バレンシア

番外編⑤ バレンシア

100余本のケヤキが綺麗にライトアップされている頃、場末のBAR M&Nでは…。

「ジングルベール、ジングルベール、鈴がにゃるー♪」
と、看板猫のねねがピアニスト音ちゃんのピアノ伴奏に、ご機嫌でぴょこぴょこ踊りながら歌っていた。

バーテンダーのみつはというと…。
吸いもしないタバコの箱を机の上で指でくるくる弄びながらボーっとしていた。
その視線の先には…。

再びモッキンバードを飲みに来たシンペイがアーモンドをつまみ、ユウナに

「ユウナちゃん、あ~ん❤美味しい?」と微笑むシンペイに

「うん、美味しいよぉ~❤シンペイ、カシューナッツ食べる?」柔らかな笑みをたたえながらユウナは、カシューナッツをつまみ、

「もちろん!ユウナちゃんからもらったものなら何でも食べるよぉ!!❤×∞」デレデレと締まりのない顔のシンペイ。

二人とも、前回来店したときにねねから指摘されたことを守ったようで、装いも新たに、心機一転お互いに惹かれあったようだ。

音ちゃんがシンペイ、ユウナのバカップル2人に、

「見せつけてくれるねぇ!!」それを見たねねも、

「熱くてたまらんにゃ!!」と冷やかしていた。
そこへ、チリンチリン♪テンマが来店した。

「お?みっちゃん!!それ、パーラメントロングだよね、9mgの!!
どうしたの?タバコ吸わなかったよねぇ?
え?僕?たしなむ程度は吸うかな?
でも、それはくせが強いから吸わないな。」

相変わらずのテンマの一方的な弾丸トーク。
そんな話をよそにまたボ-っとしているみつ。

そこへ…チリンチリン♪

エミとマリが来た。
「こんばんはぁ~、さっきぃ~、このオバさんとぉ~、一緒になってぇ~、BAR M&Nに行くって言ったらぁ~、なんかぁ~、このオバさんもぉ~行くってぇ~言っててぇ~。」

「オバさんとは何ですっ!この子はっ!!
着物を着ているだけでオバさんとは失礼よっ!!それに、私、あなたとはそんなに年齢は違わないですわよっ!」

相変わらずマイペースなエミちゃんと棘のある美しさのマリさん。

「ま~ま~、お若い子も、素敵な着物美人さんもこちらへどうぞ、僕と一緒に飲みませんか!?」

テンマが二人を小脇に抱えると同時に…。
エミとマリの
バチーン!!×2

「どうしてぇ…?」
と両頬に手を添えながらその場にくずれるテンマ。

「あら?あなた、気が合いますわね?」とマリが言うと、

「どうしてかしらぁ~?」と不思議顔のエミ。

「ま、良いですわ、みつさん、ジェームスボンド・マティーニ下さいませんか?」とマリが言うと

「私はぁ…ソルティドッグ!!」とエミも。

「かしこまりました。」

まだボーっとしながらカクテルを作るみつ

「エミちゃん、ジェームスボンド・マティーニです。
マリさん、ソルティードッグです。」

「あら?逆ですわよ?」

「どうしたのぉ~?みつさんったらぁ~??」

「このタバコ…もしかして、アイツのことを想ってるにゃね?」とねね。

「アイツ??」

そう、みつにはかつて婚約までした恋人、イサミがいた。
以前は、結婚という言葉に浮足立ち、仕事に身が入らなかったみつだったが、その後イサミに振られて、仲のいい友達に落ち着いてからは、普段通り仕事ができるようになったが…、

数か月前イサミが遠洋漁業の休みにBAR M&Nに来て、最近どうや?客は来てるか?儲かってるか?など聞きに来てからは、またイサミに会える時までタバコを買って持っていようとして、このありさまである。

はぁっ…。とため息をついては、考え事をしているのか、ボーっとするみつ。

「こりゃあ重傷にゃんね。こうなったらアタシの出番にゃんね。」みつのことなら何でも知っているねねは、

ねねは、みつに擦り寄り、ゴロゴロ…と喉を鳴らす。
みつは、ねねの身体をキュッと抱き寄せ、ねねの匂いを嗅ぐ。
お日様の匂いに、みつはホッとし、ねねを撫でまわす。

みつが一言ぽそりと言った。

「…逢いたい…。」

そう、それがみつの本音。

みつの目から、つーっと自然に涙が出る。

いつも強気でサバサバしているみつとは思えないありさまに、周りは動揺している。

そこへ…チリンチリン♪

「Merry Xmas!!」

パァン!!クラッカーの音とともにサンタさんに扮したハクトおじ様と…

そこには何とイサミまでいるではないか!!

ダーッ!!イサミになりふり構わず駆け寄るみつ。

「会いたかったよう!!たった数ヶ月でも長かったよぉう!!」

「??俺は大した会いたくなかったけどなぁ?」おどけたようにイサミ

「アンタら結婚しちまったらいいのに!!」と音ちゃん。

「おおっと!私はお邪魔虫でしたかな?とほのめかすハクトおじ様。」

はっ!!と我に返ったみつが、真っ赤な顔をして
「あっ…。そんなことないですよ…。」と。

「何だみつ…、そんなんじゃだめじゃないか、ほら、みつの大好きなケーキ屋さんのケーキ、あの店、お洒落で入るのに勇気がいったんだぞ!
ねね…ほら、猫と人間が一緒に食べられるケーキだぞ!」

「ありがとう!!だからイサミちゃん大好き!!」くしゃっとつぶしたような顔で笑ったみつと

「ありがとにゃん!!イサミにゃん優しいにゃ!!」ぴょんぴょんその場で飛び跳ねて喜ぶねね。

「さぁさぁ、今宵は盛大にクリスマスパーティーをいたしましょうぞ!!」

そう言うと恰幅なハクトおじ様は、トランペットを吹き、楽しいXmasソングを奏でた!!

気を取り戻したみつは、カクテルを作り始めた。

材料…アプリコット・ブランデー…40㎖
   オレンジジュース…20㎖
   オレンジ・ビターズ4dashes

作り方…材料をシェイカーに入れシェイクして、カクテル・グラスに注ぐ。

バレンシア14度甘口の出来上がり。

「どうぞ。」

アプリコットブランデーとオレンジジュースが見事に調和してジューシーな味わい。

バレンシアの言葉はお気に入り。

イサミはみつのお気に入り、BAR M&Nにいらっしゃるお客様方ももちろんお気に入り!!これからもBAR M&Nをよろしくお願いいたします!!

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