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医療現場 業務改善への第一歩

■はじめに

 現在、2020年5月初旬ですが、医療現場は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対応と感染対策に混乱を極めている状況です。そんな中、4月23日のわたくしの嘆きのツイート

が河野太郎防衛大臣の目に留まったことから、急に医療現場の非効率な業務にメスが入りました。いろいろ聞かれることも多いので、その一連の流れについてnoteにまとめましたのでご一読頂ければ幸いです。

■自己紹介

 わたくしは神奈川県の3次救急病院、そして感染症指定病院でもある総合病院で呼吸器内科医として勤務しています。医師16年目になります。呼吸器内科として肺癌、COPDや喘息などの気道疾患、肺炎や肺結核などの感染性疾患を主に診療しています。

 日常診療の傍らで医療情報発信にも興味があり、5年前から肺癌の論文を紹介するブログ『肺癌勉強会』、1年前からは呼吸器学会での発表内容の情報共有を目的としてTwitter(@cutetanaka)を開始し、現在も正しい情報で非医療職でも分かりやすいツイートを心掛けています。また最近はInstagramでの医療情報発信も始めました。先日、Twitterフォロワー数が10000人を超えて多くの方々に支えられながら継続できています。

■医療現場の実情

〇新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応

 2020年2月にダイヤモンドプリンセス号が大黒ふ頭に着岸してから、神奈川をはじめ関東近辺の病院は未知の感染症対策で右往左往しました。その後、各地で小さなクラスターが発生し、瞬く間に全国へ新型コロナウイルス感染症が拡大したのはこの2-3カ月のお話です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の臨床像が分からない、検査の精度が低く感染経路も不確定なところが多い、治療法がなくワクチンもない、感染防護具に数限りがある、などの要素から多くの医療機関で混乱を極めていたのではと推測します。

〇『新型コロナウイルス発生届』(写真1)

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は「指定感染症」扱いとなっており、結核菌の発生届と同じような保健所のやり取りを書類作成+FAX+電話確認で行っています。

コロナ発生届

[写真1:新型コロナウイルス感染症 発生届]

 ①上記紙伝票(PDFやWORDでの入力もあるかと思いますが)に記載。当院では手書き。
 ②保健所にFAX(取り急ぎの連絡)
 ③電話での確認(取り急ぎの連絡とFAXの確認)

の3段階を医療現場で行っています。

 病院では書いた『発生届』をPDFで電子カルテに取り込み、保健所ではFAXで送られてきた『発生届』を担当者が読んで、また別媒体に打ち込んで取りまとめているはずです。

〇『新型コロナウイルスPCR検査依頼書』

コロナPCR依頼書

[写真2:新型コロナウイルスPCR検査依頼書]

 世間を騒がせている新型コロナウイルスのPCR検査ですが、この検査に関しましても
 ①病院→保健所に検査を行う旨、電話連絡。
 ②紙伝票(写真2、4枚綴り)+実際の検体(痰あるいは鼻腔拭い液が多い)を検査機関に一緒に送る。
 ③結果は電話で病院にかかってくる。後日、伝票に「陽性」や「陰性」ハンコ(写真3)が押されてまとめて病院へ送られてくる。だいたい1カ月前後にドサッと‥。

コロナ検査結果

[写真3:新型コロナウイルスPCR検査結果]

〇その他にも‥

 呼吸器内科領域でも「結核」などの感染症の報告、「じん肺」や特定疾患の「特発性肺線維症」など、「慢性呼吸不全」の身体障害者の書類などが全て紙伝票で保健所や役所とやり取りが行われております。
 他の診療科でも報告義務のある感染症、難病、特定疾患の書類のほとんど、保険の書類や処方箋などほとんどが紙伝票です。

 現在2020年という時代において、COVID-19診療で医療現場が疲弊している中、しかも接触感染が感染拡大のリスクであることが言われている感染症診療においてこのような書類でのやり取りは不適切であると考えています。

■河野太郎防衛大臣/平将明内閣府副大臣からのアプローチ

 おそらくこちらのアカウント(@vinsatoo)さんが河野太郎防衛大臣(@konotarogomame)にリプライしてくれたことで、わたくしのツイートが大臣の目に留まりました。

  河野外相からパスを受けた平将明内閣府副大臣(@TAIRAMASAAKI)からの回答

 わたくしはすかさず平副大臣に返信しました。この辺りから‥わたくしのスマホを打つ手は(驚きと感動で)震えて普通に文字が打てなくなっておりました。

すると平副大臣から「対応します」リツイートをすぐに頂きました。

 わたくしは一晩寝ずに現在の医療現場を思い起こし、現状とそこから考えられる問題点、わたくしなりの対策を短くまとめ、翌朝に平副大臣に送らせて頂きました。詳細はここでは示せませんが、COVID-19に対応する医療現場の現状と非効率な紙運用の書類などなどについては具体的にお伝えさせて頂きました。

  わたくしの意見は4月24日午後の内閣官房長官会見で菅官房長官が触れられておりましたので、副大臣とのやり取りが実際に内閣に届いていることを認識してさらに震え上がりました。

  4月29日の平副大臣がご出演されたテレビ番組『深層NEWS』内でも、わたくしと副大臣のやり取りが短い時間で取り上げられており、さらに返信も頂きました。

  医療現場の負担軽減のほか、保健所のことも考えられた改革であるとのこと。

■4月30日 副大臣から『ミッション完了!』

  4月30日23時20分、当直で病院にて絶賛仕事中でしたが平副大臣から本件につき回答頂きました。何十年も変わらなかった制度を変える、医療界では一大プロジェクトと思っておりましたが、仕事が、は‥はやい。

厚生労働省のホームページにその詳細が載っております。

  ①発生届を電子的に行うことが可能!

  ②患者の健康フォローにアプリ活用可!

  ③患者の居所や重症度などの関係者間での共有!

  ④都道府県や国との即時に必要な統計情報の共有!

  ⑤迅速な情報把握を基にデータ分析が充実!

との力強いメッセージが入った通達でした。

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[写真4 新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム]

  そして内容を見ていくと圧巻で驚きなのは、この新型コロナ管理支援システムの稼働スケジュール‥。[写真5]

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[写真5 システムの稼働スケジュール]

  ▶︎5/10の週〜一部で先行利用

  ▶︎5/17 の週〜全国利用

‥。発表された時点から2〜3週間‥。スピード感が半端ない‥。何度も言うように、何十年も変わらなかった医療現場での非効率な慣習だったのですが‥。神戸大の岩田健太郎教授も『今までなんだったんだ‥』と仰られています。

■各方面から

  Twitter上では多くの先生方からコメントを頂戴しましたので、いくつかご紹介します。このツイートがきっかけで数年前のネーベンからも連絡があり‥。

■『令和の医療』 医療現場の業務効率化

  この業務効率化システムが稼働すると

 -入力ミス/転記ミス/聞き取りミスなどのヒューマンエラー防止
 -確認作業が不要/時間短縮
 -業務中の電話/FAXでの時間的ロスを改善
 -紙伝票が削減され経費や保管場所の問題改善
 -病院と行政で即座にデータ共有
 -デジタルデータの集積からビッグデータの構築

 などの多くのメリットがあるかと思います。しかしながら、手書きカルテや紙伝票で運用している病院や診療所はまだまだ多いですし、病院間で電子カルテシステムも異なるため、統一化は様々な意見があるものと考えます。
 行政側のシステムの整備にも時間はかかることは想定されますので、しばらくは紙ベースとデジタルデータの併用は致し方ないものと考えます。また紙媒体からデジタルデータに移行する際には、医療現場や役所での一時的な混乱も考えられますが、今後のことを考えるとこの機会に少しずつダイナミックに『令和の医療』に変えていく必要があります。

  この未来ある新しい効率化されたシステムにより、医師の膨大な時間外業務の改善と、空いた時間を他の生産性のある業務や家族との時間に充てられるかと思います。一つのツイートからこのような革命が起きたことはまさに「奇跡」であると思ってやみません。

■謝辞

  「この度は迅速な対応と、医療現場での情報共有や事務作業の効率化、負担軽減にまでご配慮頂き感謝申し上げます。本件を契機に国や自治体、医療機関での様々なIT化が進み、世界に先駆けた医療情報収集や発信できる未来が見えてきました。」

  このたびはお忙しい中、現場の声をいち早く拾って頂き、河野太郎防衛大臣と平将明内閣府副大臣、そして今回の医療現場の効率化に尽力頂いた内閣官房、厚生労働省の関係者の方々には感謝申し上げます。医療現場で働く者の代表として心より御礼申し上げます。

  今後もわたくしに何か協力できることがあればお声掛け頂ければ迅速に対応致します。

■まとめ『奇跡のパス回し』


サポートありがとうございます。頂戴したサポートは医療情報の検索、情報発信費用、勉強代に100%使用します。心から感謝申し上げます!