国際ロマンス詐欺で間接被害を被った日
2年前の話ですが、思い出したので書いてみます。
......…...…
健康診断を受けるため、市の健診センターへ旦那さまと行った時の事である。
待合室の4列にズラーッと並べられた長椅子に、大勢の人が座っている光景は例年どおりで変わらなかった。
入口を入る。長椅子に座っている人々の前にはすでに何人かが列を作って受付の順番を待っていた。
頭上には大きなテレビがあり、お年を召した方々はテレビを、それ以外の方々はスマホを眺めているのでした。
地方に住んでいるので、旦那さまと一緒の時はどうしても人の視線を感じてしまうのはしょうがない。それでも、それにはもう随分慣れていたはずなのに、その日は他人の視線が刺さるように痛い。
何だろうか、この痛みは。
痛みのある側のその先を見ると、皆、気まずそうにあちらをゆっくりと見つめるのです。何も珍しい物も無いあちらを見て、目線は優雅に泳いでいるのです。
例年の待合室の雰囲気とは何かが違っているのです。
静かめな待合室。
受付でのやり取りはほぼ、皆さんに聞かれてしまう。
皆さんの名前が呼ばれる。
私のはと言うと、漢字四文字でどこにでもある普通の名前、同姓同名が多い名前なので、大きな病院では名前の横あたりに、必ずと言っていいほど、謎の暗号文字が書かれている。
医療ミス防止なのかな?
それくらい平凡な名前なのです。
一方の旦那さまはカタカナだらけの、まさにYOUの、混じりけの無い名前である。
人様は私達が夫婦では無いと思っているのだろうとその日も思っていた。
受付を済ませ、私達も長椅子に座り、一息付いた。
テレビが自然と視界に入って来る。
モザイクで顔を覆われている女性が、ヘリウムを吸った声で
『洗脳されていたんですよね。誰が何と言おうと彼を信じていて。。。』
国際ロマンス詐欺が問題になっているようであった。
マズイ!
そう思った。
この痛い視線は。。。
私が騙されている真っ最中の女性だと思われている?
いや!さすがに健康診断にまで一緒に来るかね?
でもな。。。詐欺師ならトコトン女性に優しくするよな。
まさかと思うような所にまで一緒に来て、
『君といつも一緒にいたいから』なんてカタコトの日本語で言おうものなら、このおばちゃんメロメロだな。
皆の心を勝手に想像して、若干パニックになった。
恥ずかしくて仕方がなかった。
被害に遭われたのにもかかわらずこの女性は、テレビに出て、この憎き犯罪を訴えておられるのに、共感性が欠如していた私の気持ちは恥ずかしいが勝っていました。
キャスターが
『SNSでのやり取りだけで、被害者女性と男性は実際には会うことはありません。なのに、どうしてこのような詐欺被害が多発するのでしょうか』と詐欺の状況と、皆が思うであろう疑問で視聴者の心を離さない。
まさに、この現場に、健診センターに加害者がいるかもしれないのだ!
と、勝手に妄想がふくらむ。ひどい膨らみ方だ。
私の頭の中では新たな混乱とパニックが始まる。
旦那さまが詐欺の加害者と思われてる?
で、私は共犯者?
どうしよう。どうしよう。
濡れ衣通報されるのは嫌である。
少しの警察沙汰でも許されない。
今まで真面目に生活してきたのに。
旦那さまがお国へ返されてしまう。
この惑星は居住となると宇宙人ジョーンズには優しくないのです。
この惑星の『お・も・て・な・し』 は観光客を装っているから受けられるのです。
ここにいる人達の誤解を解かなければ!
検診中、旦那さまの名前が呼ばれるたびに、
聞こえていなかったように振る舞い。
『あっ、主人でしょうか?』と回りに聞こえるように言う。
看護婦に通訳の方ですか?と聞かれれば、
『妻ですが、医療英語は難しくて、、でも何とか』と大きめの声で答える。
私のファイルと旦那さまのファイルを交互に見つめる係りの方には
『夫婦別姓なんです』とまたも地声が大きい人のように振る舞う。
隣にいる旦那さまはそんな私の気苦労に気づかないご様子。
私も国際ロマンス詐欺の被害者だったのではないのだろうか?
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