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東京女子流「Liar」

東京女子流の「Liar」という曲がある。2011年にリリースされた8枚目のシングルなので、2010年デビューしたことを考えると高校生1年生の時、文化放送のFriday super countdown 50(スパカンという略称でおなじみだった)という番組で初めて聴いた時の衝撃は今でも思い出す。スパカンのランキングサイトを振り返ってみると、初登場が2011年の11月19日、ランキングにして50位中44位であった。スパカンでは21位以下の曲はサビが10秒程度流されるだけなのだが、当時高校1年だった僕はこの10秒でがっつり心を捕まれてしまった。ただ、当時はそもそも東京女子流という存在を知らなかったので、グループ名と歌声だけ聴いたところでまさか自分とほぼ変わらない年代の女の子たちが歌っているなどとは思わなかった。というのも若い女の子にしてはその歌声はあまりに低すぎるし何より曲が暗い。失恋ソングだとは後で知ったが、それ以上の翳りをどこかに感じていたのは自分だけであろうか。曲調が素人目(耳?)にもこの年代が歌うような雰囲気ではなかった。いわゆるマイナーコードとでも言おうか、一番盛り上がるはずのサビを聴いても何だこの暗さは?と思っていた。とにかく底抜けに暗い。けれども曲としては洗練されていて、イントロのバスドラだろうか?を皮切りにギターへとつながるパートから始まり、パーカッションが響いたロック調のバックミュージックと不思議な融合をしていた。暗いとばかり書いてはいるが、マイナーコードであり、アイドルにありがちな単調なメロディとも異なる、今まで聴いたことのないような旋律が魅力的でもあった。

心をつかまれたまま、CDリリースに先立ってYouTubeにアップされていたショートバージョンのミュージックビデオ(MV)を観てみたのだが、このMVがまた衝撃的だったのだ。白黒画面に見えた。いや、正確には白黒ではなかった。カラー映像なのだがそこに映った背景、彼女らの衣装、画面に映る全てがモノトーンで統一されていた。唯一カラーであることを視認できるのは肌の色くらいだろうか。さらにMVで初めて歌っている東京女子流のメンバーを認識した。みな中学生ぐらいだろうか、かなり若いのだがこのことが曲・MVとの雰囲気のミスマッチを増幅させていた。その当時2011年はAKBが時代のトップをひた走っていたまさに全盛期だった。ももクロもまだブレイク前夜といったところで、彼女らがアイドルの象徴だった。ところが、彼女らよりも若い5人が白黒の雰囲気の中大人びた曲を歌っている。MVでは演出として黒っぽい色が付いた粘性の低い液体が垂れる様子まで見える。白黒世界だから本当に黒色なのかも分からない。黒が混じった赤かもしれないしだとすると血を表現しているのか?想像力はかき立てられた。まだアイドルも音楽も今ほどは知らなかった頃なので、衝撃もひとしおだったのだと思う。

東京女子流のことをよく知るまで、僕はこのLiarには男性パートがあると勘違いしていた。全パート通して所々聞こえる低いハモりなのだが、これは女性の声にしては低くないか?と思っていたからだった。実際はメンバーの誰かの歌声(おそらく小西彩乃さん)だったのだが、これを知った時にも、アイドルでここまでの低音が出せるのかと心底驚いた記憶がある。
今でこそ多様性という一見便利な言葉を錦の御旗にして色々なコンセプトを打ち出したアイドルはたくさん出てきたものの、そのころはグループ乱立前夜といったところでグループ数もそこまで多くなかったのではないかと思う。その中でこの曲は異彩を放っていたのではないだろうか。

Liarリリースから数年経って大学生になったころ、ようやく東京女子流のライブにも行くようになったが、何回生で聴いても魅力は飛びぬけていた。他にも東京女子流には他にも良曲が多い。彼女らが素晴らしいのは、この曲にとどまらず他のシングルでも「Limited addiction」「Bad Flower」など決して大衆受けするようなものではないがどこか引き込まれる魅力のある曲をいくつもリリースしているところだろう。5年程前の赤坂BLITZでの5カ月ライブ「HARDBOILED NIGHT」で各月ごとに披露された新曲も、どれもより渋めを増したテイストの曲ばかりでたまらなかった。

東京女子流はその後、アーティスト宣言をするなどしてアイドルからの脱却を目指していたが、思えばデビューして2年と経っていないこの初期の頃の楽曲で十分アーティストであることは周囲に知らしめていたように思う。アイドルにはコールや、いわゆるmixなどが挟みこまれることがお決まりであるためか、曲のイントロが長かったり、サビのメロディのパターンがコールをしやすいようになっている。ところが、このLiar含め東京女子流の曲にはそのような余地があまりない。というか、挟みこめるような雰囲気ではない曲が多い。

個人的には、アイドルとアーティストの境界線は非常に微妙で、若くてルックスがよければみなアイドル的に扱われてしまうのはしょうがないと思っている。東京女子流はパフォーマンスが突出しておりアイドル好きの間ではもはやアーティストとして確立していたとは思う。しかし、CDの販促などで握手会等も頑張っていたことや、若くてルックスが良いばかりにアイドルとしての要素も否定できなかった。立ち位置としては微妙なところではあったと思う。そういった面ではオフィシャルにこういう線引きをしてしまうというのも一つの選択だったか。これについてはフェアリーズや東京パフォーマンスドールもあいまいなのだが、立ち位置をかすませるくらいパフォーマンスが秀でているということである。これらについては別でまた書きたいと思う。

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