クライアントの思いに寄り添い、魅力を伝える。徹底したユーザー目線で叶えるCXクリエイティブの力とは。
国内最大級のデジタルマーケティング会社としてクライアントの事業成長をサポートしている電通デジタル。CXクリエイティブ事業部では、デジタル上でのタッチポイントを増やすべく、さまざまな施策を行っています。今回は同事業部の岡部 亮介を招き、パナソニック株式会社(以下:パナソニック)の新規事業「noiful(ノイフル)」の支援で行った施策について聞きました。ブランディングを成功させるために発揮されたCXクリエイティブの効果とは?
パナソニックの新たな挑戦「不動産サービス」をBXとCXでトータルサポート
ー 今回支援された「noiful」の概要についてお話しいただけますか。
岡部:「noiful」はパナソニック株式会社くらしアプライアンス社(以下:くらしアプライアンス社)が展開する、賃貸住宅向けサブスクリプションサービスです。
「noiful LIFE」と「noiful ROOM」という2種類のサービスがあるのが特徴で、前者はくらしアプライアンス社が物件のリフォームから家電の設置までプロデュースしたもの。後者は、既存の賃貸物件にオプションとしてパナソニックの家電が付けられるサービスです。
― どのようなメリットがあるのでしょうか。
岡部:通常であれば家電を自前で用意したとしても、部屋にフィットさせるには限界があります。しかし、「noiful LIFE」なら空間を含めてプロデュースされているため、家電が空間に美しく収まっているのがポイントです。
つまり、入居者からすると新生活を送る上での面倒な準備は必要なく、必要最低限の荷物があれば美しい空間ですぐに生活を始められます。物件オーナーからすると、パナソニックの先進家電を使えるという付加価値を付けられるため、他物件との差別化ができる点がメリットですね。
─ なるほど。岡部さんはどのような立ち位置で「noiful」の支援に関わっていたのですか。
岡部:2019年頃から、電通デジタルとして「noiful」の立ち上げを支援していました。その中で、私が所属するCXクリエイティブ事業部は、Webサイト制作などを通してコミュケーションやデジタル体験のデザイン面のサポートを担当しています。
─ 「その中で」ということは、別の部署もプロジェクトに関わっているのでしょうか。
岡部:はい。プロジェクト統括及びプロジェクトリードは、BX(ビジネストランスフォーメーション)を担う事業部のメンバーが担当していました。CXクリエイティブ事業部からは、クリエイティブディレクターの泰良、コピーライターの野尻、Webデザイナーの正村、アートディレクターである私と、外部の協力会社を含めた体制で参加しています。また、クライアントであるパナソニックの事業開発のメンバーや、未来創造研究所(未来創研)の方々もクリエイティブメンバーとして協働いただき、具体的なイメージを共有しながら進めていきました。
─ CXクリエイティブ事業部として、どのようなことをされたのですか。
岡部:通常のWebサイトに加えて、不動産サイトとしての機能構成についてもお手伝いさせていただきました。具体的には、BX側のメンバーが作成したベースをもとに、ブランドイメージの策定、Webサイト制作、Webサイトの質を継続して担保するためのデザインガイドライン制作を行いました。
写真とイラストを組み合わせることで、空間を見せつつ“生活”を想起させる
─ 「noiful」のWebサイトはビジュアルが印象的ですね。Webサイトを制作する上で、一番心掛けていたのはどういったことでしょうか。
岡部:まず、プロジェクトにジョインした際に、クライアントが予め描いていた「noiful」の世界観や伝えたいメッセージなどがきれいにまとめられた冊子を見せていただきました。完成されたイメージがあったので、それをベースに入居者やオーナーにとってどのようなメッセージや情報があれば魅力的に感じてもらえるか、という点で検討しました。
そこでまず必要だと考えたのが、「noiful」のWebサイトに訪れた方に、ワクワクしてもらうことでした。入居者目線で考えた際、美しく快適な空間がすでに出来上がっていて、かつ先進家電を使用できるというのは、非常に大きなメリットだと言えます。
しかし、サービスの特性上、通常の賃貸物件と比べて家賃が高めに設定されているのも事実。いくらメリットがあるといっても、毎月発生する家賃のことを考慮すると、利用を躊躇してしまう方もいらっしゃるかもしれません。ですのでWebサイトのキービジュアルは、訪れた方が自分が居住した時の快適な暮らしを想像し、より期待感を高められるように制作しました。
─ 初期費用を抑えられるとはいえ、家電付き物件が本当に自分に合っているのかどうか判断するのは難しいかもしれませんね。
岡部:そうなんです。そのため、まずは視覚情報として「noiful」の魅力を伝えることにこだわりました。頭で考えるよりも、感覚的に「いいな」「ここに住みたいな」と思ってもらえるようにしたかったのです。
なお、キービジュアルは、「noiful」で実際に利用している家電製品をハウススタジオに持ち込んで撮影をしています。パナソニックのシンプルかつ上質な家電のデザインに合わせて、全体的にナチュラルにまとめているのも特徴ですね。
クライアントが描いていた世界観に合わせて、自然光の入り方や色調などについても徹底してチューニングを行いました。
─ 空間の美しさはさる事ながら、写真とイラストの組み合わせもすてきだなと思いました。
岡部:ありがとうございます。「noiful」は“空間”をコアなサービスとしています。とはいえ、空間の写真だけでは、実際にそこで生活するイメージができないかもしれません。モデルに写り込んでもらった場合、“人”の印象しか残らない可能性もあります。写真とシンプルなイラストを組み合わせることで、空間の美しさや豊かさを最大限にアピールしつつ、生活をイメージできるようなビジュアルに仕上げることができました。
ユーザーの利便性を第一に考えてたどり着いた、シンプルなWebサイトづくり
─ 「noiful」には不動産サイトとして物件を検索できる機能も実装されていますね。そちらについて工夫された点を教えてください。
岡部:できる限りシンプルに見せることで、デジタルにあまりなじみのない方でもご利用いただけるように設計しました。不動産サイトはどうしても情報が多くなりがちです。自分が理想とする検索条件を選ぶだけでも手間がかかりますし、時間がある時でないと調べることが難しい。「noiful」の場合は家電を選べるという特徴もあり、通常の不動産サイトと比べて検索条件がより複雑になってしまう可能性がありました。
─ 選ぶ箇所が多いと、それだけで離脱してしまう方もいるかもしれませんね。
岡部:そういった懸念を解消するため、情報を整理してシンプルな検索画面にすることを心掛けました。
─ なるほど。不動産サイトといえば物件写真も重要な要素の一つだと思いますが、そちらに関してはいかがですか。
岡部:物件写真の撮影方法は、詳細なガイドラインを設けています。物件の写真があまりに誇張されていたり、反対に見たい箇所が撮影されていなかったりすると、それだけで印象が悪くなってしまいますよね。そういった事態を避けるべく、「noiful」では実際に自分たちが入居することを想定して、どのような写真があるとうれしいのかを考えました。
撮影を担当する方には、「部屋を見回した時の目線で撮ること」「できるだけ窓から入る自然光で撮ること」などを意識するようにお願いしています。他にも、間取り図の書き方など、細部にわたりクライアントの方々と調整や確認を丁寧に行いながら仕上げて行きました。
近年よく見られる360度カメラを使って部屋の中を見回せるような写真も掲載しています。実際に物件を見ることが難しくても、オンライン上で内見ができるよう工夫しました。
デジタル上での“リアルな体験”が、ニューノーマルな暮らしを広める鍵となる
─ 2022年1月にWebサイトをリリースして、世間の反応はどうでしたか。
岡部:コロナ禍で生活の多様化が進んでいたこともあり、大きな反響がありました。というのも、ニューノーマルな暮らしが大きく取り上げられる中で、「おうち時間を充実させたい」というニーズが増えています。一方で、理想のおうちを再現できている方は、あまり多くないのではないでしょうか。
このような背景がある中で、「noiful」ではその魅力が伝わる適切なクリエイティブ表現を活用し、新しいライフスタイルを提案できました。今後もおうち時間が重要視される傾向は変わりないと思いますし、ニューノーマルな暮らしを広めるためにも、Webサイトをより充実させていけたらと考えています。
─ 具体的にはどのようなことを検討しているのですか。
岡部:あくまでも我々の構想ですが、今後はデジタル面を強化したいと考えています。先ほど、Webサイトで360度カメラを活用して擬似的に内見できるようにしているとお話ししましたが、今後はそこをより徹底していきたいですね。例えば、テーブルや家電の裏まで覗き込めるようになるといいなと。VRのようなテクノロジーを活用し、オンライン上で内見を完結できるようになれば、利便性を大きく向上できると思うのです。
遠方から引っ越しする場合や、時間に余裕のないビジネスパーソンなど、内見に行くことが難しい方も珍しくありません。さらに、内見だけでなく、先進家電がある部屋ではどのような暮らしが送れるのか。実際に現地に行かずとも、オンライン上でリアルな体験ができるようになれば、「noiful」の魅力をより多くの方に伝えられるのではないかと考えています。
─ デジタル上での体験を向上させるということですね。
岡部:はい。「noiful」のようなサービスをアピールする上で最も大切なのは、いかにリアルな体験を想起させるかだと思うのです。そういった体験をデジタル上で実現するためには、細かい部分も徹底して世界観を創り上げることが重要です。「noiful」では、現実世界との境界線を感じさせないよう、アナログ感も大切にすることを意識しながら制作を進めました。
クライアントの思いに寄り添うことで、CXクリエイティブの精度は向上する
─ ここまでお話をお伺いしていて、ユーザー目線を徹底されているのだなと感じました。
岡部:パナソニックが「ユーザー目線」を徹底されているのです。例えば、パナソニック製のエアコンはとても綺麗にデザインされているのですが、空間の美しさを重視するのであれば、やはり見えない方がいいですよね。そのため「noiful LIFE」では、パッと見ただけではわからないように、エアコンが隠されているのです。本来であれば、自社の製品は目に見える場所に置きたいと思うのではないでしょうか。それにも関わらず「見えない方がいいのであれば隠す」という判断ができるのは、ユーザー目線を徹底しているからこそできる判断だと思います。
今回のプロジェクトを通して、パナソニック、くらしアプライアンス社の素晴らしさを改めて感じました。
─ クライアントの思いが反映されているサービス=noifulだと。
岡部:おっしゃる通りです。今回のプロジェクトは、クライアントの思いに寄り添いながら進めていくことを重要視していました。
─ まさに理想的なプロジェクトの進め方ですね。
岡部:どれだけ素晴らしい商品であっても、認知されなければ使ってもらうことはできません。認知されたとしても、魅力を正確に伝えられなければ、世に広まることなくサービスが終了してしまうでしょう。商品の魅力を最大限に伝えるためには、クライアントとの関係性を構築するのも非常に重要なポイントだと考えています。
「noiful」の場合、事業の立ち上げから電通デジタルが携わらせてもらい、私たちとしてもクライアント及び商品への理解が深まりました。CXクリエイティブ事業部として、今後もクライアントのビジネスに寄り添いながら、サポートをしていきたいと考えています。
* * *
徹底した「ユーザー目線」と「サービスの完成度の高さ」。これらは事業を成功させる上では欠かせない要素なのではないでしょうか。しかし、どれだけ優れたサービスであったとしても、世に広まることがなければ意味がありません。「noiful」の事例では、デジタル上でのリアル体験を創出することでサービスの魅力を周知させることが重要であり、CXクリエイティブは、サービスを世に広めるためのツールとして非常に大きな効果があると教えてくれました。
プロフィール
CXトランスフォーメーション部門 CXクリエイティブ事業部 プロダクトデザイナー
美術大学を卒業後、家電メーカーに入社。日本、北米市場に向けたスマートフォン、フィーチャーフォンのプロダクトデザインや通信機器の先行開発提案などに携わり、コンセプトから開発、量産までのデザインワークを一貫して経験。その後、電通デジタル入社。リアルとデジタルの横断的なアプローチを得意とし、IoTサービスの開発などを担当する。
※所属・役職は取材当時のものです。