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【曲紹介】Fragrant Drive 「胸の奥のVermillion」

今回は久々の曲紹介として、アイドルグループ・Franrant Drive(フラドラ)のファーストシングル「胸の奥のVermillion」の表題曲についてご紹介します。

元は別々の2グループが合体して結成されたフラドラ、グループ名には「Fragrant (香り)」そして「Drive (衝動)」という英単語が組み合わされていますが、ここには「世界中を幸せな香りで包みたい」「このグループで衝動を与えていこう」などいくつかの想いが込められているそうです。

そんなフラドラのデビューシングルとして2019年3月にリリースされたのが「胸の奥のVermillion」でした。

僕がこの曲を初めて聴いたのは去年の対バンライブ配信でした。
そもそも、その時点ではフラドラの存在すら知りませんでした。
セットリストの確か2曲目で披露されたと思うのですが、全く知らないなりにもどこか刺さってくるところがあり、記憶が薄れないうちにツイッターで急いで検索をかけた覚えがあります。

記事を書いている時点で既にMVに映っているメンバーの半分はグループを去っており、しかも2年近く前の曲ではあるのですが、聴くたびに色々と書きたいポイントが出てくるような魅力ある曲なので、こうしてご紹介しようと思うに至りました。

個人的なポイントをいくつか挙げるとするならば、以下の3点でしょうか。

・余韻を残すサビ終わり
・説得力のあるMV
・少々古風な言い回し

順序だてて見ていくことにしましょう。

余韻を残すサビ終わり

この曲、テンポが非常によく、心地いい疾走感を覚えます。
聴きながら記事を書くと、勢いに押されるままにすらすらと書けてしまいそうな気分になるくらいです。
実際のところはそうもいきませんが。

イントロに始まり、終始曲を引っ張っているキーボードが飾るメロディー、ドラムの急き立てるような音がそう思わせているのでしょう。

こうした「スピード感」と「勢い」というポイントはメンバーへのインタビュー記事でも、なによりこの曲の作曲をした元Janne Da Arcのkiyoさんのブログでも触れられています。

伴奏に負けじと、フラドラメンバーの歌声もスーッと駆け抜けていくような気持よさがあります。
メンバーそれぞれのソロパートで歌いつながれるABメロに加え、サビ直前でメインとハモリに別れて6人のメンバーの声が重なっていくところは、欠けていたピースが一つずつ重なったかのような高揚感を覚えます。

サビでも期待を裏切らない爽快感があり、kiyoさんの言葉をお借りするなら「ストレート・ド直球」な曲です。

...とここまで書いてはきたのですが、そうした疾走感よりも、サビ終わりのひと展開にこそこの曲のツボというのがあるのではと個人的には思っています。

速いテンポのサビから一転、サビ終わり間奏直前のこの歌詞のパートではストップモーションのようにテンポが落ちます。

Drive your Dreams… Vermillion…

いや、テンポ自体は変わっていないのかもしれませんが、ここのパートでは不思議と時間がゆっくり流れる感覚があります。
およそ10秒ないくらいの短いパートですが、それよりもなんだか長く感じます。

特にラスサビ終わり、アウトロ直前には

Drive Your Dreams… Drive Your Dreams…
Drive Your Dreams…

と3回も念を押すように繰り返されます。

まるでサビまで続いた勢いの余韻をかみしめるかのようであり、先述したグループコンセプトにのっとると、ふわっとFragrant(香り)が広がっていく様子とも捉えられます。

また、MVにおいてABメロでは真っ白だった背景は、サビからほんのりと朱色のライトで照らされていきます。
そうした点からも、香りだけでなくゆっくりとした色の広がりまでこのパートでは見えるかのようです。
例えるなら、曼殊沙華が一面に広がる巾着田のイメージでしょうか。

巾着田

これに加えると、このパートの振り付けに採用されている、腕や肩をゆっくりと回すしぐさも、見えないハンドルか何かを回すことで、そうした香りや色を攪拌しているふうに見えなくもありません。

これらの要素が合わさり、単に勢いが良いという言葉だけでは語れないような聴きどころが生まれていると思えてなりません。

曲全体としては「急」だけど「緩」も感じさせる。

この「Drive your...」のパートがあるからこそ、サビまでの勢いが活きるのかも知れません。

説得力のあるMV

最も書きたかったのは上記の箇所なのですが、この曲はそれだけでは語れない魅力があります。

MVでは、踊っているメンバーに加え、後ろに控えるバンドメンバーも映っています。
ほとんどダンス+演奏ショットなので、kiyoさんはじめとするバンドメンバーの登場回数もそれなりに多いです。

プロデューサーの方は「曲に説得力を持たせる」ためにこの画を採用したとのことですが、なるほどたしかにバンドセットがあることで耳のみならず視覚としても音を捉えることができ、メンバーの歌声、ダンスと伴奏の間が一本の線で繋がれたような統一感を覚えます。

例えば、1Aメロでドラム越しに見えるメンバーの歌割が切り替わる瞬間、手前に映るドラムセットでも対応するようにスティックが上がり、続くメンバーが歌いだした瞬間、ライドシンバルへと振り下ろされます。

スティックと歌詞パートのリンクは、その一瞬だけでもなにか「タメ」ができたように感じ、打ち鳴らされたシンバルの音が反響してしばらく続いていくような雰囲気です。

キーボードやドラムの手数の一目瞭然な手数の多さもそうですが、これらは単に曲だけを聴いていてもサーっと流れて行ってしまいそうな部分で、曲をかみしめることがよりできるとともに伴奏の楽器が見えることのありがたさを実感します。

少々古風な言い回し

この曲、タイトルにこそ「Vermillion」とあるものの、サビ以外には英語はおろかカタカナ語が使われていません。唯一の例外は2番での「Ange(フランス語で天使の意)」くらいです。
目立つのは、普段あまり使わなそうな日本語のフレーズです。

きっと花はもう枯れたと 懐かしき場所を寄り歩いて
胸の奥に響き鳴る言の葉は
やがて朽ちぬ岩ですらも打ち砕いて薫る

翻ってフラドラの他の曲の歌詞も見ていくと、これまた少々小難しい「地獄の業火の果て」や「君の苦しみすら 打ち払えぬ僕は」などという言い回しがあります。

フラドラの曲はどうも同じ方が作詞を担当されているようなので、あえてこうした言い回しで統一されているのでしょう。

赤で統一された可愛い衣装を着たメンバーが、あまり普段では使わないような言い回しをするというのはアイドルの中でも特異的ですし印象に残ります。

これに関しては「胸の奥のVermillion」だけに限った話ではないですが、こうした歌詞の情緒も、聴く人に対して「何か違うぞ」と思わせる助けになっているかと思います。

この曲では、特に「やがて朽ちぬ岩ですらも打ち砕いて薫る」なんていうフレーズは、頭にこびりつきますし確たる決意のようなものが印象付けられます。

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グループの色にちなんだであろう「Vermillion(朱色)」がタイトルに組み込まれ、メンバーそれぞれの力強さも感じる「胸の奥のVermillion」ですが、まだまだ語れそうな余白があります。

例えば、サビの歌詞、1番と2番で読みは同じでも違う漢字を使っている箇所があります。

あなたの胸にも緋を灯してあげる
あなたの夢にも灯を燈してあげる

また、赤を表現するのに「Vermillion(朱色)」と「Scarlet(緋色)」という単語が出てきますが、これらは似て非なる色です。

こうした、近しいけれど微妙に違う単語どうしを組み合わせたことにはどういった意図があるのか、など。

これ以上書こうと思うとなかなかなボリュームにもなってしまいそうですし、なにより考えだすと公開するまでに相当な時間がかかりそうなので、ver.2なり別の機会まで引き延ばそうと思います。

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この記事を書くにあたり、大げさでは無くなん十回とMVを繰り返し再生してしまいました。
今までの曲レビューとは違い、イメージをより膨らませたような文章にしよう、と張り切ってしまった結果というのもあるのですが、それだけたくさん聴いても鮮度の落ちない、むしろ新たな気付きが生まれてくるような曲だったから聴かずにはいられなかった、という点も大きかったです。

MV含め、曲全体が小難しさを排してシンプルなつくりだからこそ解釈や受け止め方の余地が大きいのかもしれません。

この曲はおろかフラドラについてもまだ生で観たことは無いのですが、生で聴くとまた違った感覚は間違いなく生まれるでしょう。いつかライブレポの中でこの曲を扱いたいと思っています。

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