「Long Long Love Song」サブスク解禁に寄せて
key25周年を記念し「Key Sounds Label」よりサブスク解禁が発表され、その第一弾として先日42作品の配信が開始された。
ラインナップとしてはKey1作目となる「Kanon」、現状フルプライス作品としては最も新しくアニメも控えている「Summer Pockets」、そのおよそ中間の「リトルバスターズ!」の関連作に加え、コアファンから支持を集める「Love Song」シリーズという内容。個人的に幅広い世代に刺さるであろう、かなり隙のない布陣だなと思った。
このご時世、CDを買ったりダウンロードしたりというのは、なかなかハードルが高いだろう。サブスク解禁をきっかけに、ヘブバンで初めてKeyに触れた人にも、是非いろんな楽曲を聴いてほしいなと思う。
「Love Song」シリーズとは麻枝准が手掛けるコンセプトアルバムのシリーズで、タイトルからも分かるように「恋」を主題としている。幻想的に悲恋を歌う名盤と名高い「Love Song」、滅びゆく惑星を舞台に壮大な物語を紡ぐ「終わりの惑星のLove Song」、そしてシンガーソングライターの熊木杏里を歌い手として迎えた「Long Long Love Song」の3作品を主としており、この度配信開始となった。
どれも名盤だと思っているが、個人的に「Long Long Love Song」は特に思い入れがあり、これを期にその思い入れを言語化しておきたいと思った次第です。
以下、曲ついて少しずつ雑感を。
1.僕らだけの星
歌始まりのキャッチーな曲。アルバムの幕開けにふさわしいなと思う。熊木さんの優しさの中に憂いを帯びたような歌声が、過去を懐かしみながらも前を向く歌詞に、ぴったりだなと思う。
2.Bus Stop
おそらくこのアルバムで1番人気な曲。郷愁を感じるメロディーとアレンジ、そこに歌声が見事にマッチしてると思う。そしてキラキラした思い出と一緒に"君"を置いていく心情と、故郷の情景を儚げに紡ぐ歌詞が、切なさをいっそう増長させてるように感じる。特にラスサビの、ストリングスが合流するあたりからの、エモーショナルな破壊力が凄まじい。
3.小説家とパイロットの物語
全体的に牧歌的な雰囲気が漂う3曲目。 この曲の熊木さんの歌声が1番かわいらしいと思う。歌詞の「コーヒーを飲みたいな あくびしたらきみが淹れてくれる」や「きみが好きだった きちんと整頓もできないと怒るところだって」などから、ヒロインの生活感をリアルに感じられる。それでいて何年も"きみ"を待つ姿は、健気でとても魅力的だなと思う。間奏のフルートはとても綺麗で、"あたたかみのある寂しさ"みたいなものを演出してるように感じた。
4.Rain Dance
田舎の夏を想起される曲。アップテンポで透明感のあるサウンド。それでいてうじうじとした少女の心境を歌っていて、そのアンバランス感が面白い。相合傘がしたくて雨を願うなんて、とてもいじらしいなと思う。
5.約束の唄
打って変わってファンタジー色が強い楽曲。6/8拍子のミドルテンポで、アレンジも比較的壮大な感じ。歌詞カードに載っていないアウトロの歌詞で、約束を回収していくのがずるいなと思った。
6.きみだけがいてくれた街
おそらく1番賛否が分かれるであろう曲。7分越えのバラードで、アコギのみのシンプルのアレンジというのは、けっこう強気だなぁとは思う。でもそれがかえって熊木さんの声にハマっていて、物語性の高いこの曲への陶酔感を高めていると思う。麻枝がこの曲で描いたのは、壮大な人生における諦念感であり儚さ。"きみの居ない世界になんの意味があるだろ"と嘆いても、それなりに生きていくのが現実で、過去に囚われていても時間は流れていく。
7.taie of the tree
一本の木と人間の物語を描いており、それ故ちょっとファンタジックに感じる。マンドリンの音色が美しく、幻想的な雰囲気を作り出していると思う。歌いづらそうではあるけれど、曲としては綺麗に纏まってる印象。
8.光の行方
シンプルにかっこいいなと思った。それにつられてか、熊木さんボーカルもややパワフルに感じる。けっこう荒々しくて、ラスサビは手数の多い激しいドラムが鳴り響く。そんなラスサビへ、Cメロの微笑ましいフレーズから突入するギャップに痺れる。
9.銀色世界
冬の醸し出す寂寥感がたまらない。派手さは無いアレンジだがそれが良い、しんしんと降る雪の物寂しさが身に染みるように伝わってくる。「いつになってもこのメールは届かない」というフレーズが切ない。"きみ"への思いも、募る寂しさも、すべて雪は覆い隠してしまう。ラスサビはまさに、雪に覆われた銀色の世界が広がる様で、曲に引き込まれる感覚をになる。そしてこの曲の終わりには、CDに収録できなかったinterludeが加えられている。このinterludeが有るのと無いのじゃ、アルバムの印象がちょっと変わってくるなと思った。それくらい美しく、曲と曲を自然に結んでくれる旋律。麻枝が自画自賛するのも納得できる。
10.End of the World
TVアニメ「Rewrite」のOPテーマ曲。アニソンらしくキャッチーで疾走感がある。歌詞は完全に「Rewrite」の内容に沿ってるけど、意外と浮いていない気がする。そう考えるとやはり「Rewrite」は"ただひとりの少年の恋物語"なんだなと思った。個人的にアウトロの旋律がめちゃ好みです。
11.汐のための子守唄
「Rewrite」からの「CLANNAD」です。「願いが叶う場所」にボーカルが付いた楽曲。故に思い出補正がめちゃくちゃ乗ってしまう。それを差し引いても、熊木さんの歌声がとても映えており、ここでこの曲を持ってくるセンスが流石だと思う。
12.Supernova
ここに来てトランス系の三拍子で、「魂の仕組み」の初出の曲。この曲も熊木さんの歌声が映えていると思う。サビ終わりから打ち込みのビートが入り始めるところ、シンプルに気持ちよくなる。もっとバキバキにしてほしいとも思ったけど、そしたらボーカルとのバランスが崩れそうだし難しいなと思う。
13.Love Songの作り方
"ふたりには夕凪を"のフレーズから紡がれる最後の物語は、これまでの別れや諦めなどを歌ってきた淀みをすべて解き放つ、圧倒的な多幸感に満ち溢れている。これまで歌われた物語を回収していく歌詞は、思わず感慨深くなってしまう。大サビのカタルシスは凄まじく、"最高の人生が待ってるよ"という希望に溢れた歌詞は、万感の思いがこみ上げ、沢山のコーラスが加わるフィナーレは感涙を禁じ得ない。
どうでしょう。だらだらと書いてしまいましたが、僕的にはこのアルバムの魅力を再確認できた気がします。
因みにこのCDの初回限定盤には、特典として『「Long Long Love Song」制作日誌、時々入院』という冊子が封入されている。そこに綴られているのは、文字通り生死の境を彷徨った麻枝准の苦しみと、思うように動かない身体を抱えながらの過酷な制作過程だ。その赤裸々な文章はショッキングではあるが、同情を誘う内容ではなく、寧ろ制作への熱量を感じる内容だったと思う。そんな麻枝准が作る作品には、自然とその熱量が帯びるような気がする。その熱量に僅かにも触れてしまったが故に、いくら麻枝自身が自分をオワコンだと嘆いたとしても、彼の作る作品を追い続けたいと僕は思っているのかもしれません。
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