そして東から昇ってくるものを迎えに行くんだろ/木村夏樹の覚え書き/2023.03
2023年3月30日に、モバゲー版『アイドルマスターシンデレラガールズ』はサービスを終了した。
サービス終了が発表されて以来、モバマスの事を振り返ろうと思っていた自分だが、結局のところ満足に見返すことも、十分に記録を残すこともできなかった。
だからせめて、サービス終了前にモバマスを振り返り、つらつらと思うことを書き残しておきたい。
まず自分はモバマスのサービス終了自体はわりかし受け入れられる。それというのも自分にとって最大の関心事である、木村夏樹の物語としてのモバマスは随分前に停滞していたからだ。
木村夏樹にとってのモバマスは、最後に新規描き下ろしがあったのも2019年『ロックザミストレス』、最後にイベントでメイン級だったのも2020年の『追想公演 Missing Link Memories』、ここ最近のモバマスで目立った活動というと、デレステ発のユニット炎陣がモバマスに逆輸入されたり、新しいユニットとして『ノイジー・ハート・ビート』や『Ehre』などが結成されたり、活動がないわけではないが、やはり物語としては低調。
さらに言えばアイドル一人ひとりの過去を振り返る物語性あふれる『シンデレラヒストリー』に至っては木村夏樹は一切登場すらしなかった。
間違いなく木村夏樹の物語としてのモバマスは長らく停滞していた。
それでも確かにモバマスは木村夏樹の物語として積み重ねてきたものがある。木村夏樹がメインを張ったイベントだって何度もある。『トークバトルショー in SUMMER』のように振り回されてツッコミに回る姿も、もっと見たかった。やはり『アイドルプロデュース京町編』では普段は見せない知られざる一面を見るようで特別感があった、ギターまんなんて変なセンスも相変わらずだった。
そして木村夏樹といつものメンツ、アイドルたちの関係が始まったのもモバマスからだ。向井拓海や藤本里奈とも関係が始まったのも『マッシブライダース』、他ならぬ多田李衣菜との関係『ロック・ザ・ビート』もアイドルマスターシンデレラガールズでも最初期に結成されたユニットであり『アイドルチャレンジ』という二人だけに始まり終わったイベントもある。
しかしまたこうも思う、木村夏樹は全アイドルの中でも希少な初期衣装組として『ライトグリーンセーフ』に属しているが、同じく初期衣装組の『ブルーナポレオン』や『サンセットノスタルジー』と比べても活動実績は乏しい。
さらにまた『マッシブライダース』も活動が乏しくなり実質的に炎陣にお株を奪われた形であり、『ロック・ザ・ビート』に至ってはデレアニ以来の『アスタリスクwithなつなな』によって意義を否定され、その影がつきまとい、とうとうモバマスのイベントで『ロック・ザ・ビート』は2020年1月を最後に登場しなくなった。一方でアスタリスクは2019年と2021年に登場して『アスタリスク』が『ロック・ザ・ビート』の登場頻度を上回ることになった。
つまりだ、木村夏樹はモバマスで積み重ねてきたものさえも確かなものにできなかったのではないか。
自分がモバマスを振り返ると、もっとイベントを頑張ればよかった、もっと記録を残せばよかったと、ああすればよかった、こうすればよかったと思う後悔が多々ある。
そしてモバマスという木村夏樹の物語が、ああなればよかった、こうなればよかった、むしろどうすればよかったのか、未練も多々ある。
結局、自分はモバマスというかけがえのないサービスを満足に楽しんで、その功績の総括もできなかった。
そして木村夏樹がモバマスで何を積み上げてきたのか、何を積み上げることなく崩してきたのか、それさえもわからない。
モバマスというサービスは一体何だったのだろう、そもそもアイドルマスターシンデレラガールズというコンテツそのものが違法建築と呼ばれるほどに、アイドルのそれまでの歩みをなかったことにしたり、アイドルの人格の改変を繰り返したのだ、適当な嘘をついて、その場その場を切り抜けてきたつもりか。
アイドルマスターシンデレラガールズというコンテツそのものが、190人以上いるアイドルを誰一人傷つけないどころか、その時々で一人のアイドルを持ち上げるために、その他のアイドルを蔑ろにして、犠牲にして、傷つけてきた。特定のユニットを持ち上げるために、その他のユニットを踏み台にしてきた。
これまでの長いアイドルマスターシンデレラガールズというコンテンツの歴史の中で、いつの間にか自分は公式のやることに見限り、そしてモバマスをどこか見限っていた。だから、モバマスが終わることに諦めもついていた。
だがサービス終了を前にしてモバマスの歴史を振り返ると、見知っていたはずのカードもセリフも、経験したはずのイベントの内容も、ぷちデレラのわずかな描写でも、新たな発見や思い違いしていた内容も多々あった。木村夏樹はまだまだこんなにも魅力があったのか惚れ直すようだ。
刹那的で未来志向の木村夏樹は過去を振り返るべきときに、振り返っていないと、つねづね思ってきたが、なんの事はない俺自身も過去を振り返るべきときに、振り返ることができなかった。
そうして気がついた、自分はこれまでの公式のやることを気に入らないものは忘れて、気にいるものだけを覚えていた、取捨選択していた。木村夏樹であっても公式で描かれる木村夏樹を取捨選択して、自分の中にいる木村夏樹を信じている有様。もっと言えば木村夏樹に感じていた可能性を信じていた。
なんの事はないアイドルマスターシンデレラガールズというコンテンツが都合のいい勝手な選択をしていたが、自分自身も都合のいい木村夏樹を選択していた。自分はモバマスのことを全然分かっていなかった、木村夏樹のことも全然分かっていなかった。
それでもなお、だからこそかモバマスのサービス終了前に思うのは、終わってほしくない、というよりも、モバマスがサービス終了することで、このたくさんの魅力ある物語をなかったことにしてほしくないという思いだ。
そうは言えども木村夏樹の物語としてのモバマスは大分前に停滞していたという事実。そして木村夏樹だけではない190以上いるアイドル一人ひとりの物語としてのモバマスは停滞していた。もっと言えばアイドルマスターシンデレラガールズのアイドルたちの物語は、始まりからしてデザインや設定が、どこかの誰かの丸パクリだったり、モバマスという物語の中でも積み重ねてきたものが確かですらない。
だとするのなら物語は始まってすらいないんじゃないか、アイドルマスターシンデレラガールズは始まってすらいないんじゃないか。まだ190人以上いるアイドルたちの一人ひとりの物語はこれから始まるんじゃないか。これから始まらなきゃいけないんじゃないか。
ここまでつらつらと書いて、いつも以上に、何を書いているのか自分でもよくわからない。だが、ある意味で自分にとってモバマスが終わるというこの時に気持ちに整理をつけて、自分が何を思っていたのかを残すという一番大事なアーカイブ化かもしれない。後悔と未練がありつつ諦めもつく、だがそれでもと、こうなってほしかった、こうなってほしいという飢餓と渇望がある。この飢餓と渇望こそが自分がアイドルマスターシンデレラガールズから離れられない一番の要因かもしれない。このままどこか遠く連れてってくれないか。
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