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極私的ビートルズ・1969

THE BEATLES 「GET BACK」を観た。
1969年の1月に行われた、スタジオセッション、そしてApple社屋上でのゲリラライブまでの記録である。
なぜ極私的と銘打ったのかといえば、それはずばり、俺がまさにこの1969年1月に産まれたからである。
そもそもこのセッションの模様は映画「LET IT BE」として、当時高校1年生15歳の俺の家にはこの映画のレーザーディスクがあり、それを繰り返し観ていた。エレキギターを手にしたばかりの俺の家には、学校帰りに毎日友達が寄り、この映画を観て、録画したベストヒットUSAを観て、ギターを弾いて、こっそり煙草吸って…。
当時観たこの映画の印象といえば、

ポールって、偉そうだよな…
ジョンって、いつもマイペースだよな…
ジョージって、なんだか気弱そうだよな…
リンゴって、いつもおどけてるよな…

そして今回、この「GET BACK」での4人はと言えば、この印象はそう間違ってもいない。ただ今回は、この4人の関係性が圧倒的に色濃くフィルムに収められている。
470分!に及ぶこのドキュメンタリー。4人の一挙手一投足、もう全てから目が離せない。まず、時折差し込まれるカレンダーに、極私的感情を一気に揺さぶられる。

そう、まさにこのカレンダーの1969年1月26日、俺がこの世に生を受けた日なのだ。だから、このドキュメンタリー、俺が生まれる日までのカウントダウンとしても観れてしまう。だから極私的。
皆さんは、自分が生まれた日の映像を見たことありますか?
自分が生まれた日の映像が残っている、というだけで感動なのに、それが俺の愛するビートルズの映像として残っているとは、もう、神様ありがとう!て感じです。

1969年1月26日、ビートルズは何をしたのか。
この日は日曜日。それは、母から聞いていた。俺の生まれた日は何曜日だったの?と昔聞いた覚えがある。

まず、リンゴがピアノを弾きながら、「Octopus Garden」をジョージと共に練っている。そこへ上機嫌なジョンが登場。そして、ポールはリンダと娘ヘザーを連れて現れる。スタジオは一気に和む。この日は日曜日。家庭的な雰囲気がスタジオにあふれる。4人の表情は、このセッションを通して一番ピースフルで、幸せそうに映る。
ジョンがFenderの6弦ベースを弾き、「Blue Suede Shoes」「Shake,Rattle and Roll」とロックンロールナンバーをセッション。
その流れで「Dig It」セッション、ビリー・プレストンが大活躍(彼の存在はでかい)そして「Let It Be」のアレンジを詰める。
それから「The Long And Winding Road」を録る。
そうか、この曲のベースはジョンの6弦ベースだったんだ。ポールがジョンに言う。「君のベースは、音数が少し多すぎる」ちょっと、凹むジョンが可愛い。
結局この日は「The Long And Winding Road」のOKテイクが録れて、狭いミキシングルームに皆が集まり、プレイバックし何とも満足そうな4人。
そうしてこの幸せな日曜日は終わる。

この日の録音テイクは、アルバム『LET IT BE』に収録され、そして俺はいつでも、俺が生まれたその日の音を、空気を、感じることが出来る。

こんな調子で、8時間一気に観てしまったわけだが、中学生時代、寝ても覚めてもビートルズ、高校受験目前だというのに、雑誌のPlayerの1984年1月号を買って(忘れもしない表紙はボーイ・ジョージ)、売りますコーナーでEpiphone CASINOナチュラル(屋上ライブでジョンが弾いてるギター)3万円で売りますっていうのを見つけて、速攻買います!と往復ハガキ(!)を出して、ドキドキしながら返信を待ち、「売れました」と一言だけ書かれた返信ハガキが届き...。まあ、勉強どころじゃないわけです。
そしてこれまで、何十本とギターと巡り会い、無くしたり、友達にあげたり、盗まれたり、売ったりしたわけだが、このCasinoナチュラルだけはまだ手にしていない。
いつまでも永遠の夢のギターで終わるのか?
いや、絶対にいつか手に入れるでしょう。このドキュメンタリーを観て、それは確信した。ジョンが弾くCASINOはやっぱり最高だ。嗚呼、夢見るCASINO!

最後に一つ、このドキュメンタリーで一番印象に残ったシーンがある。
リンゴがスタッフからライブ撮影に関する話を聞かされている。その脇ではポールがピアノに向かって、作曲中で未完成の「The Long And Winding Road」を弾いている。仕事の話でうんざりしているだろうリンゴが一言。

「それより、彼を見ていたい」
「聴き惚れる」

永遠の名曲誕生の瞬間と、それを感じ取ったリンゴの笑顔...。

ありがとうビートルズ。この4人がいたから今の俺がある。





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