宮沢賢治 作 「二時がこんなに暗いのは」道に迷う賢治
大雨で稲が倒伏 道に迷う賢治
1927(昭和2)年8月20日の作品群をご紹介しています。
水稲の倒伏に苦しめられ、農村で道に迷う賢治です。
「雨中謝辞」との比較
最初に書かれた「雨中謝辞」は、道に迷う部分と、農村の副収入が「間に合はない」ことを嘆く部分からできていました。
本作「二時がこんなに暗いのは」では、道に迷う部分だけに絞っています。また、表現を追加しています。より心細い感じが強まっています。
目の見えない老人という新たな人物が登場します。
(本文開始)
一〇八九
一九二七、八、二〇、
二時がこんなに暗いのは
時計も雨でいっぱいなのか
本街道をはなれてからは
みちは烈しく倒れた稲や
陰気なひばの木立の影を
めぐってめぐってこゝまで来たが
里程にしてはまだそんなにもあるいてゐない
そしていったいおれのたづねて行くさきは
地べたについた北のけはしい雨雲だ、
こゝの野原の土から生えて
こゝの野原の光と風と土とにまぶれ
老いて盲いた大先達は
なかばは苔に埋もれて
そこでしづかにこの雨を聴く
またいなびかり、
林を嘗めて行き過ぎる、
雷がまだ鳴り出さないに、
あっちもこっちも、
気狂ひみたいにごろごろまはるから水車
ハックニー馬の尻ぽのやうに
青い柳が一本立つ
(本文終了)