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【闇バイト】やっちまったら「情状酌量の余地」はないのか? 刑事事件専門の弁護士が弁護を試みた結果…


今日は一般社団法人刑事事象解析研究所(ケイジケン)アドバイザーの足立直矢弁護士のコラムをお送りします!
(最後に私の「ちなみに」の話もあります)

1 5年で済むと思った…

 2024年11月7日,東京地方裁判所立川支部で行われた裁判員裁判にて,闇バイトに応募したという男性の被告人に対して,無期懲役の判決が言い渡されました。

 この裁判は,「強盗致死罪」という,刑法の中でも2番目に重い刑が定められている犯罪に対するものでした。強盗致死罪に対しては死刑か無期懲役しかありません。

※日本で一番重い刑罰が定められているのは,外観誘致罪といって,簡単に言うと戦争(テロ)行為です。法律上は死刑しかありませんが,今の刑法に代わってから外観誘致罪によって死刑が言い渡された人はいないようです。

 この被告人は闇バイトに応募して強盗致死罪をしても懲役5年で済むと思っていた,という趣旨の発言をしたことで世間の波紋を呼びました。強盗致死の場合,軽くても無期懲役しかなく,期限の決まった懲役刑で済むと思ったというのは,あまりに法律を無視した態度であると言わざるを得ません。

 しかし,弁護士という立場から考えた時,(倫理観や道徳をさておくとすると)本人に対して少しでも温情的な判決を望むものです。そこで,世間で「闇バイト」と言われるような犯罪に対して,少しでも情状酌量の余地があるのか,裁判例等も踏まえて徹底的に検討してみたいと思います。

 本稿では敢えて弁護士の立場として「少しでも軽くする事情を見出すことができるか」という点を,忖度なしに検討します。

 なお,本稿では事例として「強盗致死,致傷」の事案を取り上げることにします。

2 裁判官はどうやって刑を決める?

 まずは一般論として,強盗致傷罪,強盗致死罪の裁判において,裁判官が注目するポイントをあげておきたいと思います。

 刑罰を決めるプロセスにおいては,まず①どんな行為をしてどんな結果が発生したのか⇒②それに対して本人をどれだけ責めることができるのかという検討過程を踏みます。

強盗致死傷罪の場合,以下のようなもの挙げられます。

 件数,犯行に至った経緯,動機,類型(よくある強盗からひったくり,居直り強盗等),場所,日時,共犯の有無,計画性,凶器の有無,具体的な態様,被害者の地位,傷害結果,財産的な被害の大小,社会的な影響,示談の有無,前科,被告人自身の特性,反省の有無,家族の援助等

 さらに細分化していくこともできますが,数が増えすぎてしまうため一度ここまでにします。これらのうち,「件数」,「傷害結果」,「財産的な被害の大小」は証拠で客観的に決まってしまう事情であり,数が大きくなるほど刑罰も重くなるというものですので,検討の対象外とします(弁護側としても戦いにくいところです)。

 それではこれらの事情を,上記の①,②のプロセスに振り分けて「具体的に検討をしてくことにします。

3 裁判官の考えること
①「行為責任」

⑴ 行為責任について検討してみる

 検討プロセスの①は,「行為責任」と呼ばれる部分です。類型的にどれだけの責任があるか,行為と結果から考えていくというわけです。

 緊縛強盗に代表される,闇バイトの強盗事案は,特徴的に,類型的に白昼(総長の事案もあり),被害者の自宅に対して押し入るようにして敢行されます。その大半では複数人の共犯者がおり,邸宅への侵入や被害者を抑圧するために武器(凶器)が使用されます。そして,事前に被害者を選別して,計画的に敢行されているのです。

 これらの事情はいずれも,刑罰を重くする事情として考慮されます。実際の裁判例においても「本来くつろげる空間であるはずの自宅に押し入った犯行である」とか,「自宅に立ち入られたことで被害者に与えた不安感は大きい」と指摘されており,情状としては大きなマイナスです。計画性があること,武器を使っていること,共犯がいることは,当然ながらマイナスです。

 被害者の地位について,弁護側は「特定の被害者に対して恨みをもって行ったわけではない」という点を主張するかもしれません。しかしながらそれは,無差別な犯行であることの裏返しでもあり,「情状酌量の余地」があるとは言えません。

⑵ 結果

 闇バイト事案において,①どんな行為をしてどんな結果が発生したのかという点で,情状酌量の余地を見出すのは,非常に困難です。ある事案では「自分は実行役に逃走用に車を貸しただけにすぎない」という主張がなされていましたが,「実行役による犯行や逃走を容易にした」と言い切られており,やはり情状酌量の余地があるとは言えなさそうです(令和6年10月7日千葉地方裁判所判決,その他余罪あり)。

そもそも,闇バイトとして報じられるような強盗致傷罪,強盗致死罪は,外形的には非常に悪質な事案であるため,類型的に情状酌量の余地があるとは言えなさそうです。弁護人としてはある意味「負け」なのですが,次の検討過程ではどうでしょうか。

4 裁判官の考えること
②「責任非難」

⑴ 責任非難について検討してみる

 検討プロセス②は「責任非難」とも呼ばれます。実際にやってしまったこと,起こした結果について,彼/彼女をどれだけ責めることができるのかという部分です。

 正直,「情状酌量」というと,この視点を持つ方が多いのではないでしょうか。弁護人としても情状を争うのであれば,「彼/彼女ばかりを強く責めることはできないのです」と主張することが多いです。

 それでは闇バイトの事案について見てみます。その多くが,目先のお金欲しさ(動機)からSNS等を利用して自ら応募して犯行に加担したというものになります。生活環境が悪く,生活のために犯罪を選択したという事案もあるでしょう。また,「個人情報を取られてしまった,脅されたので本当はやりたくなかったけれどもやらざるを得なかった」という状況の人もいるかもしれません。

 ここを取っ掛かりとして,弁護人としては,「生活苦のためにやむを得ずやってしまった,生活保護などの適切な行政支援につなげることができれば再犯も防止できるし情状酌量の余地がある」として主張することができるのではないでしょうか。

⑵ 実際の裁判例

 ややタイトルの時点でネタバレしているかもしれませんが,この主張に対する裁判所の「お返事」を紹介します。

東京地方裁判所で令和6年5月31日に言い渡された裁判員裁判の判決の抜粋です。

『被告人は、困窮した生活から抜け出すために、金欲しさからSNS上で自ら探して闇バイトの募集に応じ、本件各犯行に及んでいる。被告人が経済的に困窮した経緯には同情の余地があるが、犯罪行為を選択したことは短絡的といわざるを得ない。また、被告人は、指示役やBに対する恐怖心もあって犯行に加担しており、人を傷つける強盗に加担することには消極的であったことが認められる。しかし、そのような面があったとしても、SNS上の闇バイト関係者とのやり取りや被告人の生活状況等からすれば、被告人が高額の報酬を主たる目的としていたことは明らかであるし、(中略)強い非難を免れないというべきである。』

要するに,

「お金に困っていたんです!」という主張に対しては,「それでも犯罪やっちゃいけないでしょ」

「脅されていたんです,本当はやりたくなかったんです」という主張に対しては,「でもあなた高額な報酬につられてやったんでしょ」

と切り替えされており,いずれも認められていないことが分かります。

つまり,多くの闇バイトの事案で出てくる「弁解」は裁判においては「単なる言い訳」として排斥される可能性が高いものなのです。

5 刑事弁護士としての結論,雑感
「言い訳全然通用しねーじゃん!!!」

上記の他,ここでは書ききれないような多角的な検討,裁判例の調査を行いました。

一例)

・若い子だから将来のことを考えて減軽を!⇒実際の裁判例では年齢によって刑が軽くなっているという有意な統計はない

・前科がなく初犯!⇒再犯者は重く罰するだけで,初犯だから軽くするわけではない

・罪を認めています!⇒それがなにか?

・・・いずれについても,情状酌量の余地がないという結論となりました。

強盗致傷,強盗致死のような闇バイトに対しては,類型的に情状酌量の余地がないと言ってよいでしょう。

本稿を書き上げる当初から,刑事弁護士として「負け」は覚悟していたのですが,正直,「まさかここまで同情の余地がないとは」と驚いたくらいです。

もちろん,事件ごとの個別の事情によっては減軽の余地があるかもしれません。

しかしながら,闇バイト事案で「情状酌量の余地がある」と言えるためには,相当特別な事情が必要であり,上記にあげた程度では到底受け入れられないものであろうと思います。

実際の裁判においては,「脅されてやった」,「お金に困っていて」と言った事情は,(それだけでは)何の言い訳にもなっていない!!ことがよく分かります。

 

↓この刑事事象を解析したひと↓
刑事事象解析研究所アドバイザー
刑事専門弁護士 足立直矢 
(常識を覆すスゴイ弁護士)

↑クリックすると足立弁護士の紹介ページに飛びます


【代表理事の森雅人から「ちなみに」の話】

ちなみに、今、警察庁をはじめ、各都道府県警察がしきりに、

「闇バイトに手を出しそうな君!
勇気を出して逃げなさい!!
警察は君と家族を保護するで!!!」

と情報発信してますよね。

警察庁の幹部が顔出しで呼びかけるなんて、今まで聞いたことがありません↓↓↓
(ちょっとおしゃれな方だし)

SNSでの発信だけでなく、街を歩けばいたるとこから呼びかけが聞こえたり、見えたりしますよね。

なぜ警察がここまで懸命に発信をするのか?
明確に2つの理由があります。

一つ目の理由は、情報発信の意味通り、

『闇バイトで凶悪犯罪に手を染めてしまう人を救いたい。闇バイト事件を減らしたい。』

という意味。

そして二つ目の理由は、

『警察かこんなに「保護するで!」って伝えまくってるのに闇バイトに手を出すって、それってもう確信犯だよね。』

という言い訳封じの意味もあるんですよ。

 

どのような理由であれ闇バイトに応募して指示通り実行してしまえば犯罪者になりどんな言い訳をしても許してくれません。そんなに世の中甘くない。ということですね。

以上、闇バイトの言い訳封じの「ちなみ」のお話しでした!!


最後まで読んでくれたあなたに安全あれ!!!

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森 雅人(防犯法人ケイジケン代表理事)
ゆくゆくは元刑事が運営するシェルター、リアル「メゾン・ド・ポリス」を運営したいと思ってます!