金融所得課税について

アベノミクスの期間には、財政ファイナンスに近い金融支援が行われてきたと考えられます。先見の明がある人々は、株式や不動産が上昇する方向性を見抜き、それをうまく活用したのでしょう。その結果、得た利益から一定の金額を国に還元することは、日銀や国の負債が語られる中で必要な行動と思います。(参考文献:山本謙三『異次元緩和の罪と罰』など)

私は、遅きに失した感はあるものの、金融所得課税を現行の20%から30%程度に引き上げるべきだと考えます。例えば、年収103万円の壁で議論のある税収減や社会保障費の裏負担などに充てる形で、税収を増やしつつ、所得の低い人に受益が多い傾斜的な対策を進めるべきでしょう。また、エッセンシャルワーカーの所得を、いわゆる「ブルシットジョブ」と呼ばれる仕事の所得水準に近づける施策も必要です。坂本貴志著、「ほんとうの日本経済」によると、特に外国人労働者の賃金は日本人より低くなっているようです。働く人の収入のバランスを調整し、不満を蓄積させないことが重要です。そうしなければ、社会の混乱を招き、日本版の「トランプ現象」が起こる可能性もあります。

昭和時代における炭鉱や国鉄の争議を振り返れば、低賃金問題が大きな要因であったことは明らかです。ここで思い起こされるのは、ジョン・ロールズの『正義論』における自尊心の重要性や、アダム・スミスの『道徳感情論』に見られる倫理観・価値観です。
ロールズの正義論では、社会制度の正当性は、各個人がその制度の下で自尊心を保てるかどうかにかかっています。公正な社会制度は、個人が自分自身の目標を追求し、社会において尊重される存在であると感じられるようにしなければならないというのがロールズの考えです。ここでの個人は、エッセンワーカーも含む全員と理解します。

齋藤純一・田中将人『ジョン・ロールズ 社会正義の探究者』のあとがきには次のような記述があります。

2021年はジョン・ロールズの生誕100周年、そして『正義論』の出版から50周年に当たる。この半世紀の間に格差は著しく拡大し、人々を隔てる溝はさらに深まりつつある。また、価値観や生き方の違いに対する不寛容は、別の仕方で社会に亀裂を走らせている。ロールズは、格差の拡大によって市民間の平等な関係が損なわれる事態、多元的な価値観が互いに排他的なものに転じることによって安定した共存が掘り崩される事態をすでに想定していた。

齋藤純一・田中将人『ジョン・ロールズ 社会正義の探究者』中公新書 2021年12月25日

先日読了した山本圭さんの『嫉妬論』も興味深いものでした。著者は次のように述べています。

「私たちが直面している嫉妬とは、成功しようが豊かになろうが関係なく、隣人の成功や幸福が気になって仕方がない、不合理で言い訳のきかない感情である」(p.184)
「嫉妬は平等と差異の絶妙なバランスの上に成り立つ感情であり、私たちのデモクラシーの条件であり帰結でもある」(p.220)

山本圭『嫉妬論』

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各人が自尊心を持ち、互いに尊重し合える社会を築くことが、今後ますます重要になると感じます。

来年1月に読書会で読む本から、追加します。
==以下引用です。==
国家を通じた再分配は、いったん自分の懐に入ったものをあらためて(不特定の)他者に渡すものであり、これは心理的に見て抵抗感をともなうものかもしれない。これに対し て、市場を通じた所得分配には、それがいかに甚大な格差をともなうとしても(経営者と 一般の被雇用者の所得格差は数百倍に及ぶ場合すらある)、さほどの抵抗感は抱かれていない。 人々の関心は、もっぱら自分と同類のカテゴリー内での水平的な比較に向けられがちであ り、自分よりもはるか上位にいる人々に対しては想像上の自己同一化すら行われることも 稀ではないからであろう。
当初分配についてもう少し具体的に説明しよう。 企業の収益(生産された付加価値)は、 通常、内部留保、株主への配当、経営者への報酬、被雇用者への報酬(給与・賞与・福利 厚生費等)の四つに分けられる。 収益全体に占める被雇用者(労働者)への報酬の割合は 「労働分配率」と呼ばれる。 近年の日本では、企業が内部留保を増やし、人件費を抑える 傾向がつづいており、労働分配率は低迷している。
(齋藤純一、不平等を考える、ちくま新書、2017.3.10, P130-131)

JR中央線で、新生銀行の0.3%の利率の預金宣伝が掲示されていました。
興味を引いたのは、小さな文字で税引き後は、0.23..%と書かれていました。
20数%の税金がひかれることがよくわかりました。

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