スクリュードライバー

スクリュードライバー

ここは、場末のBAR M&N

寒さが厳しくなる晩冬、

みつとねね、音ちゃんがしもやけになりそうな手や肉球を、フーフーと暖かな息で温めながら開店準備をしていると…

チリンチリン♪

「やあ、早くに悪いねぇ。」

キザッたらしい、グラサンをした男が、清楚系のおっとりしたお嬢様を恋人つなぎをして連れてきた。

「何よ、早々と。まだこの街は、ねぼすけだから、あくびをしているところよ。」

お店の都合も考えないセイヤに、けげんそうに皮肉をねねが言うと、

「まぁ、良いじゃないか、時間はたっぷりあった方が良いじゃないか。」キザ男はニヤついた顔でそう口走る。

「まぁ、それもそうにゃけどぉ…。」ごもごも言うねねを尻目に、

「ねぇねぇ、セイヤさん、ここのオススメはなぁに?」清楚系の彼女は言った。

「ああ、ユキちゃん、ここのオススメはね、スクリュードライバーだよ!
マスター、よろしく!」

みつは、はて、そうだったかしら?と疑問を抱きながらも、いそいそと準備をする。
しかし、みつは急かされるのが苦手なので、落ち着いて行動していた。

ウォッカにオレンジジュースを注ぎ、ステアして切ったオレンジを飾る。

スクリュードライバー15度中口の出来上がり。

どうぞ。

「わぁー!オレンジ色で美味しそう!!」感動するユキちゃん

「飲んでみなよ!」面白半分にすすめるセイヤ
「ごくっ!オレンジジュースみたいで美味しー!!」ユキは、爽やかで甘い飲み口が気に入った様子。

「おー!!良い飲みっぷりじゃん!!もっと飲みなよ!!」更にカクテルをすすめるセイヤに

!?!?驚くみつとねね、そんなにハイペースでは…!

ごくっ、ごくっ…!

「ふーっ、あたし、お酒はそんなに飲んだことはないんだけど、これなら沢山飲めるわね…あら??目が回るわ…」

クタンとバーカウンターにつっぷすユキちゃん。
それを見て、不敵な笑みを浮かべたセイヤが…

「ユキちゃん、ここじゃ迷惑だろうから、どこか静かなところで休まない?」ぼそっとユキに耳打ちをする。

「ありがとう…セイヤさん…優しいのね…ひくっ!優しいし、カッコいいし、そういうとこ好きだわ…。」

そのユキちゃんに対する優しい言葉の裏に潜む、セイヤのどこか危険な気配に敏感に察知した者がいる!!

「ちょっと!そこのセイヤってやつ!お待ちなさい!!」

ビクン!!セイヤが振り向くと、バーカウンターの上にはハチワレの赤い蝶ネクタイをした猫が後ろ足だけで器用に立っていた!!

「純粋無垢な乙女心をもてあそぶなんて言語道断!!
愛と正義のタキシードにゃんこ!!名前はねね!!
BAR M&Nに変わってお仕置きよ!!」大きな声で名乗るねね

ねねは、セイヤとユキちゃんの間に飛び込み、セイヤ目掛けて猫パンチを繰り出した!!

カッシャーン!!吹っ飛ぶグラサン!!

「い゛っでー!!いきなり何すんだこの猫!!」セイヤは、右手でねねを振り払おうとしたが続けざまに

「問答無用!!」
顔に飛びつき、猫キック!!

「あーだだだだだだだ!!!!
ひぃー!!もぉー勘弁して!!
もうこんなことしませーん!!」
顔をかばいながら謝るセイヤに、ねねは

「分かればよろしい。」

前足をペロペロ舐め、いい仕事したにゃんとでも言いそうな顔を洗うねね。

数時間後…みつからブランケットをかけてもらって休憩室で眠っていたユキちゃんは…
気が付いたようで

「あら…あたし、どうしたのかしら?セイヤさんは??」

ぼやーっとした頭のままのユキちゃんにねねは、

「帰らせたにゃんよ、強制的にね。」

「えっ…どうして??」

「アニャタ何も分かんないのね、カクテルを飲んでいて、お酒に飲まれて、オトコに喰われそうににゃったのよ。」

「えっ!!そんなぁ…セイヤさん優しくて良い人だと思ってたのに、今日初めて会って楽しいデートをしたのに、それに、美味しいカクテルまでごちそうになったのに…そんな事をする人だったなんて…。」

「あのね、アニャタに教えとくにゃん。オトコはね、女の子を喰うためには手段を選ばないの。猫の好きなちゅるちゅるみたく甘ーく優しい言葉に騙されちゃダメ。
そして、お酒をあんにゃに早いペースで飲んじゃダメ。少しずつ、いい感じで酔って楽しくにゃるのがお酒の飲み方。
それに、急にガバガバ飲んだら、体に悪いにゃん。酒は、百薬の長とも言われるにゃんけど、病気ににゃるくらいなら、百害あって一利なしにゃんよ。分かったにゃんか?」饒舌な喋り方でユキちゃんに注意を促すねねにユキちゃんは、

「はーい、気を付けます。」と微笑み、

「素直でよろしい。」ねねは首を縦に振った。

「それじゃあ、改めてまた来ます。」踵を返してユキちゃんは去った。
チリンチリン♪

スクリュードライバーは、甘くてさっぱりしていて、飲み口がよく、次々に飲めるが、騙されないように。
女殺しと異名を持つこの代物。
酔った勢いでお持ち帰りされないように。
因みに、スクリュードライバーのカクテル言葉は、『あなたに心を奪われました』ですが、くれぐれも夢中になる相手を間違わないように!!

「ふー、ユキちゃんの方は良いにゃんけど、セイヤの方はここら辺のブラックリストに上げておかにゃいと。ここらの看板猫や、ノラ猫を仕切ってる猫大将トラさんに報告しておかにゃきゃ。」

どうやらこの街には、ねねだけではなく、看板猫がそれぞれの店にいるらしい。

さてさて、BAR M&N開店の時間が来た。

チリンチリン♪

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