ソルティドッグ
ソルティードッグ
ここは、場末のBAR M&N
花も咲き盛る芳春、
今夜は常連のピアニスト音ちゃんが来ていて、仔犬のワルツを弾いている。
薄暗い室内がパッと華やぐような明るい曲に、みつもねねもほっこりしている。
そこへいきなり…
チリンチリン♪カウベルが鳴ったと思ったら、
ダーッ!!誰かがカウンターに向かって突っ走ってくる。
「うぇぇぇーん!!!」
!?!?
大学生位の女の子、エミが、お店に泣きながら突撃してきた!!
あまりにも驚いたので…
呆気に取られたみつは、目を真ん丸にして
「どれに致しましたか?」と、どれに致しますか?と、どうしましたか?が混ざった勢いで、エミに話しかけた。
一方ねねは、驚きのあまり、体中の毛を逆立てて、尻尾をぽんぽんにしていた。
音ちゃんは、
「なんの騒ぎだ?この店はいつも、一波乱あって面白れーなー。」
と他人事のように思いながら、自分の大好きな曲、『主よ人の望みの喜びよ』をチョイスして弾いていた。
「みつさん、うぅぅ…、聞いてよぉ、ちょっとぉー。」
エミは言う。
「今日は、警察官の彼氏が非番だったからぁ、デートだったんだけどぉー、
バッチリメイク、イケイケな服を着て行ったんだけどぉー、
彼氏ったらぁー別れてくれないかって言ってきたのぉ~!!」
続けてエミは言う。
「でぇー、私の何がそんなに不満なのぉーって言ったらぁー、君に不満はない、あるとしたら僕の不手際だし、僕は警官だ、いつ呼ばれるか分からないし、いつ命を落とすか分からない。そんな男よりも、君を本当に幸せに出来る人を彼氏にしてほしい。
だってぇー!!綺麗ごとばっか並びたてて、結局、オトコって自分勝手よぉうー!!」
これ見よがしに『犬のおまわりさん』を弾く音ちゃん。
「ちょっと待ちにゃさいよ!黙って聞いてりゃ何にゃのさ!!」と、ねねがちょっと怒った口調で喋ると、
「ひっ!!猫が喋った!?」驚くエミ
「喋ったらにゃにが悪いにょさ?」ぷんすかとおかんむりなねねは、続けて言う。
「さっきから聞いてりゃにゃに様のつもりにゃんよ!?向こうはオトニャで責任のある仕事をしてんのよ!
大体ねえ、アンタみたいにゃお子ちゃまは、自分には不釣り合いって言ってるもんにゃのさ!!」
「何よ、なによぅ!まるで見てきたかのように!!私はさぁ~、彼が警察官で高収入、ルックスもそこそこ良くて、優しいとこにホレたのよ!!」と、そんなねねに負けじと言うエミ
「ええ、そうにゃんよ!猫もねえ、20年近く生きてりゃ、人間の100歳と同じ!!見てる世界が違うにょよ!!それに、アタシはメス!!引く手あまたのオスたちをはべらせてきたのよ!!そんな3高ごときにホレるな!!格が違う!!」
「わああああー!!」
ねねの言葉のストレート猫パンチが炸裂して号泣するエミ。
「…ちょっとー、言いすぎなんじゃないの?ねね」みつがねねに注意を促すと、
「これぐらいキツいお灸を据えておかにゃいと分かんにゃいのよ、この小娘は。」と一掃するねね。
「もー、仕方ないなあー、まあ、しょうがないなー。」
何も言えないみつ。
「それはそうと、カクテルをお出ししないと!」
その場を紛らわせるように、みつはカクテルの準備をしだす。
材料…ウォッカ…45㎖
グレープフルーツジュース…適量
塩…少量
レモン汁…少量
作り方…レモン汁を、グラスのふちに回し、塩を付ける。(スノースタイル)
それにウォッカを入れ、グレープフルーツジュースを味で整え、ステアする。
ソルティードッグ13度中口の出来上がり。
どうぞ。
「何これ?塩?中身は、グレープフルーツとお酒?」
エミはソルティードッグを一口飲んでみる。
「え~?意~外!しょっぱいのと酸っぱいのが合わさったら、飲み口が爽やかというか、酸っぱいのが甘く感じるのねー!?
昔、小さい頃、グレープフルーツに砂糖をかけて食べたけど、あれなんかより数倍美味しい!!」
「若い頃の酸っぱい経験にゃんてね、歳を取れば、恋も甘くて良い栄養だったにゃって思うにゃんよ!」
ねねはしみじみ言う。
「おばあにゃんありがとう!!」元気の出たエミはそう言った。
「そこは、美魔女ねね様有難うございましたでしょ!!」ウインクをしながらねねは言った。
チリンチリン♪
台風のような子、エミちゃんは過ぎ去った…。
「ねね様には頭が上がりません…。」
「にゃに言ってんの!アンタだって、いっちょ前に恋愛経験はあるでしょ!?」
「論破は出来ません…。」
頭の片隅で、この頃のBARMITSUは騒がしいので、たまにはソルティードッグのカクテル言葉のように寡黙になってほしいと思うみつであった。
チャンチャカチャーノチャッチャ♪(猫ふんじゃったの最後の部分)
そして、2人が忘れたころにピアノを弾く音ちゃんであった…。
チリンチリン♪