宮沢賢治 作 「風景観察官」 田園のフロックコート
1922(大正11)年6月25日に書かれた詩です。
賢治の言う「プウルキインの現象」とは、明るい場所では赤色が、暗い場所では青色がよくみえるという、プルキニェ現象のことです。
プルキニェ現象
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%8B%E3%82%A7%E7%8F%BE%E8%B1%A1
風景観察官は、もちろん実在しない架空の官職です。
水田や放牧地でフロックコートを着た人物を誉め称えています。
フロックコートは現代では結婚式などで使われる男性昼間礼装です。しかし、もともとはポーランド槍騎兵(ウーラン)が平原の戦場を駆け回るときに着た軍服です。したがって、放牧地に似合っても、変ではありません。
フロックコートの人物は、賢治自身だという説が多いようです。ただ照れ屋の賢治がここまで自分を誉めるかどうか、やや疑問があります。
(本文開始)
風景観察官
あの林は
あんまり緑青を盛り過ぎたのだ
それでも自然ならしかたないが
また多少プウルキインの現象にもよるやうだが
も少しそらから橙黄線を送つてもらふやうにしたら
どうだらう
ああ何といふいい精神だ
株式取引所や議事堂でばかり
フロツクコートは着られるものでない
むしろこんな黄水晶(シトリン)の夕方に
まつ青な稲の槍の間で
ホルスタインの群を指導するとき
よく適合し効果もある
何といふいい精神だらう
たとへそれが羊羹いろでぼろぼろで
あるひはすこし暑くもあらうが
あんなまじめな直立や
風景のなかの敬虔な人間を
わたくしはいままで見たことがない
(本文終了)
画像はHULK様の北海道の牧場の写真をお借りいたしました。ありがとうございます。
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