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文化服装学院 「ドレスの発想」no3 ファッション工科専攻科 伴真由子の場合。

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わたしは短大を卒業して数十年後、文化服装学院に入学した。服が好き、書くことが好き、ライターになりたい、という願望を形にするためだ。学生生活の集大成とも言える卒業制作としてフリーペーパー「Dressの発想」を作った。以下その内容を転載したものだ。

2007年 02月 28日付「Dressの発想」より。

文化服装学院 ファッション工科専攻科 伴 真由子の場合
制作期間 2006.7.1~7.31  

「ただの日常生活」
日常をドレスにする
 

伴真由子は、日常の風景を大切にするクリエーターだ。

彼女にとって日々の暮らしと創作活動は切っても切り離せない。このドレスは、スイスのジュネーブで開催された「2006年 ジュネーブ・デザイン大学×文化服装学院ファッションショー」に出品された作品だ。

スイス政府が出したコンセプトは「レッドカーペット」。この言葉を聞いてもあまりぴんとこなかった真由子は、まず、「きれいな服を作ろうと思った。」と言う。

そして、自身から見た日常生活で見過ごされた「くだらなさ」の中に埋もれた美しさを表現したいと思った。

彼女のいう「くだらなさ」とは普通の人なら視界に入ってはいても「見てはいない」日常の風景のことだ。真由子はがたん、ごとんと、どこか懐かしい揺れを感じさせながら走るオレンジ色の中央線の車両が好きだ。乗っている時の風景が好きなのだと言う。

さらに「珈琲時光」という台湾出身のホウ・シャオシェンという映画監督が小津安次郎へのオマージュとして製作した映画がある。この映画の中の中央線沿線風景とどこか青緑がかった映像のイメージも彼女の琴線に触れた。

これらをヒントに、真由子は、沿線の駅をカメラ片手に訪ねることから、彼女の服作りは始まった。東京駅、新宿駅と訪ね、理想の風景を求めて歩いた。

最終的に御茶ノ水駅前の聖橋から電車が走るところを見た時、ここだと閃いたそうだ。そして橋の歩道の、ある場所を基点に彼女が360度回転しながら、写真を撮っていった。

それらの写真をプリントアウトしたものをつなげて、ちゃんと景色がつながっているかどうか確認した。その作業の後、写真をスキャナーでパソコンに取り込み、フォトショップと言う写真加工用のソフトで、レンズが見た風景ではなく、その瞬間に自分が見た風景を再現することに取りかかる。

つまり、走っていて写っていなかった車もパソコン上で再現し、「真由子の見た風景」をシルクジョーゼットの布にデジタルプリントし、パターンを載せて、裁断していった。

そんな緻密な作業の末、出来た360度の御茶ノ水駅風景を最大限生かすためケープの様な形をデザインしていた。そうすることによって腕を広げた時、プリントが生き、真由子の意図したその時見た情景が再現できるのだ。このドレスはケープ様のトップとベアトップのワンピースの組み合わせになっている。

ワンピースはなるべくシンプルに作ったそうだ。ただ、布一枚だと動きが少なくなると感じ、上がシルクシフォン、下が木綿の2重仕立てにした。

ポイントは、裾の色。映画のイメージと制作中に目に入ってきた自宅アパートの真新しい畳の色をヒントに、布を彼女だけの「青緑」に、台所の鍋で染めた。この色を作品に取り入れてはじめて彼女の日常の風景がドレスとして完成したのだ。

文字、文字、文字・・・そして夢

彼女のアパートに案内された時、汚れた皿が積み上げられた流し、ところ狭しと置かれた日用品、床が見えないくらいモノに占拠された部屋がそこにはあった。

まさに日常だ。そして文字、文字、文字の羅列。「甘えるな、戦え!」「布は味方だ。」「私は出来る」など、自らを励ますための言葉が部屋中を彩る。

さらに嬉しかった出来事、言葉がやはり交通標語のように掲げてある。瞳をきらきらさせながら、「文字に励まされる、文字によって自分を暗示にかける」と語った。

幼い頃から、母親がミシンで幼稚園のバックを縫っているのを見ていて、ミシンに興味を持ったのが、伴 真由子の服作りの原点だ。

以来、高校は家政科を専攻し、服を作ることが彼女のライフワークとなる。好きなデザイナーは特にいない、こういう服が作りたいという目標があるわけではなく、「デザイナーである前に一人の人間として楽しく生きていきたい、

その延長線上に服作りがある、そしてその時その時、自分の感じたものを服にせずにはいられない」のだと語った。さらに「第3者がわたしの服を見た時に『おおっ!』と驚かせたい。」と・・・。


取材を終えて

ファッション工科の学生を取材したいと思っていたわたしのところに、「すごい人がいる」と教えてくれた同級生がいた。聞けば彼女の友達とのこと。さっそく次ぎの日、3人で学校の食堂でお昼ご飯を食べながら、打ちあわせをすることにした。

取材されたいドレスがあるかどうか聞いたわたしに、いきなり真由子は切り出した。「中央線のオレンジの電車が、なくなるの。ステンレスの銀色の車両になるの。どうして~って?」これが今回のドレスに関する最初の真由子のコメントである。

彼女は熱い信念の人。そして日常生活密着型のデザイナーである。挑むように、でも優しく思いやりに満ちた話し方を真由子はする。

洋服への情熱を真摯に語る彼女は、おしつけがましさの全くない、不思議な雰囲気をもっている。かなり長時間、伴真由子の服作りのスタイル、思いを聞いたが、取材を終えたあとわたしはあまり疲れていないことに気がついた。

話を聞いていると同時にわたしは、彼女と「会話」を楽しんでいた。真由子は自分の事を話す場でも相手に興味を持ち、一生懸命写真の構図を取るわたしを興味深く見つめ、関心をもってくれた。

これが彼女から感じる暖かさの原因なのだと思った。そんな彼女の人間性に根ざした服作りはわたしにとってはじめて出会った哲学を感じる服だった。

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