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【曲紹介】サンダルテレフォン「SYSTEMATIC」【海に潜ったような】

今回は、4人組アイドルグループ・サンダルテレフォンが2021年1月にリリースした1st EP「SYSTEMATIC」についてご紹介しようかと思います。

既に一部のアイドルファンの間では楽曲派アイドルとして呼び声の高いサンダルテレフォン。

年末に開催された、アイドルファンによるアイドルファンのためのイベント「アイドル楽曲大賞2020」でも間違いない存在感を放っていました。

サンダルテレフォンはこの大賞にて軒並み高順位にランクインしており、「推し箱」ランキングでは11位、曲での最高位は「Magic All Night」で12位、そしてアルバム部門では1stミニアルバム「Step by Step」が5位という結果でした
まさに名実ともに伸びていっている感があります。

楽曲部門こそ二分化されており、「インディーズ・地方アイドル部門」の中での順位です。
それでも十分すごいのですが、「推し箱」と「アルバム」部門はメジャーアイドルもひっくるめての集計ですから、「ダルフォン」旋風は限られた人達だけのちょっとしたブームとはもはや言えそうもありません。

デビュー年の2019年には楽曲部門も推し箱部門も100位以下であったことを思うと、大躍進と言う以外に無いでしょう。

実際、メンバーがいいねを押すツイートの数々を見ても、アイドル楽曲大賞で上位にランクインしていたから聴いてみた、というアイドルファンのコメントが散見されました。

外さない1st EP「SYSTEMATIC」

指数関数的な人気の上昇と、さらなる飛躍が現実味をもって期待される2021年、一発目にリリースされたのがこの「SYSTEMATIC」でした。
表題曲「SYSTEMATIC」はすでに2020年10月頃にお披露目されていたらしいのですが、音源としてのリリースは年明けでした。

これまでの活動履歴で既に「楽曲派アイドル」の名前を手にしたかのようなサンダルテレフォンですが、このEPも非常によくできています。

カップリングには既出の「コーリング」や「Magic All Night」にアレンジの加わった「Remix ver.」が収録されています。
もともとライブ映えのする曲を、さらにライブハウス向けに突き詰めて再構築したようなアレンジですが、思わずうなってしまうような、衝動が突き上げてくるような没入感があります。

また、表題曲とともに未出であったのが「かくれんぼ」という曲。
この曲については、特に歌詞に注目すべき曲かと思います。
歌詞には婉曲されたような言葉や、アルファベットが使われておらず、至ってシンプルなフレーズによって構成されています。

一見単純な言葉に見えるのですが、この中には「生きづらさを抱える苦しみ」のようなものが隠されており、それを子供遊びの「かくれんぼ」に投影しています。

いや、かくれんぼは大人もやっているので子供だけの遊びではないかもしれません。

脱線しました。曲に戻ります。
面白いのが、一見暗い歌詞でありながらポップな曲調や、はないちもんめやけんけんぱの楽しい振り付けがあることでそれが打ち消され、よくよく聞かないとそうしたダークな雰囲気をなかなか感じえない所でしょうか。

この曲の初披露のライブでは、メンバーの誰かが「歌詞に闇を感じる」とコメントしてからパフォーマンスに移りました。
そうした前知識が頭に入った状態で聴いたので、そこで聴いた直後の感想としては「闇」はちょっとオーバーかな、といったところでした。
ですが、歌詞カードを手許におき、しっかりと聴き込んでみるとなんとなくその真意が見えてきたような気がします。

とはいえ、このEPの中で何より輝きを放っている曲は表題曲「SYSTEMATIC」でしょう。
またしても前置きが長くなりましたが、この曲こそが今回の記事のメインテーマです。

表題曲「SYSTEMATIC」へ

ニュージャック・スウィングとレトロ歌謡の奇跡の融合
これが、CDジャケットの帯に書いてあったこの曲のコンセプトです。

正直、僕はあまり音楽の歴史には明るくないので、レトロ歌謡ならともかくニュージャックスウィング(NJS)と言われてもあまりピンと来ません。
おそらくアメリカとかからの輸入モノなのでしょうが、向こうでは音楽のジャンルがかなり細分化されているでしょうし、長らく受け継がれてきた歴史の文脈で捉えようとするにはあまりに難しいところがあります。

ですが、そんなことを知らずとも、曲を聴けば直感的になんとなくこうかな?という雰囲気は感じます。

この曲の振り付けでも多用されていますが、リズムに合わせて身体を左右に動かす、腰を揺らしたくなるようなイメージの曲調のことを指しているのでしょう。

さて、歌っているメンバーに目を向けると、メロディーを主だって引っ張っているのは小町まいさんと夏芽ナツさんです。

ざっくりとした言い方しかできないのですが、ささやくような、落ち着いた小町さんの低音は歌詞の世界を占めている「大人っぽさ」をメロディーに与えています。


夏芽さんの高音は伴奏を奏でているシンセ(でしょうか?間違っていたら教えてください)との親和性が高いように聴こえます。
夏芽さんの声は主旋律と一番マッチし、曲に辛気臭さを与えすぎていません。

もう一か所、メンバーの歌声に関して言うと、西脇朱音さん。
西脇さんのソロがはっきりと聴こえる部分として、2番サビである
空回りして
のパートがあります。
曲中2分40秒くらいのところでしょうか。

西脇さんと藤井エリカさんについてはもう少しパートを増やしてもいいのではないか...とは思うのですが、こと西脇さんに関しては、このワンフレーズだけでもかなり大きな役割を果たしているように思います。

初めて音源でこのパートを聴いた時は、目が醒めるような感覚でした。
そこまでの展開が退屈だったわけでもないのですが、突然カットインしてきたかのような西脇さんの特徴的な、言ってしまえばアニメ声っぽい声色というのは、いい意味で異質であり刺激的でした。
ワンポイントになっているというのでしょうか。

かつてのインタビューにてサンダルテレフォンのプロデューサーが言っていた
声質をポイントで生かして、曲にオリジナリティを出す
という彼女の役割も、ここのパートを耳にすればなるほど確かにと納得できる気がします。

◆その時のインタビューです

深い海の世界

ここまでは曲についてのざっとした印象を書きました。
ここからはさらに僕の妄想ベースの世界に入って思うところ、というかMVも観て感じたテーマのようなものを書こうかと思います。

「SYSTEMATIC」を何度も聴き、そしてMVをまじまじと観るにつれ、強く感じたイメージというのが、「海に潜り込んだような世界」というものでした。

イントロの低音に始まり、メロディを下から支えている音(楽器が分からないです)は、深く深く潜水した艦から出てくるような泡の「ブクブク」を模した音のように聴こえます。

サビの振り付けでは、腕を左右にゆらゆらさせるパートがあるのですが、これは水の流れを表現しているかのように思え、海の奥深くまで沈んでいきそうな感覚になります。

MVにおいても強く感じます。
カットの半分程度は、無機質な壁に囲まれ、明かりもさほどないセットでのダンスショットになっています。
あまり明かりの便りがないという点や、どことなく感じる「地下にいる」ような感覚もそうなのですが、なにより海のイメージが強く印象付けられたのは、緑と青が混ざったような色の照明によってこれらのセットが映し出される瞬間です。
MVのサムネイルにもなっています。

エメラルド色のような照明に照らされたメンバーのシルエットだけが浮かび上がる瞬間は、色も光の当たり具合も絶妙で、まさにこここそ海そのものだと思わずにはにはいられません。

先述した西脇さんの魅力的な「空回りして」のパートも、ここまで書いたことの延長線上で考えると、深海から一気に海面へと引き上げられたような、という表現のほうがしっくりくるかもしれません。

ところで、こうして書き進める中でふと思ったのが、先述した「SYSTEMATIC」での腕をゆらゆらさせる振り付け、これはどうもwinkの「淋しい熱帯魚」のサビでの振り付けに似ているな、ということでした。
熱帯魚は海にはあまり居そうにないですが、水系という広いくくりでいうと僕が思い描いていたテーマと図らずも一致します。

サンダルテレフォンの曲は少しばかり懐かしさを感じさせる曲が多いことから、既出の曲に絡めて「〇〇っぽい」と評すコメントをよく見かけるのですが、彼女らの曲をこうした一言でまとめてしまうのはなんだかもったいないように感じていました。

そのため、この記事を進めるにあたっては「〇〇っぽい」と安直にカテゴライズしないようにしていたつもりなのですが、頭の中ではどこか似たような雰囲気を持つ曲として処理されていたのかもしれません。

ここまで僕の妄想の世界を披露してきましたが、僕がイメージするところの「海に潜ったような」世界観というのは、ピントがずれているかずれていないかどうかはともかく、歌詞を読み取るだけでは想像できません。

これは映像と歌が合わさったことにより初めて作り出された世界で、しかも歌詞の世界観とも違う、いわば「第二のイメージ」のようなものです。

結論的に、一体このMVの何がすごいのかと問われると、観る者にこうした第二のイメージを植え付けてしまうほど映像と音の一貫性があり、しかもそれが歌詞とは独立している世界を作り出している、ということだと思っています。

まだまだ見るべきポイントは多いと思います。
僕が書いたイメージはあくまで参考程度ですが、MVを通して表現される世界に思いを馳せるのも面白いなという感想です。

ーーー

多彩でありつつもポップさでは共通していたこれまでのサンダルテレフォンの曲と比較すると、笑顔も控えめな「SYSTEMATIC」というのは少々違うところに位置するのかと思います。

ですが、メンバーの魅せ方は素晴らしく、完成度は高いです。
これをきっかけとして、サンダルテレフォンの新たな引き出しがまた開いたような気もします。

これを思うと、特定のジャンルに縛られない振れ幅の大きさが、今後のサンダルテレフォンの特長となっていくのだろうと確信めいたものまで覚えます。

先述したように、グループの楽曲や色を表現するのに、既存のものに当てはめて「○○っぽい」という言い方がなされることがありますが、サンダルテレフォンはそういった言葉の枠で収まらないくらいの多彩さを出しつつあります。
既に、ここまでの曲でそれを着実に示してきているわけです。

早くも次の曲が楽しみになってきました。

サンダルテレフォンのようなグループこそ売れるべき。
昨今のアイドル業界を見て強く思います。

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