【ライブレポ】衛星とカラテア 1stワンマンライブ 「何気ない日常を彩るのは、」
想定外の副産物
ステージ後方、頭上に掲げられたロゴ入りの垂れ幕が、ここに至るまでの過程を物語っています。
一回目のMCで、メンバーの大槻りこさんが「ひとつだけ言いたいことあるんだよね」と、一辺1mにも満たないくらいの正方形の垂れ幕のことに触れました。
会場の大きさのわりに小さくない?と言うわけです。
言われてみれば、横幅が広く天井が高い会場のど真ん中に張られているわりに、垂れ幕の存在感は小さく見えます。
小さく縮こまっているような気すらします。
どうしてこの大きさなのか。
寸法を間違えたわけではありません。
そこには大きな理由があるから、わざわざ大槻さんが話題に挙げたのでした。
5人組アイドルグループ・衛星とカラテアが、4月9日(土)に2021年7月の結成以来初のワンマンライブ「何気ない日常を彩るのは、」を開催しました。
ワンマンライブは、もともとの予定では3月26日に行われているはずでした。
コロナにより開催延期となり、振り替え公演が2週間ずれ込んだこの4月9日となったのですが、日程とともに会場も変わりました。
はじめはSpotify O-nestの予定だったのが振り替え公演ではO-WESTに。
どちらも道玄坂エリアの同じ建物に収まっていて、O-nestは5階、O-WESTは2階に位置するのですが、両者は会場の規模がまるで違います。
O-nestが最大250人キャパなのに対し、O-WESTは600人まで収容できます。
ステージのスケールにも大きな違いがあり、O-nestは天井に手が届きそうなほど低い一方でO-WESTのそれは横にも縦にもかなり広く奥行きがあり、体感では収容人数2.4倍という数字以上の差を感じます。
元々の予定であったコンパクトなo-nestでのライブ用に作られていた垂れ幕は、サイズを変えることなくそのままO-WESTに持ち込まれたようでした。
そんなストーリーを頭に、大槻さんは言います。
「あまりアイドルのライブに来ない人でも、この垂れ幕を観てくれれば一目瞭然だと思う」
予期せずグレードアップした会場の大きさを、意外な形で実感することとなりました。
それがこの垂れ幕でした。
道玄坂エリアではしょっちゅうライブアイドルのイベントが開催されており、なかでもSpitify O-系列は代表的な「箱」です。
ワンマンや対バンライブなどで何度も来ているだけに、このグループの人気だと大体この会場がちょうどいいだろうというある種の「相場観」がアイドルファンの間には生まれています。
そのものさしからみると、今の衛星とカラテアの状況はかなりの驚きをもって受け止めてしまいます。
まずO-WESTで単独ライブを打ててしまうこと自体凄いことですし、それも結成から1年たっていないグループの初ワンマンというのは自分の狭い了見の中では知りません。
そして会場の変更は、個人的にはかなり怪我の功名的なところがありました。
グループを知ったのはこの日から遡ること約1カ月前。
つい最近です。
これまた道玄坂のライブハウスで開催されたフェスでした。
何も前知識を入れないまま見たステージにすっかり魅せられ、ライブ後グループのツイートに飛んだところ、真っ先に見つけたのが2週間後に迫ったライブの告知でした。
鉄は熱いうちにと言います。
販売ページに飛んだものの、残念ながらチケットは完売。
当初予定されていたO-nestは、当日券を待つまでもなくとっくに捌けてしまっていました。
残念、行けないのか..と思っていたところにやってきたのが、日程と会場の変更のおしらせでした。
このことについては、事情が事情だけに手放しで喜びにくいことではあります。
ずっと前から予定を入れて3.26を待ち構えていた方が多かったでしょうし、中には日程変更で行けなくなった人もいたはずです。
メンバーにとっても、一旦立ち消えてしまった目標を前に仕切り直すのは並の心境ではなかったでしょうし、本来ならワンマンライブをしているはずなのに何もできず過ごすだけの療養期間の心中ははかり知れません。
とは言っても、ないものと諦めていた機会が偶然にもよみがえったというのは、こちらの都合だけで言えば棚ぼた的な幸運でした。
逃すわけにはいきません。
じっさい自分と同じ状況の方も多かったようで、当日の入りはかなりのものでした。
ぱっと見てもこの人数ではまずo-nestでは入りきらなかっただろうと思うほどには入っていましたし、埋まり具合としては最初からwestで見積もっておいてよかったような気もします。
完璧な滑り出し
ライブ当日へと移ります。
「ヒーロー」から始まったこの日は、幕開けから完璧でした。
冒頭のソロパートを任されているのは浜辺さやさんです。
かがみこんでマイクに全てを預けるような歌い方をする浜辺さん。
初見のフェスのときから、その歌い方には溢れてこぼれそうなソロへの矜持だとか詞への思いを感じていました。
「ヒーロー」はイントロの前に浜辺さんのソロから始まります。
初ワンマンの初っ端。
O-WESTに集まったフロアの聴き耳はその一音目に集中します。
集まってくる視線を感じないわけがありませんし、意気にも感じるはずです。
しかし、浜辺さんの歌声からは重くのしかかった気負いみたいなものは感じず、それよりも次につなげる勢いを感じました。
この力加減がとても心地良かったです。
続くのは久木田菜々夏さんのソロ。
久木田さんの歌声は、目が覚めるような感覚があります。
それは出される音の大きさではなく、高音域に触れるソプラノの発音が凄くはっきりしているのです。
春瀬ももさんの歌声も久木田さんと同様高めなのですが、彼女の場合はいわゆるアイドルっぽさがあります。
そんな歌声は「丸顔犬系」と自称するビジュアルや、ソロパートを歌ったあとマイクを顔の横においてニコニコしながらフロアを見つめる仕草などとよく合います。
かたや若葉ののさんはややかすれた、低めに特徴的な歌声を持っています。
初見でもわりと歌声の区別がつきやすい5人の歌声は、複数や全員でのユニゾン、コーラスといった重なるパートで絶妙に混ざっていました。
聴いている感覚としては、ステージとの距離をはるかに越えたどこか遠いところから反響しながら耳に届いてくるような感じがしました。
目に映るものにも、これと近しいものを感じました。
ダンスシーンを観てみると微妙な動きが多く、ただステージを眺めているだけでは意識にも上りにくいほど繊細です。
腕の上げ下げをとっても腕全体ではなく肘を小さく下げてみたり、神経を細やかなところにまで伝えているのがわかりました。
ダンス以外にも、例えば「Image」のワンシーン。
ステージ奥から焚かれた暖色系の照明が目に当たった途端に視界はぼやけ、メンバーの動きは幕に包まれました。
あるいはグループのアーティスト写真をよく見ると、画像の一部にハレーションしたかのようなかすれたエフェクトを目にします。
どれも耳(目)に触れたときに跡を残す「残響(像)感」のようなものがあります。
これこそ、衛星とカラテアの大きな特徴なのかもしれません。
新曲 「ツヨク」
カラテアメンバーからファンに向けたメッセージ・決意表明がこの曲には込められているそうです。
雑踏を抜けるように春瀬ももさんが歌いだすところは、春瀬さんの少し幼い声質もあって思春期っぽい印象です。
曲名通り動きは力強く、拳を作ってアッパーしたり直接的な振り付けが目立ちました。
重低音の鳴らされるタイミングと動きが見事に合うところからは目がはなせませんし、アイドルには珍しく指パッチンするパートもありました。
ライブに行く理由「HelloWorld」
入場時、ファンの方からオレンジ色のサイリウムを頂きました。
光らせる曲はこの「HelloWorld」だったのですが、冒頭からではなく最初のしっとりとしたパートが終わるまでつけずに待って欲しいとのことでした。
綺麗に燃えるオレンジ色の中、サビで両手をひらひらさせてクロスさせる振り付けを真似しているとき、ハイになった感覚がしました。
スピーカーから聴こえてくる音はボリュームを増し、このご時世ですから声出しやコールなどあるはずもないのに歓声までも聴こえてくるような気すらします。
その中身にあるのはいわゆる没入感。
ライブの一員になった喜びのようなものはなかなか忘れられません。
かなりの高画質で配信ライブを観ることができるようになってもなお、憑りつかれたようにライブハウスに運ぶ理由がここにあります。
充実に溢れた表情
ここまでで本編は終わり、アンコールへと入っていきました。
アンコールではまず再度「ツヨク」を披露したあと、最後は「ヒーロー」。
「ヒーロー」で始まったライブは、「ヒーロー」で終わりました。
直前「ツヨク」のフォーメーションでは下手側にいた浜辺さんがセンターに向かって急いで移動、丁寧にソロパートを歌いあげます。
春瀬ももさんの叫ぶ煽りは、本人も自省していたようにその内容をしっかりとは聞きとれなかったのですが、内容よりもはるかに気持ちが伝わってきました。
「ヒーロー」の間奏には、人差し指を下から天に伸ばしていく振り付けがあります。
右上に伸ばしていく指の先には、どこまでも伸びていくような飛行機雲が見えました。
メンバーの穏やかな顔つきも良いです。
そういえば、この日はメンバーがフロアよりさらに上の方を見やるシーンが何度かありました。
見上げた先には、O-WEST2階の関係者席があるはずです。
観覧に来ている知り合いのアイドルなどのほうを観ているのかなと思ったのですが、どうもそれだけでなさそうで、充実感のあまり天を仰いでいたのかなと勝手に思っています。
二階席がないO-nestだったらもしかしたらここまでの表情を見ることが出来ていたかどうか。
「O-WESTに見合うグループになります!」
この日のMCでは1stアルバムのリリースを発表しました。
配信限定ではなくしっかりとCDとして形に残るもののようで、じきにリリイベなども始まるのでしょう。
ワンマンライブ開催とアルバムのリリースは、去年の衛星とカラテアチームが掲げていた目標でした。
目標がこんなにも早く叶ってしまい、心底嬉しそうなメンバーの見つめる先には、今回のようなアクシデント的な会場変更ではなく初めからo-westあるいはそれ以上の会場でのライブが組まれている未来なのでしょう。
◆セットリスト
M01. ヒーロー
M02.アスター
M03. Daydream
M04.スタートライン
M05.image
M06.ツヨク
M07.シナリオ
M08.HelloWorld
En01.ツヨク
En02.ヒーロー