2010年6月日記/彼女はイチゴ味のかき氷とともに。
*2010年06月、旧ブログに公開したものをnoteに移動した。
その日は、とても暑かった。
高校生のわたしは、仏間で、カップに入ったイチゴ味のかき氷を食べていた。おばあちゃん、お母さん、おばさん、従姉妹も、スプーンで かき出しては口に運んでいた。
そうやって束の間の涼をとりながら、布団に臥していた ひいおばあちゃんを見舞っていたのだ。もう、そんなに長くは生きられない状態だった。
すると意識だけは、はっきりしていた、ひいおばあちゃんが、
「ガリガリ、音がする…」
と、やっと聞き取れるくらいの、ささやき声で抗議した。
「ガリガリ……、うるさいってかい?」
と、おばあちゃんが、 やさしい笑顔で、
「ふーっ、ふーっ」
と、肩で息をしていたひいおばあちゃんの顔を 覗き込んだ。
つられて、わたしたちもカキ氷を片手に、彼女の様子をうかがった。
次の瞬間、呼吸が静かに止まった。
おばあちゃんが、
「おばあちゃん?おばあちゃん?」
と、悲鳴に近い声を上げて、彼女の肩を揺すった。
ひいおばあちゃんは胃癌だった。 田舎町だったので入院設備が整った病院もなく、かかりつけのお医者さんが 診療にきてくれていた。
少しづつ、少しづつ、病は、彼女の体を衰えさせた。
でも、最後はとてもおだやかで、カキ氷の涼やかな気配に包まれていた。
なぜか、ふっと思い出した、そして書き留めたくなった。