イベントレポート「今の時代にふさわしい合意形成とは?」
サイバーコンサルタントでは、AIファシリテーターを活用した完全オンラインによるファシリテーション&コンサルティングサービス「サイバーコンサルティング」の開始を記念して、7月1日にオンラインセミナー『リモート時代、AI時代の合意形成』を開催しました。
ここでは90分間のセミナーの模様をご紹介します。最後には当日の録画した動画も紹介していますので当日参加できなかった方は必見です。
イントロダクション〜なぜ合意形成が重要か
この半年間で急速にリモートワークが広がり、これまでは対面で行ってきた合意形成を、オンラインで行わなければならなくなりました。オンラインでの合意形成とはどうあるべきなのでしょうか。
また、AI(人工知能)は急速に市民権を得ていますが、いま身近にあるAIはECサイトのレコメンド機能に象徴されるように「個人の意思決定」を支援するものであって、チームや組織向けではありません。AIは果たして合意形成にいかなる役割を果たしてくれるのでしょうか。
インプットセミナー「Civic techから考える合意形成」――コード・フォー・ジャパン 関 治之
市民自身がITを活用して地域の課題解決に取り組むCivic tech。この市民参加型の取組みは世界中に広がっていますが、コロナ禍で集会や会合が難しくなったいま、「民主主義の在り方そのものが変わらざるを得ない状況にある」と関さんは指摘します。
いかにして市民の声を集め、それをどうやって発信すれば課題解決につながるのか?
具体的な事例として、関さんはスペインのマドリードで使われていた「Decide Madrid」や台湾の「vTaiwan」などの海外事例に加えて、コード・フォー・ジャパンが開設した「COVID-19 Idea Box」を紹介。現在、Idea Boxは募集を修了していますが、サイトでは市民から寄せられたアイデアを閲覧することができます。
インプットセミナー「未来学・イノベーション創出から考える合意形成」――HYPER CUBE 小塩 篤史
イノベーションと言うと、1人の天才が創出するイメージがあるかもしれませんが、実際には大勢の協力が必要で、かのエジソンもチームで発明品を生み出してきました。
大勢の人が協力してイノベーションをなすために必要なのは「こういう未来にしたい」というビジョンの合意形成です。
実際のプロジェクトでは合意形成は一度で終わるわけではありません。チームの未来を考えるところから、プロジェクトをデザインして、サービスを開発するまでの一連のプロセスにおいて、幾度も合意形成が必要になります。小塩さんは、その一つひとつの合意形成を大切にすると同時に「さまざまな場面で行った合意形成がつながって、合意形成のチェーンを作ることが大事」だと述べました。
インプットセミナー「学術研究・技術から考える合意形成」――Agreebit/名古屋工業大学 伊藤 孝行
伊藤さんの専門は「コレクティブインテリジェンス(集合的知性)」です。知性の集積化を図る事例の一つが民主主義における投票ですが、それは必ずしも最良の手段ではありません。投票は多数決であり、いかに重要でも少数派意見は反映されないからです。大切なことは多くの当事者が熟慮と討議を重ねる「熟議」だと、伊藤さんは言います。
たとえば、異なる考えを持つ3人が集まった場合、初めは意見がバラバラでも、時間をかけて互いに同意できることを探し、重なり合う部分を広げていけば、合意点を見出すことは可能です。このプロセスをAIファシリテーターで支援するのがオープンプラットフォーム「D-agree」なのです。
グラフィックレコーディングによるインプットセミナーの様子
パネルディスカッション「AI時代の合意形成とは?」
セミナー後半はHackCampの矢吹さんがモデレータを務め、関さん、小塩さん、伊藤さんによるパネルディスカッションを行いました。ここではその様子をほんの少しご紹介します。
関 「意見を収集するインターフェースとしてのITと、分析などを行うバックグラウンドのテクノロジーとしてのITは分けて考える方がいい。前者はITに頼り過ぎると、デジタルデバイドのために集まってくる情報にバイヤスがかかってしまいます」
伊藤 「ツールを使えない人への配慮は大切ですね。集まった情報を分析して良いものを抽出するというプロセスは人間でもAIでも同じですが、人には好みがあるので、あとはそれをどう合意形成に反映するか」
小塩 「合意形成もフェーズによって違いがありますね。企業の事業開発プロジェクトならば任意のメンバーでの合意形成ですが、パブリックなプロジェクトの場合はインクルーシブでなければなりません」
関 「パブリックは企業と違って最大多数の最大公約を求める傾向が強い。だからこそ何のための合意形成か、アジェンダセッティングが重要なのです」
伊藤 「目的達成を重視するか、公平性を重視するか、AIはどちらにパラメータを寄せるかで結果が変わります」
小塩 「パブリックの議論は無難な意見にまとまりがちですが、変化がなければ意味がないので、少しチャレンジする合意形成がいいですね。私がファシリテーターの場合はインプットとしてSFの映像を見せるなどして、飛躍した意見を出やすくしています」
関 「議論の前提となる情報のインプットに加えて、パブリックでは議論の最中のバージョンアップも大切。対話を通して相手の立場で考えるとか、相手の視点で見るといったことです。ファシリテーターはそうなるように呼びかけます」
矢吹 「人間のファシリテーターに比べて、AIファシリテーターはニュートラルなイメージがありますが、そういった違いはありますか」
伊藤 「人間とAIでは差がありますが、参加者はいつ両者に差がないと感じるのか、そこに興味があります」
小塩 「ファシリテーターが人間なら性格やクセのようなものが分かるのですが、AIでは難しいので、どういうパラメータで設計されているのか、中身を見える化しておくことが大事ではないでしょうか」
グラフィックレコーディングによるパネルディスカッションの様子
オンラインセミナーの最後にはオープンプラットフォーム「D-agree」のデモを紹介。「不確実な時代にもとめられる合意形成とは?」についてはオープンディスカッションテーマとして、現在どなたでも自由に閲覧・参加可能です。ぜひアクセスしてみてください
当日の動画
登壇者プロフィール
関 治之
株式会社HackCamp 代表取締役/一般社団法人コード・フォー・ジャパン 代表理事
開発者として主に位置情報系のサービスを数多く立ち上げ、テクノロジーを活用したオープンイノベーションについて研究してきた。東日本震災時に情報ボランティア活動を行なったことをきっかけに、住民コミュニティとテクノロジーの力で地域課題を解決することの可能性を感じ、2013年に一般社団法人コード・フォー・ジャパン社を設立。以降、「テクノロジーで、地域をより住みやすく」をテーマに、会社の枠を超えて様々なコミュニティでも積極的に活動する。社会課題からエンターテインメントまで、幅広く様々なハッカソンを実施している。
小塩 篤史
株式会社HYPER CUBE 取締役CIO/神戸情報大学院大学 客員教授
研究者・事業家の二足の草鞋をはきながら、専門分野である未来学・データサイエンス・人工知能・技術経営などを背景に、イノベーション創出活動に従事している。未来学的洞察をベースにした未来の社会課題に対して、クリエイティブな解決策を描きつつ、現場の専門知、生活者の洞察、最先端の研究を融合させたソリューションを提案する。現在は、事業家としては、人工知能の開発、新規事業コンサルティング、デジタル化支援をしつつ、研究者として様々なタイプのAI開発を行っている。また、教員として未来への柔軟な発想力を持った人材育成に取り組んでいる。
伊藤 孝行
Agreebit株式会社 CTO/名古屋工業大学大学院情報工学専攻教授/NITech AI研究センター長/コレクティブインテリジェンス研究所 所長
D-agree開発者で、人工知能、特にマルチエージェントシステム・集合知に関する国際的な第一人者。 専門分野は、人工知能、分散型AI、マルチエージェントシステム。
2020年 国際人工知能学会 Local Arrangements Chair/2016年度 人工知能学会 業績賞/2013年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門) 国際交渉エージェント競技会ANAC2010/AAMAS2010(Automated Negotiating Agents Competition) 優勝/2004年度 IPA未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエータ認定