10周年を迎えて何もわからなくなった/木村夏樹覚書2021.11
10周年記念コラボにまさかの抜擢
デレマス10周年を記念したTSUTAYAとのコラボ企画に、木村夏樹がまさかの抜擢。木村夏樹がこうした他社コラボに抜擢されるのは確か初めてのはずだ。今年は木村夏樹にとってデレミリコラボ「ハーモニクス」や、ゾンサガコラボ「徒花ネクロマンシー」などコラボ企画が満載だったが、突然の発表で意外な抜擢という意味では、このTSUTAYAコラボは木村夏樹にとっても担当Pにとっても今年最大のサプライズとなったのでないだろうか、そのうえ木村夏樹らしいカッコよさと美しさと可愛さが詰まった描き下ろしイラストまであるのだから喜びもひとしおだ。
10周年記念曲「EVERLASTING」過去を乗り越えた強さ
予想通りデレマス10周年に合わせて、木村夏樹も参加する10周年記念曲「EVERLASTING」のイベントがデレステで開催された。それがまさかの新形式「LIVE Infinity」で、イベコミュでは初っ端から木村夏樹が「りんごガール」なんて変なこと言うものだから予想を超えて面食らってるところに、今回のイベコミュでは190人以上のアイドル全員が登場して、モバマスやデレステはもちろん、デレアニやリアルのライブ、そしてメタネタまで拾って、時空を飛び越えながらデレマスの歴史を振り返るという、かつてない内容だったこともあって、何が何やらと驚かされっぱなしだった。
何はともあれ、木村夏樹の担当プロデューサーとして気になるのは、木村夏樹が今回の楽曲そしてコミュに参加した意義だろう。だがそもそも今回のイベコミュはアイドル全員を登場させて過去を振り返るという変則的な構成から、言わばコミュに参加したメンバーは狂言回しだった。川島瑞樹のアンチエイジングネタや双葉杏のルーズさが進行に一役買ったのが象徴的だ。
そう考えると木村夏樹が参加した意義も広く捉える必要があろう、そうなると、その意義はこのセリフに集約されるかもしれない。
喧嘩したというのはデレステの「Jet to the Future」イベコミュのことだろうか、悔しい思いをしたというのをライブネタやメタネタから拾うならば、ロックがテーマの7th大阪公演「Glowing Rock!」に木村夏樹が参加できなかったばかりか碌でもない扱いをされたこと、そして木村夏樹を演じる安野希世乃さん自身もやり切れない想い言葉にしたことだろうか、どうあれ何かとカッコつけている木村夏樹が、こうしたネガティブなことを言えたというだけでも意外だ。だがしかし、いまだに引きずっているならばとても言えることではない、強く成長した証でもある。
そしてまた思うのは「EVERLASTING」に参加したメンバーのことを自分は充分に知らないが、こうした実際にネガティブな経験をしてなお言葉にできるのは、木村夏樹ぐらいではないか。それどころか、おそらく数多いデレマスアイドルの中でも、楽しくもないネガティブなことを言葉にできる経験と強さがあるのは限られる。
すなわち、10周年を迎えて過去を振り返る物語の中で、楽しくもないネガティブなことに全く触れないわけにはいかない。そこで木村夏樹が一言でも触れることで物語をひと押しする。木村夏樹が参加した意義はここにあった。
気がつけば木村夏樹はデレマス10周年を迎えて他にない個性と強みを得ていたのだ。そう考えると先月発表されて以来の不安を超えて「EVERLASTING」の楽曲そのものを素直な気持ちで聞ける。これが木村夏樹にとって一つの到達点になれたのだと感慨深かった。
10周年記念ライブ「Celebration Land」木村夏樹がわからなくなる
さて、こうして11月も活動豊富だった木村夏樹が、デレマス10周年記念の集大成とも言うべき、10周年記念ツアー千葉公演「Celebration Land」にも参加できた。
こうなると、どうあっても期待が高まる。だが実際のライブはどうだったかと言えば。個人的には何もわからなくなった。
端的に言えば、大切にするべき過去の歩みを蔑ろにして、逃れるべき過去に囚われていたのが、10周年記念ライブでの木村夏樹だった。
間違いなく出演者の皆さんは最高のパフォーマンスを見せてくれた。ことに木村夏樹を演じる安野希世乃さんからは、これまでにないくらい伸びやかな張りのある歌唱で、指の先まで気力の走った身振りで、ほとばしる情熱を感じさせてくれた。
だがしかし、木村夏樹がライブで関わった楽曲を冷静に俯瞰してみると、いずれも想定の範囲内で、アニバーサリーの舞台にふさわしいサプライズとは程遠い。
「EVERLASTING」と「∀NSWER」を除いて、過去に歌った楽曲がばかりで特別なアレンジもない。
今回のライブ全体のセトリは定番曲が多かった一方で、それでも意外なメンバーで歌ったり、特別なアレンジも多々あったことを思えば雲泥の差だ。
そうは言えども、いずれも最高の仕上がりで、特に「Rockin' Emotion」は安野希世乃さん最高レベルの仕上がりだった。初めて歌う「∀NSWER」でも早坂美玲役の朝井彩加さんと共に激しい歌唱で圧倒してくれた。ロック・ザ・ビートとしても多田李衣菜役の青木瑠璃子さんと共に「Jet to the Future」でも、ロキエモからのトワスカのバトンタッチでも胸が熱くなる思いはした。
だが、数年前ならともかく2021年現在の木村夏樹にとって、そしてロック・ザ・ビートにとっては役不足のセトリではなかったか、2020年の7th大阪「Glowing Rock!」に参加できず悔しい思いをしながらも、それを乗り越えて2021年には「ハーモニクス」でロック・ザ・ビートの意義を再確認した木村夏樹とロック・ザ・ビートにとっては何度もやった「Jet to the Future」の安定感よりも、より次を見せるべきだったのではないか、それこそ「ハーモニクス」を歌うべきだった。だりなつの二人が10thライブで再開するまでにコラボしていた「タッタ」でもよかった。
そして何よりも忸怩たる思いは、どれほど木村夏樹がロック・ザ・ビートが、最高のパフォーマンスを見せたところで、それを見る人々の反応を当日のTwitterや配信でのコメントを見てみれば7th大阪を想起する声が多数あることだ。
違うのだと言ってやりたかった。木村夏樹はロック・ザ・ビートは、7th大阪さえも乗り越えて、ロック・ザ・ビートの意義も「ハーモニクス」でより高められたというのに、どうしても過去の呪縛に囚われている。
さらに言えば青木瑠璃子さんMCで、7th大阪でトワスカを一緒に歌った、高森奈津美演じる前川みくに言及したり、前川みくが欠けていながら代役を立ててまで「Wonder goes on!!」を歌うなど、木村夏樹がそれまで大事にしていたものを否定したアスタリスクwithなつななというデレアニ以来の呪縛にも囚われている。
木村夏樹のこれまでの歩みは、こうした過去の呪縛から逃れるためでもあったはずだ。
デレアニで、多田李衣菜にとってのロックがアスタリスクであり、ぶつかり合うロックだと言わせたことで、それまでモバマスで認め合い高め合ったロック・ザ・ビートが否定されて、にわかロックだの何だのと、だりなつの損なわれたイメージを、デレステのストコミュ23話やJttFコミュで再構築したのは何だったのか。
7th大阪公演以来どこか歪んだロック・ザ・ビートの関係性を見直したハーモニクスは何だったのか。
なぜこんなにも木村夏樹がロック・ザ・ビートが積み上げてきたものを無下にするようなセトリになってしまったのか、運営は何を考えているのか。
木村夏樹は大切にするべき過去を蔑ろにして、逃れるべき過去に囚われている。それが確信に変わったのがライブ会場で公開されたデレマス10周年記念PVだ。
この10年に及ぶデレマスの過去を振り返る映像の中で、ロック・ザ・ビートに関する要素が、全く取り上げられなかった。アイドルセッションも、アイドルチャレンジも、JttFもハーモニクスも、全く取り上げられなかった。
この映像ではデレステやモバマスの定番イベントからマイナー企画まで取り上げ、デレアニからコミカライズまでメディアミックスも幅広くカバーして、あんきらや羽衣小町など主要なユニットも取り上げていながら、ロック・ザ・ビートに関しては全く一切取り上げないのは流石に何らかの意図を感じる。
自分はロック・ザ・ビートが木村夏樹にとってアイドルとして精神の軸となる活動だと思っていたし、多田李衣菜にしてもアイドル活動の本分はロック・ザ・ビートにこそあると思っていた。実際そうだったはずだ。その思いは運営も同じだと考えていたが。それが全く取り上げられない。
木村夏樹が多田李衣菜が、ロック・ザ・ビートとして歩んできたのは何だったのか、共に歩んできた担当プロデューサーの、俺の道のりは何だったのか。
その一方でライブという今その瞬間を生きて、その次を見せるべき場所では、これまでの過去の呪縛にとらわれる楽曲ばかりを取り上げる。
歪ではないか。
10周年を迎えたその日の木村夏樹は、大切な過去の歩みを振り返るべき時に蔑ろにして、逃れるべき過去の呪縛に囚われていた。
10周年記念ライブ「Celebration Land」の木村夏樹は、まだ見ぬ未来を照らして進めただろうか、まだ見ぬ地平へと飛び出せただろうか。
俺には木村夏樹のことが何もわからなくなった。
※(2021/12/2 追記)
上記で引用していたツイートが、デレマス10周年PVでイベントロゴに誤りがあったことから、再投稿された。
誤ったイベントロゴ「栄光のシュヴァリエ」から「黒薔薇姫のヴォヤージュ」へ修正された。
そして、このイベントには木村夏樹も参加していた。自分も気づかなかったことから不明を恥じるばかりだが、こうしてまた公式から木村夏樹がここぞという時にろくでもない扱いをされることが重ねられるようで、また悲しい。
編集後記
今月は月初めにはドリフで東郷あい、黒川千秋と新ユニット「オータムセッション」を組んでいかにもしっとりとした見た目からアツくさせたり、デレぽでも多田李衣菜にちょっかいを出したりと、いつもの木村夏樹を見せる小ネタも豊富だった。
そして傍目にはコラボ企画やライブイベントまで活躍が豊富で喜ばしい限りのようだが、実際の内容をよくよく考えてみるとどうだったか。
上述したように、木村夏樹はデレマス10周年を迎えて「EVERLASTING」コミュでは、これまでを振り返りネガティブな過去を乗り越えた強さを見せたかと思えば、集大成とも言うべき10周年記念ライブと記念PVで、大切にすべき過去を蔑ろにして、逃れるべき過去に囚われていたのだから。わけがわからない。
木村夏樹がわからなくなった。木村夏樹の立ち位置がわからなくなった。木村夏樹のこれからがわからなくなった。
コラボグッズやライブイベントやらで出費が多くて懐が寒くなったところに、冷や水を浴びられてプロデューサーとしての心情まで寒々としてしまった。乾いた笑いしか出ない。
ただひとつ俺が木村夏樹のこれからに期待できるのは、ライブで最高のパフォーマンスを見せてくれた安野希世乃さんの挑戦心と意欲だけだ。
我ながら何と歪な期待であろうか。
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