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「ママがいい」

息子はいつのまにか私のことをママと呼ぶようになった。

私は親をパパ・ママと呼んでこなかった。「お父さん、お母さん」であったため、息子にママと呼ばれるのはどうも居心地が悪く、自分のことをお母さんと呼ばせていた(発音的には「かーたん」であったが)。

しかし保育園では基本的に「ママ」という言葉が使われる。保育園の先生も「○○ちゃんのママ」という呼び方をするし、保護者間も然りである。息子は園で過ごす時間が長いこともあってか、「ママ」と「かーたん」が混在する時期がずっと続いていたが、少しずつママの比率が高くなってきた。特に第三者に私のことを話す場合には100%ママが使われる。

人の母になりそろそろ4年、もはやママだろうがかーたんだろうがババアだろうが何でも構わないな、というのが今の正直な気持ちである。

今年に入って意外な展開を迎えシングルマザーになった。近からず遠からず、いや決して近くない場所に住んでいる私の母(ここでは便宜上ばあばと呼ぶ)に、結構なサポートをしてもらってなんとか生きながらえている。泊まりで洗濯や炊事をしてもらったり、どうしても仕事が終わらない連休などは、息子を実家に泊まらせて私は仕事をする、といったことも数回やらせてもらっている。

息子は基本的には聞き分けの悪い人間ではない。それはそれで内側になにか貯めているのではないか、発散できているのだろうかと心配にもなるが、ばあばの寝かしつけでも問題なく眠れていた。

それが最近、寝る段になって「ママがいい」と大泣きするようになった。

先日の夜、突然私が膀胱炎にかかり、ばあばもいない、病院もやっていないというなかで、さて一晩我慢して翌朝息子を保育園に預けてから病院か、と考えたものの、とても我慢できない。幸い、近くに住む友人が「今から行く」と駆けつけてくれた(マジで神様である)。適当に遊んでから寝かせておいてほしいという図々しいお願いをして、息子を彼女にあずけ救急へと向かった。

担当が研修医のような女性で、とにかく要領を得ない。夜間で手続きも多いのか待たされる時間も長く、帰宅は11時を過ぎてしまった。

が、息子は起きていた。

友人曰く「寝かそうとするとママがいいって泣いちゃうので、寝てもらうことができなかった」という。息子は友人と元気に遊んでいる。「ママがいい」が出るのは寝かせようとするときだけなのだ。

「ママがいい」と泣くとき、私が隣に行くと、まったくゴネることなくすぐに寝てしまうことが多い。だっこをせがむわけでもなく、いつまでも泣いて何かを訴えるようなこともない。ただ私が隣にいるだけなのだ。

理屈で考えれば、たとえば私よりもばあばや私の友人のほうが10倍息子にやさしいと思う。それでも私でなければならない理由って何なのだろう、と思う。血の繋がりとか、私を親だと決めて生まれて来たとか、そういう話をするつもりはなく、まして息子に私がどれだけ好かれているのかという話でもなくて。もっと人間が成長や自立をするために必要な安心感だとか、そういう話なのかなと思う。

こんな時期もきっとすぐに過ぎていくのだと思うけれど。私は彼の親なのだということ、こういうときに非常に思い知らされる。

#3歳11か月



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