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【小説】年上彼女の嘘-出会い-

第一章 出会い

ある梅雨の雨が降り注いでいる日、僕は付き合っていた彼女に振られた。
「子供ぽいところが嫌い。もっと大人になって」
ついさっき電話で彼女に言われた事を思い返していた。
悲しみで胸がいっぱいで、あふれる涙を人に見られないように傘で顔を隠しながら歩く。
あてもなく歩き、気づけば近くの公園に来ていた。あいにくの雨なので公園で遊ぶ人なんか1人もいない。僕は近くにある自動販売機でジュースを買い一口飲みながら公園のベンチに腰掛けた。
(あっキャンセルしないと)心の中で思いながら、夜彼女と行く予定だったレストランに電話をかけだした。
僕は今日彼女にプロポーズするつもりだった。
周りから見ると変な感じだろう。
スーを着ているいい歳した大人が雨の中公園のベンチに座っているのだから。
ポケットには渡すはずだった指輪があり、電話越しではキャンセル料とかの話をしているがもうどうでも良い。雨も強くなり、上にある屋根にぶつかる雨の音が大きくなってきた。
電話も終わり、ひたすら降りそそぐ雨やブランコや滑り台を見ていた。
(明日仕事休もっかな。)そんな事を思いながらぼっーとしていると滑り台の方から走り出す影が見えた。 
その影は僕の方向に向かって走ってくる。
だが強くなった雨のおかげでうっすらとしか見えない。
その影は僕にどんどんと近づいてきて僕の目の前に現れた。 
「ワンッ」
僕は驚き、持っていた缶ジュースを溢してしまった。僕は大の犬嫌いなのだ。小さい薄茶色のそれは尻尾をふりながら僕を見つめている。 
「コーちゃん!」 
雨の音とは別に公園中に響き渡る綺麗な声。
その声のする方を見ると僕は一瞬で心を奪われた。
そこにはコーちゃんであろう犬に向かって手を伸ばす1人の女性がいた。
傘を肩と頬で挟み、しゃがみ込んで両手を伸ばして呼んでいる。
彼女に振られたばかりの僕だったが、一目惚れをした。さっきまで彼女に振られたはずなのに一瞬で恋に落ちた。
ワンと言いながら女性の方に走っていくコーちゃん。女性はコーちゃんを抱き抱えて僕の方に歩いてくる。
「雨ひどいですね」
そう言いながら僕の横に座ってきた。
「ひどいですね、お散歩ですか?」
僕が聞くと彼女は笑顔で答えた。
「この子、雨の日ほどお散歩に行きたがるんですよ、笑っちゃいますよね」 
そう言いながら頬を人差し指でポリポリと掻きながら微笑む彼女を見て僕は胸の鼓動が速くなるのを感じた。
遊んでおいでと言いながらコーちゃんをおろす彼女。コーちゃんは楽しそうに雨の中の公園を走ったいる。
「あのー・・・次がありますから・・・頑張ってくださいね!」
彼女を見ると僕に向かって両手で小さくガッツポーズをしながら言っていた。
「えっ?」
突然の事で僕は言葉を失った。こんな雨の日に公園でスーツを着て1人で座っている変な人を見たらやっぱり不思議に思うだろう。この人はきっと彼女に振られた惨めな奴とすぐに分かったのだろう。そう僕は察し、言った。
「・・・やっぱり分かります?」
微かに笑いながら惨めな気持ちを抑え精一杯の笑顔を女性に振る舞った。
「まぁ・・・不景気ですからね、次は大丈夫ですよ!」
そう言いながら彼女はまた両手で小さくガッツポーズをした。
僕はまた言葉を失った。
彼女は勘違いしている。きっとスーツを着てどんよりした空気から就職に困っていると思ったのだろう。僕は就職活動に失敗したわけでもなく、面接に落ちたわけでもない。
それでも励まそうと見ず知らずの奴に優しく接してくれているのだ。なんて可愛いんだ。そう思うと悩んでいるのがバカみたいに思えてきて、笑えた。
それからは会ったばかりの女性に彼女に振られたこと、プロポーズしようとしたこと、気づけば公園にいたこと、なんでも話した。
彼女は真剣に話を聞いてくれた。アドバイスもいっぱいくれた。こんなにも優しく接してくれた人が他に居ただろうか。
僕には女神に見えた。
これが僕と彼女の出会いだった。

第二章は続く


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