アメリカーノ
アメリカーノ
※作中で怖い表現がありますが、そういうのが苦手な方は回れ右してください。
梅雨で雨がザーザー降る中、場末のBAR MITSUでは、音ちゃん先生が、ショパンの革命のエチュードを弾いていた。
「んー、んー、何だか髭がビリビリするにゃん」
出窓からそんなにを荒れた天気を不穏そうに眺めていたねねが、そう呟いていると、
「どうしたの?ねね?」と聞き返すみつ
「なんかさー、嫌ーな予感すんのよねー?」
「気のせいだと良いんだけどねー」
2人がそう話していると、
チリンチリン♪
2人の若い夫婦がやってきた。
2人はとても仲睦まじく、見ていて羨ましいなぁとみつは思った。
「何に致しましょうか?」
みつが注文を取ろうとしたその時・・・
バターン!!
カッターを手にしていきり立った女が押し入ってきた!!そして、
「オマエらのせいで、あたしはこんなに傷ついたんだー!!」と叫んだ。そして、自らの喉元にカッターを突き立てようとしたその時・・・、
ガッ!!
「おいおい・・・物騒なもんは離しなよ」
ピアノを途中でやめた音ちゃんが、カッターを持っている女の手首を握り、逆の手で彼女の手をこじ開けて、カッターを取り出し、安全な場所に置いた。
「うあああああ〜!!!」
絶叫し泣き崩れる女。
「・・・何があったのさ?」不穏がるねねに、妻は、
「いや、私達は何も・・・」そういう妻に女は
「何も無いわけじゃない!!
ユリ!!あんたあたしが好きなナオ君と両想いになるように応援していたはずなのに、こともあろうか奪った上に、ナオ君と再婚したじゃない!!」
「ナオ君!!あんた、私があなたを好きなの知ってて、でも、ユリを選んだ時、私があなたを諦めかけた時、あなたに、どういう風に気を付けたらこれから先、私いい恋愛できるかな?って聞いたらあんた、俺、あんたのこと最初っから気にかけてなんかいなかったしって言ったわね!?それで堪忍袋の緒が切れたのよ!!」
フーフーと息を荒げて怒鳴る女。
「にゃによ、三角関係の失恋ごときでそんにゃカッカしにゃくても」ねねが軽くたしなめると、
「あたしは、2人のことが大好きだったのよ!!なのに裏切られたから許せないのよ!!」怒りが冷めない女。
「あー、それもあったのか?
だからといって、なにも、刃物持って、自分傷つけても誰も幸せになんかならないし、傷つけたら一生消えやしねぇぜ?
それに、オマエ、自死したやつが死んだらどうなるか分かるか?」音ちゃんは言う。
「まずは、閻魔様の審判が下って地獄行きだわな。
次に何も見えない、何も聞こえない所に放り投げられて、1年を過ごす。
その後は・・・ひたすら自分の死んだ方法を何回も繰り返すそうだぜ。
アタイが地獄に行った訳ではないから、なんとも言えないけど、人から聞いた話さね。
そんなとこ行きたくないだろ?」
「ええ・・・まぁ」やっと冷静さを取り戻したかのような女。
「それにしたって、にゃんでアンタ、オトコを奪ったのさ?そんな風には見えないけど」
「アキ先輩・・・彼女は高校の部活の先輩なんですが、うちのお店に来てくれていて、ナオ君のこと、好きなのは知ってたんです。
でも、常連客のナオ君からアドレスもらって・・・最初は乗り気ではなかったのですが、アキ先輩がナオ君を見つめる視線や、ときめきが私にも届いて、ナオ君を好きになりました」ユキがそういうと、音ちゃんは呆れ顔で
「アンタ、自分ってもんが無いのかい?」と言った。
「オトコ、アンタは?」音ちゃんが続いてナオに問いかけると、
「いや、別に・・・俺はユリのことを好きになったんだし、俺には、喋らなくても相手の心が分かるんですどんな風に自分を思ってるか。ユリが自分を大事に思ったから結婚したんです。」
「はぁ?おめぇよぉ、偉そうなこと言ってっけど、言葉と言葉で魂のぶつかり合いしなきゃわかり合わねぇし、アキだってこんなに苦しまなかったはずだぜ!?」
「俺は、ちゃんと話し合ったはずですよ?」とナオが言うとすかさず
「話し合ったけど、ゲーセンでうるさい中で話し合ったから話がわからなかったけどね」とアキ。
「オマエは馬鹿か!!話し合いは静かなところでするもんだ!!」とナオに音ちゃんが言う
「まぁ、オトコはコイツばかりじゃないにゃん。
アキにゃんを心から愛してくれる新しい彼氏でも見つけてエンジョイするにゃ」とねね。
「うーん、興奮しててまだそんなことを考える余裕はないですが、おいおいそうします」とアキ
「それじゃー、なにか飲もーぜ!みつ!頼むな!」
「音ちゃん了解です!」
材料…スイートベルモット…30㎖
カンパリ…30㎖
ソーダ水…適量
レモンピール
作り方…氷を入れたグラスにスイートベルモットとカンパリを注ぎ、冷えたソーダで満たして軽くステアし、レモンピールを絞りかけると…
アメリカーノ7度中口の出来上がり。
カンパリのほろ苦さとスイートベルモット甘さが程よくマッチして味が口いっぱいに広がる。
アメリカーノの言葉は、届かぬ思い。
「アキ、今度はいい恋愛するにゃんよ!」