ジンフィズ

ジンフィズ

夏の気配が現れ始める立夏、場末のBAR M&Nでは…

みつは、蒼穹の彼方に弧を描く飛行機雲をただ何となくぼーっと見つめていて、どこからどこに飛んでいくのだろうと考えていた。

ねねはというと、
「うってつけな日向ぼっこの日にゃんね」
と、観葉植物の飾ってある出窓で丁寧に毛づくろいをしていた。

チリンチリン♪

誰か、来店したようだ。

「こんにちは~、はぁ~。」

とても若いのに、何となく元気のなさそうな男性サトシが大きくため息を漏らしながらやって来た。

「はぁ~、何でかやる気が出ない…。」

「どうしたにゃ?」ねねが問うと

「僕は、サトシと言います。機械いじりが大好きで、車の大手会社のディーラーに、整備員として勤め始めたのですが、この間、ゴールデンウィーク開けから何となく調子がおかしくて…。」

「オイル交換中に液を沢山こぼしたり、バッテリー交換中に繋ぐコードを間違えて、ヒューズが飛んだりを起こしたり…の連発で、上司から注意されまくって凹んで、会社の皆に申し訳ないそれだけじゃない、お客様にだってお店の信頼を失うことをしてしまった、僕ってあの仕事自分に合ってないのかなぁ?って…。」それをきいたねねは、

「新人にゃもの、誰だってミスはあるにゃ。そうやって仕事を覚えるものにゃ。
みつだって、バーテンダーになりたての頃は、カクテルに入れる材料を間違えて、ミラクルな味のカクテルを作ってばかりいたにゃ。」と言った。さらに、

「オリジナルカクテルと称して、ウォッカにラムを入れて、レモンジュースと何故か牛乳を入れてそれをシェイクしてみたり…。それを飲んだお客様は、何とも言えない表情で、飲めるか!こんなもん!!って怒っていったにゃん。」それを聞いてまずいと思ったみつは、

「あっ…ねね、それは企業秘密で…。」と焦った表情を見せた。

「にゃから、みつは、この通り、うわの空でボーっとしてるから、たまにねね様が喝を入れてやるにゃ!ボーっとしてんにゃよ!!ってにゃ!!」

「いや…別にただボーっとしてるんじゃなくて、考え事をしているだけだし…。
今夜は、どんなお客様がいらっしゃって、どんなカクテルをお出ししようかと思ってるだけだよ…。」

「常にお客様のことをお考えになっていらっしゃるんですね!!」

「そうねぇ、お客様の喜ぶ顔が私の元気の素だからねー。」

「そうですか!!それは僕も同じです!!お客様からお預かりしたお車を丁寧に整備して、また安心安全に楽しくドライブして頂きたいですからね!!」

「おおっ!!その調子にゃんよ!!
サトシ君はできる人にゃんから大丈夫にゃんよ!」

「みつさん、ねね様、ありがとうございます!!」ぱあっと明るい表情になったサトシ。

「うちの車、調子悪くなったり、車検の時は、サトシ君の会社でお願いしようかな?」とみつが言えば、サトシは

「はい!よろしくお願いします!!」と元気に返事をした。

「その代わり、ちょっとまけるにゃんよ?」

「それは…勉強させていただきます!!」

「じゃあ、カクテルを準備するね!」

材料…ドライ・ジン…45㎖
   レモンジュース…20㎖
   シュガーシロップ…1~2tsp
   ソーダ…適量
   カットレモン、マラスキーノチェリー

ドライ・ジンとレモンジュース、シュガーシロップをシェイカーでシェイクして、氷を入れたグラスに注ぎ、冷えたソーダで満たして軽くステアする。好みでカットしたレモンとマラスキーノチェリーを飾って…。

ジンフィズ28度中口の出来上がり。
レモンの酸味がジンを引き立て、シンプルながら飲みやすい。

「どうぞ。」

「ごくっ…さっぱりして美味しい!!」

ジンフィズの言葉は、あるがままに。

そのままのあなたでいいんだよ…。

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