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ユーザーも一緒に「知るよろこび」を追体験。「ふくしま 知らなかった大使」におけるCXとは。

2021年春から始まった「ふくしま 知らなかった大使」。ふくしまについて「知らなかった人」代表として女優の松岡茉優さんを起用し、ふくしまを知らないユーザーと一緒に知る瞬間の驚きやよろこびを体験するコンテンツとなっています。

今回は「ふくしま 知らなかった大使」のコンセプトから制作の裏話まで、電通 CXクリエーティブ・センター 並河進と、電通デジタル アドバンストクリエイティブセンターに所属し、今回メインプランナー兼クリエイティブディレクターを担った村上貴義に話を聞きました。知らなかったからこその体験を追求したという「ふくしま 知らなかった大使」におけるCXとは?

知っている「観光大使」ではなく、知らないから始まる「知らなかった大使」が誕生

-最初に「ふくしま 知らなかった大使」のコンセプトについて教えてください。

並河:福島県が発信する今回のコンテンツの目的は、「ふくしまの魅力を伝える」こと。ふくしまに住んでいる人や、ふくしまのことが好きで応援している人は、すでにふくしまの魅力を知っていますよね。今回の企画では逆に、ふくしまに接点のない人やふくしまについて知らない人たちに、どうやって興味を持ってもらおうか、というのが企画の出発点でした。

最初に考えたのは、その地にゆかりのある人が指名される「観光大使」でした。その考えを進める中で、逆にその土地について何も知らない人が「観光大使」に指名されて、ドキュメンタリー的にその土地のことを知っていく、というアイデアを考えました。

このアイデアを福島県のクリエイティブディレクターである箭内道彦さんに話したところ、観光大使という枠組みではなく「知らなかった大使」という他にはない「大使」として実施するのはどうか、という話になりプロジェクトがスタートしました。

村上:普通はその地域に対する知識などを持っている人が観光大使に就任しますが、その逆を行く人が大使に就任すること自体が面白いと思いました。

それに知らないからこそ、新たな発見や驚きが出てくると思います。そんなシーンをチャーミングに描いたり、共感を得たり、見ている人にとっても「ふくしまにそんな一面があるんだ」と発見してもらえると感じました。企画としても面白いコンテンツができそうで、頑張ろうと思ったことを覚えています。

専門分野のメンバーを招集し、チームワークで安定した制作を実現

-チームとしてはどのような体制で取り組まれたのでしょうか。

村上: 2021年春から始まった第一期は、電通東日本福島営業所のメンバー、電通の第4CRプランニング局(4CRP)のアートディレクター三町、クリエイティブプロデューサーの明石と共に協力しながら、動画やWebサイト、ポスター、そして「就任テスト」などを制作しました。そして2021年秋から始まった第二期の制作では、4CRPのコピーライター姉崎とCXクリエーティブ・センター(CXCC)のプランナー王にも入ってもらい、チームを増強しました。

共に考えてくれるメンバーが増えたことで、自分だけでは思いつかない視点が増えました。官公庁の仕事を経験していたメンバーの知見を活かしたり、デジタルに強いメンバーのアイデアを活用したり。第二期は企画や制作プロセスを俯瞰して見ながらディレクションできるようになったのもあり、安定して進めることができました。

さらに、第一期、第二期を通じて、東北新社の皆さんや監督のPennacky(ペンナッキー)さんのおかげで、動画の制作をはじめクリエイティブ全体のクオリティが高められたと思います。

そして、福島県のクリエイティブディレクターである箭内さんの、福島県民の立場になって考えられたディレクションやアドバイスも欠かせなかったと感じています。

「就任テスト」を通じて、ユーザーも一緒に知る体験を

-先ほどお話しに出た「就任テスト」とは、どのようなコンテンツなのでしょうか。

並河:箭内さんと話す中で、いろいろなアイデアが生まれました。「観光大使の就任テストがあるとしたら点数が高い方がいいけれど、知らなかった大使の場合は点数が低い方がいいよね」という話をしていたのです。

「就任テスト」のクイズの出題例

コンセプトができた後、大切にしたのは「知らないことはいいことなんだ」「知らないからこそ、知ることができる」ということ。「ふくしま 知らなかった大使」を通じて、日本中のふくしまを知らない人たちに「知らないからこそ、知るとこんなに面白いんだ」と感じてもらいたいと考えていました。

動画だけの企画にしてもよかったのですが、今回やりたかったのは、みんなに「私もこんなに知らないんだ」と体験してもらい、知らないからこそもっと知りたくなるという気持ちを「ふくしま 知らなかった大使」と一緒に体験してもらうことです。

そこで「実はそうなんだ!」「知らなかった!」とつい口に出してしまうような、驚きがある「ふくしま 知らなかった大使 就任テスト」を用意しました。

-「就任テスト」を用意する中で工夫されたことや、ユーザー体験が広がるように意識したことはありますか。

村上:「就任テスト」の難易度や内容は特にこだわりました。不正解の選択肢や解説文からも、さらにふくしまへの知識が広がって興味を持ってもらえるようにしています。知識のレベルを調べるためだけのテストではなく、読み物としても面白くなるように意識しました。

並河:Webサイト以外だと、Twitterを見ている中でふと問いかけるような仕組みも行いました。Twitter上でテストに解答すると、結果に合わせて「ふくしま 知らなかった大使」からのメッセージ動画が見られるというものです。

ふくしまの情報は調べればたくさん出てきますが、自分に問いかけられて答えるというアクションを行うことで、それまで無関係だった人が、ふくしまとの関係を持つ第一歩に繋がる、自分事になっていくことを狙いました。

-「就任テスト」に加え、「検定テスト」もあるそうですね。

並河:そうなんです。「検定テスト」は第二弾として展開しました。私はもともと、ふくしまについて全く知らないわけではなかったのですが、例えば「検定テスト」で出したふくしまの新しい酒米「福乃香(ふくのか)」が何年かけて作られたかという問題のときは、長い時間をかけてこだわりのお米を作り出したことを学んだり、テクノロジー分野でも先進的な取り組みを行っていることを知ったりと、どちらのテストのときも「知らなかった」ことがたくさん出てきました。

村上:私はこの仕事に携わるまでは、喜多方ラーメンが好きで福島県まで食べに行ったことがあるというくらいで、ふくしまとの関わりはゆるかったのですが、「就任テスト」や「検定テスト」の問題作成を通して、様々なふくしまをリサーチし、自分自身もふくしまについて知っていきました。

ドキュメンタリー性にこだわったクリエイティブ

- クリエイティブ面でのこだわりも教えてください。

村上:ふくしまの人たちに「ふくしまの今とこれから」について語ってもらい、松岡大使のリアルなリアクションを撮るというドキュメンタリー性にこだわりました。Webサイトの文字の使い方やデザインなどは、アートディレクターの三町を中心にディレクションして、真面目でありながら美しい雰囲気のある「ふくしま 知らなかった大使」の世界観を作り上げていきました。

テストもあまり真面目すぎると勉強になってしまうので、ちょっとだけクスッとなるような、興味を持てるテストになるようにチームメンバーを巻き込んで作り込みました。何度チャレンジしても楽しめるよう、毎回ランダムで問題が出る仕組みになっているので、この記事を読んでいる人にもぜひチャレンジしてほしいです!

「ふくしま 知らなかった大使」特設サイトはこちら

並河:ふくしまには、見てほしいところも多くある一方で、復興途中の部分もまだあります。それをありのままに知ってもらうことにもこだわりました。ありのままだからこそ、ふと心が動く瞬間を捉えられたらいいなと思っています。

- 印象的だった場所やシーン、出来事などがあれば教えてください。

村上:あまりふくしまを知らなかった自分が印象的だったのは、「福島ロボットテストフィールド」に行ったときですね。最先端のロボットをはじめ、先進的なテクノロジーがふくしまに集まっていることにすごいなと感じました。日本酒の蔵元に撮影に行ったときも、昔ながらの技術を大事に守りながら、いろいろな酒蔵の人たちが集まって情報交換しながら進化しようとしているところも本当に素晴らしい試みだと思い、皆さんの熱意に感動しました。

ふくしまの方々は、皆さん素敵で優しくて、ふくしまのこれからのことを真剣に考えていらっしゃる方ばかり。「今度ここへ行ってみてください」と、いろいろ教えてくれました。自然や施設など「場所」としても、もちろん魅力的でしたが、「人」のあたたかさも印象的でしたね。プライベートでもまた行きたいと思っています。

撮影の際には、県の職員の方々や箭内さんが、どのように撮ればふくしまの魅力的なの部分を引き出せるのか、どのように伝えれば共感してもらえるのかを一緒に考えてくださり、とても頼もしかったです。

並河:印象的だった動画は、只見線を紹介したもので、雨が降っている風景はとてもきれいでしたよね。

村上:天気は想定外でしたね(笑)。でも、監督のPennackyさんが動画ではその雨を活かしてくれましたね。

並河:雨音と合わせて、雨の日のふくしまもこんなにきれいなんだと思える動画が制作できたので、ぜひ見ていただきたいです。

ふくしまに足を運んでもらってこそ、本当のCX

- 今回の企画全体を振り返った感想をお聞かせください。

並河:今回は知らなかったことを知っていくというコンセプトがはっきりしていたからこそ、「あんなことをやれたらいいな、こんなことをやれたらいいな」とアイデアが広がっていく感じがありました。

最後は知ってしまうのか、それとも知らないまま終わるのか……というのは、結構話し合いましたね。

村上:今でも話しますよね。

並河:ただ、ふくしまの全てを知り尽くすことはないんだろうなと思います。「ふくしま 知らなかった大使」としても、まだ紹介できていないことがあるかなと感じています。

村上:そうですね。知らないことを知ることで、より深く知りたくなっていくことが全体のテーマなのかもしれません。そういった体験を大使の松岡さんを通じて、見た人が追体験してもらえたらいいなと思っています。

これまでは「知らない」=「ネガティブ」なイメージが強かったですが、「知らない」ことは可能性を秘めている、新鮮な体験を得られるチャンスだということを「ふくしま 知らなかった大使」を通じて感じてもらいたいです。今知らなくても、この先知っていくことで世界は広がっていくので。

並河:CXとしては、見て終わりではなく、実際にふくしまを体験してもらいたいですね。ふくしまに行ったり、アンテナショップで購入したりするなど、何か体験してもらえるところまでいってこそ、本当のCXですよね。そこで思わず「知らなかったなあ」と言ってもらえたら嬉しいです。

*  *  *

今回は、「ふくしま 知らなかった大使」におけるCXクリエイティブとその仕掛けについて話を伺いました。

知らないからこそ、知るよろこびを体験する。明確なコンセプトのもと、動画やテストを通して「ふくしま 知らなかった大使」と共に学ぶ楽しみが続くという仕掛けは、興味だけでなく知識欲も刺激するコンテンツになっていると感じました。

プロフィール

電通:並河 進(なみかわ・すすむ)

CXクリエーティブ・センター
電通エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター。
人と社会と企業をつなぐソーシャルデザインやデジタルクリエイティブを数多く手がける。
2021年、カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター発足とともに、センター長に。
著書に、『Social Design』(木楽舎)、『Communication Shift』(羽鳥書店)他多数。
東京ビエンナーレ エクスペリエンス・クリエイティブ ・ディレクター。TCC会員。

※所属・役職は取材当時のものです。

電通デジタル:村上 貴義(むらかみ・たかよし)

アドバンストクリエイティブセンター
クリエイティブディレクター/CMプランナー
電通4CRP→CXクリエーティブ・センターを経て、2021年より電通デジタルアドバンストクリエイティブセンター(ACRC)に出向中。マス&デジタルキャンペーンの企画・クリエイティブディレクションを中心に、コンテンツ制作、コピーライティングも担当。登山や自転車ツーリングなどアウトドアな活動が趣味。

※所属・役職は取材当時のものです。