家です。たとえば、「非武装で警察に銃殺された黒人」の過去数年のデータから殺されやすい人を学習判別をし、条件にあった場合は銃の引き金を数秒止める『オルト・バイアス・ガン(Alt Bias Gun)』は、偏見や差別、銃の所有、技術の活かし方など、さまざまな問題を投げかける作品です。
SFにも造詣が深いアーティストの長谷川さんと、事業家であり未来学の研究者でもある小塩さんは未来の見つめ方が違うのか、それとも共通項があるのか、パネルディスカッションの議論を一部ご紹介します。なお、モデレーターは前回に続き、矢吹さんが務めました。
小塩 「スペキュラティヴ・デザインは概念として特殊ですよね。あえてアートとデザインを区分けすると、デザインは“こういう製品が欲しい”“こんなユーザーが求めている”というニーズに応えていくもの。それをあえてスペキュラティブに、何らかの問題提起をしていくというのがごった煮のようで興味深いです」
長谷川 「新しい視点を持つことが大事だと思っています。アートでもいいし、SFでもいいのですが、作品を通して“こういう考え方があるのか”“こういう風に社会を見る人がいるのか”と新しい視点を持てれば、新しい価値観が持てます。そこにバリューが生まれ、新しい市場が生まれます。ココ・シャネルは喪服の色だった黒でドレスを作る一方で、科学的イノベーションも取り入れて、香料を天然から化学物質に置き換えることで香水の大量生産を可能にしました。新しい価値観を商業に結びつけたところがすごく面白いと思いました」
矢吹 「まさにいまビジネスの世界で求められていることですね。長谷川さんはどのようにして未来を考えますか。内発的に考えて情報を集めるのでしょうか」
長谷川 「普段からいろいろな情報を取り入れるようにしていますが、情報は大体5種類に分類できるのではと思っています。その発想をもとに作ったのが拙著『20XX年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業』の付録で、世の中にある問題(SDGsカード)、考え方(フィロソフィーカード)、技術や研究(テクノロジーカード)など5種類のテーマをそれぞれに掘り下げてカードにしました。いろいろな立場の人がカードを引き、それらを組み合わせるとどういう未来があり得るのかを考えるというものです。私自身は5種類の情報を頑張って取り入れつつ、SFを読んだりしていますね」
小塩 「未来を考えるのは誰にでもできますが、大量の情報、インプットが必要です。大量のインプットと言うと“技術だけ”“AIだけ”のインプットになりがちですが、未来を考えるとは決して“未来だけ”を考えることではありません。大切なのは時間軸を長くとること。そうすると現在や未来を相対的に考えられるようになり発想が膨らんでいきます」
矢吹 「インプットとしてSF小説を3冊読んでもらうというアイデアもありましたね」
長谷川 「はい。SFの良いところは文字で表現できるので、安価にフューチャープロタイピングができること。短編を書く場合は会話から始めると入りやすいですね。どういう諍いが起きて、何が問題になるのか、感情がアップダウンすると分かりやすいと思います」
小塩 「我々が得る情報は誰かが考えたり見聞きしたりした三人称の情報が圧倒的に多い。でも、未来の話を三人称の情報で組み立てると、そこに当事者意識も持てないし、情熱を感じることもありませんから、自分はこういう未来を創りたいのだと、一人称化することが大事です」
矢吹 「インプットにおすすめのSFはありますか」
長谷川 「教科書的に見るべきはNetflixの『ブラック・ミラー』シリーズ。どういった技術で、どんなディストピアがあり得るのかを描いています。一番ゾクッとしたのがランク社会というエピソード。ちょうどUberが出始め、自分(サービス利用者)もランク付けされることがわかったころに観たのですが、その作品で描かれていたのはあらゆる活動がランク付けされ、レートが良い人は使えるサービスが増える社会でした。将来的にはこうなるだろうと思いますし、中国は実際に始まっています」
小塩 「中国 SF はいま読むと良いと思います。『三体』もそうですが、中国SFの世界観やサイズ感に圧倒されます。インスピレーショナルだし、中国がテクノロジーの世界で覇者になろうとしている息吹が感じられますから。あとはディストピア小説の原型を作った『1984』などの古典を読んでほしい。すでに問題が解決している部分もありますが、古典を読んで感じたことや考えたことを現在に落とし込んでみると、未来を洞察する良いトレーニングになるのではないかと思います」
矢吹 「ありがとうございました」
パネルディスカッションのグラフィックレコーディング
◆当日のアーカイブ動画
◆登壇者プロフィール
長谷川 愛
アーティスト、デザイナー
生物学的課題や科学技術の進歩をモチーフに、現代社会に潜む諸問題を掘り出す作品を発表している。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(通称IAMAS)にてメディアアートとアニメーションを勉強した後ロンドンへ。数年間Haque Design+Researchで副社長をしつつ、デザイナーとして主に公共スペース向けのインタラクティブアートの研究開発に関わる。
2012年英国Royal College of Art, Design InteractionsにてMA取得。
2014年秋から2016年夏までMIT Media Lab,Design Fiction Groupにて准研究員兼大学院生。
2017年4月から東京大学大学院にて特任研究員・JST ERATO 川原万有情報網プロジェクトメンバー。
著書「20XX年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業」を出版。
https://aihasegawa.info/cv
小塩 篤史
株式会社HYPER CUBE 取締役CIO/神戸情報大学院大学 客員教授
研究者・事業家の二足の草鞋をはきながら、専門分野である未来学・データサイエンス・人工知能・技術経営などを背景に、イノベーション創出活動に従事している。未来学的洞察をベースにした未来の社会課題に対して、クリエイティブな解決策を描きつつ、現場の専門知、生活者の洞察、最先端の研究を融合させたソリューションを提案する。現在は、事業家としては、人工知能の開発、新規事業コンサルティング、デジタル化支援をしつつ、研究者として様々なタイプのAI開発を行っている。また、教員として未来への柔軟な発想力を持った人材育成に取り組んでいる。